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お子様ランチの旗職人

白樺の香りが立ち込める静かな六畳間
削り出された長さ60mm、太さ1.2mm
の一本を手に取る
鋭利な先端は簡単に食べ物の形を崩すことなく滑らかに刺さり
かと言って大事なものは傷つけない柔らかさ
反対側は10mmに満たない長さで各社の意匠が凝らされる
我が国の誇る最安の芸術品

そこに巻き付けるのは我が国の誇り
縦30mm、横45mm
純白の中心に真紅の太陽
清廉潔白さと熱き魂を持った我が国民の精神性そのものではないか

私の作った旗に
どこかで子供たちが瞳を輝かせる
その姿を夢想して
同じ99本が並んだ箱に最後の一本を収める

コンコン

「どうぞ」
言うが早いか顔馴染みが家に入ってくる

「お子様ランチの旗職人、仕事は終わったか?」
「祝日にバスがつける旗職人じゃないか!今ちょうど終わったところさ。あんたは?」
「ワシもバス会社に納品してきたわい。まあ、使われることはないかもしれんがの」
「そりゃ、お互い様だな」
「これで慰労会といかんか?」
「そんな良い日本酒!どこに持ってたんだよ」
「シッ」
「いけね!日本も、酒も禁句だったな。米でできた飲料、大好きなんだ。コップ用意するからちょっと待っててくれ」

コンコン

「おいっ!隠せ!」
「大丈夫、アタシよ」
「何だ、万国旗職人じゃねえか」
「暇でしょ、仲間に入れなさいよ」
「万国旗職人はまだ仕事あるだろうが」
「レインボーフラッグだけの万国旗が仕事ですって?あんなの誰にだってできるわ。アタシは国の並べ方にプライド持ってきたのよ」
「もう、どの国も無くなってしもうたからなあ」
「多様性、多様性ってみんな言ってたら、一つだけになっちまった」
「アタシたちが昔悩んでたこともなくなって、平等に奪われて、平等に与えられた」
「家族も、思想も、言葉も」
「これも使えなくなる前に、歌いましょ」
「カラオケマイクなんて、こりゃあまた懐かしいもんを」
「歌も、詩も、奪られてもね」
「そうだな、酒飲んで、歌い明かそう」

仕事がない、酒がない、争いがない、素晴らしい世界に、乾杯

家族がない、恋人がない、差別がない、素晴らしい世界に、乾杯

歌がない、詩がない、痛みがない、素晴らしい世界に、乾杯。

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