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銀ちゃんといっしょ 29

こんどさんはゆっくり

おまえはいいよな
丁度いいよな
太ってもなくて痩せてもなくて
丁度いいよな

こんどさんからの最高の褒め言葉
後にも先にも
人を褒めるような発言を聞いたのはそれだけ
元々口数の多い人ではなくて
こんな長文は初めてでした

35年以上前の話

その台詞をどこで言われたかは覚えてないけど
その時の空気感ははっきり覚えてます

専門学校の1つ上の人
科は違うけど
その飄々とした雰囲気の〝こんどさん〟の
大ファンでした
恋愛感情とは違う
アイドルを好きになるみたいな感情

どんなきっかけで話し始めたかとかは
全く記憶にないけど
当時はそんなに大きくもない学校だったから
行けばどこかでは会えるから
ウキウキして通っていました

遭遇した時はその基本的に無表情な顔を
少しだけ笑顔にしてくれて
真正面から両肩をポンポンと叩いて
〝マ~ボちゃん〟って一言
それがメインのリアクション
ほとんどそれだけ


横須賀に住んでる事
団地暮らしみたいな事
おしゃれなオープンカーに乗ってる事
お母さんがシャツを手作りしてくれてる事
どうやって聞き出したのか
そんな事は情報収集できていました

〝いつかオープンカーに乗せてくださいね〟
〝うん 今度ね〟

〝私もシャツを作りましょうか?〟
〝うん 今度ね〟

いつもなんでも〝今度〟って

ある日 午後から雨になった日
こんどさんがすごく困った顔をしてる…
すごくって言っても
わかる人にしかわからないくらい
〝車の屋根…〟
オープンカーの屋根を
オープンにしたままだったらしい
翌日 聞くと
〝そーっと手をパーで入れたら水が溜まってた〟
〝グーチョキパーってやってみた〟
って……
ゆ~っくりと話してくれました

自分が喋り出したらせわしい人間だから
そういうゆったりした人に惹かれてしまう
でもほんとは途中でイライラしてくるから
口を挟んでしまう感じ
こんどさんは長文じゃないから
ニコニコして聞いて おしまい

またある日
もうすぐ授業が始まるって時に
何気なく入口を見たら
こんどさんが立っていて

〝どうしたんですか~?〟と行って聞くと
〝ハンズに一緒に行ってくれる人がいない〟と

決して
〝だから一緒に行こ〟とか
〝行って〟とかは言いません
先生はもう来ていたけど
授業の荷物はそのままで
先生にニッコリしてから出て行きました

私にしたらアイドルと一緒に歩けるんですから
授業なんてどうでも良いです
明け方までかかった宿題の作品もあったけど
提出して評価を聞くために前に貼られたまんまで

楽しくてたまらない道中でした
ずっと歩いていたかった
ハンズまで行って
こんどさんの目的の物を買って
元来た道を折り返して
何組か同じ学校の学生に会ったりして
〝腕組んで歩いてた方が良かったかな…〟
とか言いながら

帰りに学校近くのお店へ
こんどさんが黙って入って行ったから
ご褒美でも買ってくれるのかと思ったら
自分の肉まんを1つ買って出て来て…

いいの
いいの
こんどさんだから許される

教室の前で〝ありがと〟って
それだけで充分

戻った私に先生が
〝評価聞くのか?〟と…
〝はい!〟って明るく言って
真面目に聞いて
いっぱい褒めてもらって
最高の日でした

五十路のこんどさん
どんな感じになってるだろう
〝あいつは結婚できない〟って
みんなに言われてたけど

…人に対して執着がない
自分の事しか考えてない

でもそういう人に限って
素敵な女性にしっかり捕まってたりするし
子煩悩になってたりする

あんな人のコピーのような男性が
世に送り出されていたら
私のような物好き女は
楽しいひとときを過ごせると思う

35年以上前の話

今 我が子たちがその年頃
誰かを好きになって
キュンキュンしたりしてるのかな

〝あーちゃんは勉強しないで
キュンキュンばっかりしてたぞ〟
って言ってみようか

正直
キュンキュンだけの日々だったから…

きっとどの子も呆れた顔して鼻で笑うだけでしょう

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