最悪の結果「買い戻し」はこうして起こった~実例から学ぶM&Aノウハウ②
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M&Aの現場では実際にどんなトラブルが起こるのか、その乗り切り方、経験者の後悔や反省など……過去の事例を読み解いて得られた教訓を、これからM&Aにのぞむ皆様へお届けする連載です。
貴重な事例と支援ノウハウを教えてくださるのは、売り手支援歴20年のプロ・ブルームキャピタル社の宮崎代表です。
宮崎淳平 株式会社ブルームキャピタル 代表取締役社長
ライブドアグループ、株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社社楽にてM&Aアドバイザリー業に従事。その他にもプライベートエクイティ投資案件、資金調達案件、及びファンド組成・運営を多数経験。2012年にブルームキャピタルを創業。同社は会社売却に特化した日本随一のファームとして知られている。『会社売却とバイアウト実務のすべて』著者。
▶M&A BANK出演動画 ①「売り手専門アドバイザー登場」②「新体制!M&A BANKに「あの方」が顧問として帰ってきてくれました」③「売り手の味方!あの名アドバイザーに聞くM&Aノウハウ」④「成立したばかりのM&Aを振り返るZOOM座談会」
リスクを甘く見たディールの「最悪の結末」
ーM&Aでリスクの管理に失敗すると、最悪のケースではどんなことが起こるのでしょうか?
一番ひどかったのは「事業計画が正しいこと」を表明保証してしまって、結果的に買い戻しになった案件ですね。弊社ではない別のM&A会社経由で売却され、その数か月後にトラブルになって私に相談が来た案件でした。
お話を伺って、「M&Aのプロが入っていたはずなのに、こんなことが起こるのか」と愕然としましたね。
この案件では、売り手が期をまたいで計上すべき売上を前の期にすべて計上していた、といった会計ミスがあったそうです。そうすると前期の売上や営業利益が実態より大きく見えますよね。それをディールが終わってからつっこまれ、買い戻しをしろと買い手に迫られたという話でした。
私はM&Aのアドバイスをするプロですから、こういったトラブルを防ぐ配慮はできますが、起こった後はもはやリーガルマターです。
確かに対象会社側の会計処理に間違いはあったとはいえ、買い手もDDの際に調べるべきですから、ディール成立後にわかったからと言って買い戻しを請求するのは常識的に考えてやりすぎです。
また、非常に分かりやすい会計ミスなので、買い手側も実は分かって買収していた可能性があります。穿った見方をすれば、業績が悪くなったらこういう条項を行使して損失を回収してやろうと考えていたかもしれない。
訴訟になれば勝てる可能性もあると考えて弁護士を紹介したのですが、結局表明保証条項に入れてしまっていたため売り手の分が悪かった。
しかも買い手側大企業の担当がけっこう有名な社長で、彼に半ば脅しをかけられて、結局売り手は買い戻しに応じることにしたそうです。
なんでも「俺の知り合いはみんな繋がっている。こういうところで義理を欠いたらビジネスどころではなくなる」というようなことを言われたようです。
ひどい話ですが、このようなことも稀に起こるので注意が必要なんです。弊社ではそういう企業を「要注意買い手企業」として整理して、そういった会社には紹介しないように努めています。
ーどうすればこのような事態を防げたのでしょうか?
まずは会計のミスが発生しないようにするべきでしたし、売却の際にも改めて間違いがないか確認すべきでしたでしょうね。
できれば早い段階から、優秀な税理士さんに「将来M&Aをする際に問題にならないように」と伝えたうえで会計処理をお願いしておく。
それが間に合わなければ、売り手側で事前にDDを行ってリスクを検出したり、税理士さんに「『一般に公正妥当な会計原則に従って会計帳簿が作成されている』という表明保証をさせられても問題ないか?」と念を押したりしておくのも重要かもしれません。
他方で、一切ミスがない状態にするというのも現実的には難しいので、表明保証条項の内容を吟味して交渉していくことも必要になります。その場合、表現はかなり注意して選びましょう。
たしかに、提供した情報が「正しいこと」を保証するのがが理想的ではありますが、実際問題保証しきれないこともあるかと思います。最善を尽くしてはいるものの、そういった不安が残る場合には「(売り手の)知りうる限り正しいこと」といった表現にとどめることもできます。
なぜ「最悪の結末」を迎えてしまったのか
ーそもそも、なぜ売り手さんはそんな条項を受諾してしまったのでしょうか。
・原因は『単なる見落とし』だけではない?
・M&Aで『買戻請求』ってどうなの?
・不利な契約を結んでしまった場合の対処法