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頂きの音 ーショートショートー

妻がApple Watchを使い始めて2年。
スマートウォッチなんて要るかな、と言っていたが気付けば連絡を取る、スマホを探す、交通系電子マネーとして使う、音楽再生アプリを操作とフル活用。
睡眠時の健康管理も行うので寝ている間も装着。入浴中に充電するときを除けば手放せない、いや手首放せない存在になっている。
「便利だから買ったら?」
そう、妻に言われるのだが問題がある。
ライトモデルでも34,800円の値段、ではない。
私は
Apple Watchに
興奮するように
なってしまったのだ。

妻とセックスをしていたときのこと。
ピピッ
電子音が聞こえた。
妻は私の下でそれに気づかない。
その後も何度かセックス中に電子音が聞こえることがあり、とうとう妻に尋ねた。
「今、何の通知が来てるの?」
「心拍数が急に上がって、危険だって鳴ったみたい」
Apple Watchを見て妻は笑った。
「じゃあ今、イったってことだ!?」
セックスの上手さ、というのは極めて主観的でありながら、男にとって重要なステータスである。
「イった」「気持ちいい」
その言葉を聞いて満足する一方で、
「女子の9割は演技してるってマジ!?」
「オナニーならイケるけど、彼氏とのセックスではイケない!」
そんな流言飛語を、ネットでも、雑誌でも見かけるたび、果たして妻は演技をしているのでは、という一抹の不安感が胸に去来する。
今、
ピピッ
Apple Watchの通知音で妻の絶頂が客観的に証明された。
その夜、いつもよりApple Watchが鳴ったことは言うまでもない。
私はそれから、指を、舌を、腰を動かす度に鳴るApple Watchに満足と、異様な興奮を覚えるようになった。

そんなある日、赤信号に変わった直後、急加速した一台の黒いバンが歩道に立つ私と妻の目の前を、けたたましいクラクションを鳴らしながら通り過ぎた。
大きな音と命の危険に身をかがめた瞬間、
ピピッ
と妻のApple Watchが鳴り、
私は
勃起していた。
妻が絶頂する度に鳴るApple Watchの通知音を聞き、興奮していた私の体は、Apple Watchの音自体に興奮するようにできあがっていたのである!
次第に守備範囲は荒木・井端の二遊間のように広がっていく。
自分のスマホから鳴った音で勃起、
改札を通りながら勃起、
自動販売機で飲み物を買って勃起、
電車の発車メロディで勃起。
あらゆる音が私を興奮させた。

どうやって生きていけばいいんだ、
呆然としながら歩いていると信号は赤。
パパーッ!!!
私は勃起しながら跳ね飛ばされていた。



ピッ
「血が止まりません!」
「心臓に負担をかけるな!」
目がよく見えない。
医師と看護師が私の周りで慌てている声、に混じってハッキリと
ピッ
ピッ
「鎮静剤!早く!」
「くそッ!何で勃起しているんだ!!」
ピッ
ピッ
ピッ

その、心電図

モニターの音を

止めて

ピーーーーー
ビュビュビューーーッッッ!!!


感想

本日日暮里で開催された「笑いのスラム」にて、こちらを読んできました。結果は勝利!
2回戦でも勝ちましたが、残念ながら決勝敗退。
大喜利もやったのですがそちらは全然ですね。ほんとに難しい。

次のイベント出演は5月4日新宿!来られる方はご連絡ください!

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