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帰れない二人

最近noteの『お題』を気にして見ています

『#はじめて買ったCD』


すみません

私がはじめて買ったのはCDではありません


私は昭和38年うまれ
〝昭和〟が前の前の年号になってしまったので
分かりにくいですね
1963年です

1970年代の中半
小学4年生から中学1年生まで
返還されたばかりの沖縄にいました
父親の転勤で東京から引っ越して行ったんです
沖縄海洋博の時ですね
…この説明がスッとわかる人も50代以降でしょうか


小学生の私から見た当時の沖縄は
まだ車が右側通行で
店の看板が横文字でカッコよくて
やたらとでっかい〝外車〟が普通に走っていました

同級生の家へ遊びに行くと
袖無しの涼しげなワンピースを着たおばあちゃんが
チャチャッと〝ザ・アメリカン〟な
ハンバーガーを作ってくれて
たまらなく美味しかったこと!

学校の先生は〝内地〟から来た私たちに
何かと気を使っている感じでした
校庭は赤土
近隣の建物が真っ白で
ただでさえ眩しい太陽と空のギラギラが
倍増して目に刺さってきました

毎回授業を中断させるほどの爆音
米軍機の通りすぎる轟音は
今でもはっきり覚えています

戦争
協定
本土復帰
基地

そういう言葉の数々の意味や重さが
全くわからないまま
『異国っぽい沖縄』が〝なんかカッコいい〟という
そんな程度の認識で暮らしていました


全体的なぼんやりとした印象が
〝明るい〟のか〝暗い〟のかよくわからない

それが当時の一番の印象かも知れません


そんな中
10歳そこそこの私が
わざわざ母に連れて行ってもらったレコード店
目当てのものは

井上陽水の『心もよう』シングル盤

なぜ私がその曲に到達したのか
全く記憶がありません
ラジオを聴き始めたのは中2ぐらいからなので
情報源としてはテレビだけです
テレビの音楽番組で見て
心打たれたのでしょうか

小学生の私が
〝さみしさのつれづれに……〟

どうしちゃったんでしょう



レコード店の店内で
母とひそひそ声で話しながら探しました
すぐに見つかり私が手に取ると
二人ともしばし沈黙
ジャケットに目が釘付けになりました

雑なアフロヘアで俯いてたたずむ陽水


〝……ほんとにコレいるの?〟

その母の声に我に返った私
そっとレコードを元の場所へ戻しました


すみません

はじめて〝買ったレコード〟の話でもないですね



今ならもちろん買っています
数年後の中学生時代にはコンサートへも行きました
はじめて行ったコンサートだったと思います

あれから50年近くの月日が流れているのに
母とのあの沈黙の瞬間の空気感
目に焼き付いた陽水の風貌は忘れません
ネット検索をしてみると
ほぼ完全に記憶通りでした

そしてあの沖縄のムッと来る熱気や眩しさ
自転車で買いに行ったチュッパチャプス
自販機のドクターペッパー
公設市場の独特のにおい
五感で感じた諸々が思い出されました

きっと井上陽水と沖縄を結びつけている人なんて
いないと思います

でも
私にとっての陽水
私にとっての沖縄が
あの母といたレコード店での一瞬に
込められているような気がします









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