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バーゲンのおもいで

「明後日バーゲンだから!」

明るすぎる夏の昼間、神田駅付近の交差点を歩いていたら、ふいにフラッシュバックしたこどもの頃の記憶。
リビングから見えるキッチンにむかって、忙しそうに皿を洗う母から聞こえてきた「ばあげん」という謎の言葉。なにかが始まるらしい。嬉しそうな様子から察するに、きっとなにか楽しいイベントなのだろう。

……

記憶を深く掘り起こそうとするたび、白く光る煙があふれ、めまいを誘う。

……

どうやってここまで辿り着いたのか、まるで見当がつかない。母と手をつないで歩いていた。母のとなりには親戚の姿。路面がやけに近い。左手には高い壁。しばらく歩くと正面に行列が現れる。
「ここから並ぶんじゃない?」と母。長く続く列にディズニーランドのアトラクションを思い出す。なにか楽しいものが待っているに違いない!

……

こども用の遊具が並んだ、ここは託児所。地続きになっていない記憶に戸惑いながら、奥へと進んでゆく。いじわるなこどもが、すべり台の階段の上で、通せんぼをしている。騒ぐ声が、遠い嵐のようにさざめいている。ぼけた光の粒子が大きくなったり小さくなったりする。ばあげん、は?

(思うに、おそらくここは伊勢丹だ。さっきの行列は髙島屋だから、記憶が混ざってしまっている)

……

広い広い階段の踊り場、壁面に小さな入口。中に入ると、喫茶店があらわれる。カウンター席には様々なものが置かれている。談笑する人たち。秘密基地みたいだと思う。

(大人になってから行った百貨店に、これとまったく同じ構造の場所があった。メロンフロートを頼み、ぼんやりした)

……

百貨店の裏手の出入り口。すぐ目の前で父がタバコを吸っている。通りには傘をさす人々。ぼくは段差に腰掛けている。「おまえを殺そうと思えば、いつでも簡単なんだよ」と父。

灰色の路面が、雨をうけてきらきら光っている。

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