日記:採血の風景ぐるぐる
健康診断で採血を受けた。
看護師に、以前具合が悪くなったことがあると伝えると、奥の部屋に通され、台の上で仰向けになっての採血となった。
待合室の騒がしさが伝わってくる通常の採血室とは異なり、ここはあたたかな水の中にいるみたいに静かだ。天井のライトは見上げた太陽のように光をきらきらさせている。台を囲む黄色いカーテンのやわらかな雰囲気に誘われて、すぐに眠気がやってくる。
「チクッとしますよ」ぼやぼやしているうちに採血が始まっていたようだ。膨らみきった風船に針を刺したみたいに、ぼくは目を覚ました。くらっとした。しかし倒れるおそれはない。安心感がぼくの背中をさする。どうやら、通常の採血で倒れそうになるのは怯えすぎているせいらしい。
「では、しばらく横になっていてくださいね」看護師は他の部屋へ去っていった。ふたたびの眠気。耳を澄ますと、他の部屋の物音がきこえてくる。カーテン越しだからか、やけにやわらかな響き。保健室のひよこ色のベッドで体育の喧騒に聞き入る、子どもの自分を客観的に見ている映像が浮かび上がる。あれ? これは本当にあった記憶なのだろうか? カーテンの隙間から差し込む光を反射した埃の粒がふわふわと舞っている。どうして授業を抜け出してきたんだっけ? 校庭を走り抜けるサッカー少年の姿。華奢な脚を巧みに捌いて、小石を蹴散らして、ボールを追って……白と黒がまわって、混ざり合う。少年はボールに何を見ているだろう?
……と書いているうちに自宅の最寄駅だ。没頭は時間を忘れさせてくれるからよい。
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