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チンチン電車の詩

戦争の話をします。
話聞きたくないという人は画面を閉じてください。



全校生徒160名の
山の上の小さな小学校の
小さな図書館で
小学三年生の私が見つけたのは
『チンチン電車の詩』
という本だった。
チンチンだって!
と浮かれてページを開いて、戦争の話だと気付いて
被爆、白血病、家族を失う恐ろしさ
絵と内容に酷く傷つき
最後まで読み進められなかった。
二年後、『はだしのゲン』から読み続け、そのシリーズとして『チンチン電車の詩』を読んだ時、ようやく優れた作品として受け入れることができた。



覚悟してみるべきもの。

高校の時、日本史の授業に先生が南京大虐殺の写真集を持ってきた。
見たくない人は机に顔をつけて目を閉じていてくれと言い
先生は写真集を開いて
日本史選択の20名の机の間を歩いた。
白黒の死体はリアリティがなくて
衝撃で言えば小学三年生で出会った中沢啓治の漫画の方が大きかった。
ただ
先生が見たくない人に配慮して資料を見せるというその時間には特別感があった。



覚悟してみるべきもの。

祖父が死んだ時も
祖母が死んだ時も
第一報は電話だった。
実家に向かう時間で死に向き合う覚悟をしていたから、
死を悼むことができた。



覚悟してみるべきもの。

毎日見ているSNS、
仕事の愚痴、
今日できた詩、
LIVEが良かった、
政治への不満、
明日のMCバトルの見どころ、
眺めている中に
突然
ぐにゃりと曲がった女性の死体や、
何十人も並んだ裸の死体、
そのカラーの写真や動画がいくつもいくつも回ってくるようになった。
世界で何が起きているのか、
それは知りたいが、
覚悟なしに見てはいけないものだ。
「このポストに興味がない」を押す。
興味がないわけではない。
ただ、
昨日のLIVE
友達の婚姻届
昼食のラーメン
と同列に死体を並べたくない。

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