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海の見える旅館で2泊3日の貸切結婚式を挙げた話③

旅館「桐のかほり 咲楽」での結婚式に向けた最大のミッション。


ありとあらゆる私たちの希望を叶えてくれたスタッフのみなさんを一番驚かせ、困らせてしまったわがままはなんと言ってもお祝い膳のメニューだった。

和洋折衷でお願いした料理長オリジナルメニューに、「私たち夫婦が釣った魚」を使って欲しい。

このスタッフさんたちならもしかして……と完全に調子に乗った釣り好き夫婦からのとんでもないお願い。

そもそも伊豆は以前から夫婦二人で釣りに来ている思い出の場所でもある。

だから、宿に到着する日の午前中に釣りをして、釣った魚を持ち込むことはできないか。
できるなら厨房の一角をお借りして下処理も自分たちでやらせて欲しい。


いよいよわがままも大概にしろというレベルのこの提案に、Tさんは嫌な顔ひとつせず「面白いです!前代未聞です!やりましょう!料理長に相談します!」と言ってくれた。

今だから言えるけれど、正直私はその時「あ、私たちに嫌な思いをさせたいために言ってくれてるな。『相談はしてみたんですが…』って断られるパターンだな」と思っていた。

だから次の打ち合わせでTさんから実に軽妙な口ぶりで「料理長のOK出ました!僕まで楽しみです!」と言われた時は心底驚いた。
Tさん、見くびっていてごめんなさい。
(ちなみに夫はTさんは絶対にどうにかしてくれると思ってたよ、と飄々としていた。)

とにかく本当に、この人たちはすごい。


最高のスタッフのみなさんのおかげで大きな不安もなく準備期間を終えた私たち夫婦にとって、唯一と言っていい心配事は滞在期間中の「天気」だった。

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窓辺に飾ったてるてる坊主の効果も虚しく、当日が近づくにつれ降水確率は70%、80%とぐんぐん高まり、旅館周辺の天気予報にはずらりと雨マークが並んでいた。

旅館で過ごす時間と神前挙式は室内だからいいとして、洋装のロケーションフォト撮影は困る。

室内で撮影できる別の場所もご提案いただいたけれど、「海で撮る」という前提で選んだ衣装やヘアメイク、小物を思うとなかなか気持ちが切り替えられない。

いっそ雨でも海で撮ろう!と小道具として可愛い傘を買い、開き直ることでモチベーションを保っていたけれど、そもそも天気が悪すぎるとせっかくわがままを言った釣りにもいけなくなってしまう。


そんな不安を抱えながら、いよいよ伊豆での結婚旅行が始まった。



早朝から釣りをするために伊豆に前乗りしていた私たち夫婦が目を覚ましたのは早朝3時半。

天候は、曇り!

なんとか釣りに行けることになった喜びを噛み締めながら、仕立船(貸切船)に乗り、ほんのりと明るくなってきたばかりの伊豆の海に出航した。

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「お祝い膳の食材調達」という重要なミッション。

朝日できらきら光る水面を見ながら私が考えていたことはたった一つ。

「釣れなかったらどうしよう」である。

万が一釣果がなかった場合は、急いで食材の仕入れに行ってもらう手筈になっていたものの、そんなのかっこ悪すぎる。

こんなわがままを言っておいて「何にも釣れませんでした」なんて、情けなくてTさんにも料理長にも合わせる顔がない。


そんな私の不安を他所に、魚は釣れた。

型のいいアジ、イワシ、サバ、キダイ。
それはもうたくさん釣れた。
すでにクーラーボックスは満杯に近い。


ここで私の頭に新たな不安が浮上する。

「地味すぎる」という不安である。


お魚たちに罪はない。
食べれば間違いなく美味しい。

でもこれは一生に一度のお祝い膳である。

アジ、イワシ、サバではちょっと豪華な庶民の夕食感が強すぎるのではないか。
まあ、庶民派の我々のお祝い膳にはこのくらいでちょうどいいか。


そんなことをぐるぐると考えながら迎えた釣りの終盤。
神様からのギフトは突然届いた。

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とんでもなく巨大なアマダイ(55cm)!

釣り好き界隈では、自分が釣り上げた魚のうち最も心に残るものを「メモリアルフィッシュ」と呼ぶのだと夫が教えてくれた。

この先どんな大物を釣り上げることになっても、私の人生のメモリアルフィッシュはこのアマダイだと思う。


最高の釣果を積み込んだ車で、私たちはいよいよ「桐のかほり 咲楽」に到着した。

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生憎の曇り空だということを差し引いても、初めて訪れた「咲楽」は素晴らしかった。

小高い丘の上から一望できる海は本当に壮大で、ようやくお会いすることができたTさんのねぎらいを受けながら、こんな素敵な場所に2泊3日滞在できるという幸せをしみじみと噛み締めていた。


その感動も束の間、私たち夫婦は慌ただしく魚の下処理に取り掛かる。
なんとしても両家の家族が到着するまでに魚たちをどうにかしないといけない。


ここからは滞在中カメラマンさんに撮っていただいた写真もご紹介していくが、結婚式の撮影データが魚の写真から始まるのも私たち夫婦くらいだと思う。

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ここで咲楽の料理長とも初対面を果たす。

素人の私たちが仕事場に入ることを許してくださった寛大さから、私は勝手に「大将」的なキャラクターの方を想像していたのだが、実際お会いした料理長は物静かで、控えめで、本当に気配りの行き届いた素敵な方だった。

ご自身のお仕事を黙々とこなしながら、慣れない量の魚の下処理に苦戦する私たちを気遣って必要な道具をさっと貸してくださったり、調理方法についてもとても親身に要望を聞いてくださった。

滞在期間中食べたお料理はどれも繊細で、気配りが行き届き、料理長のお人柄そのものを表したような極上の味がして、今でも忘れられないものばかりだ。


なんとか時間ギリギリで下処理を終え、今回私たち夫婦が滞在する「海の庭」というお部屋に案内していただくと、そこは想像していた以上の空間だった。

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目の前に広がる海岸線。

しっとりと落ち着いた調度品。
気の利いたアメニティ。
各部屋についた露天風呂。

最高だ。夢みたいだ。

バルコニーのハンモックに揺られ、お風呂で釣りの疲れを癒しながら、きっといい結婚式になるという確信に近い予感がした。


▼海の見える旅館で貸し切り結婚式を挙げた話④へ続く


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