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新婚旅行記 二日目

早朝、テレビが勝手に点くという怪奇現象で目を覚まし、そのまま起きてしまった。恐怖心と言うよりは、子供のイタズラに呆れる親の気持ちである。どうせ朝めしを食べたらチェックアウトするのだからもはや部屋のことはどうでもいいという心地がした。

朝食はホテルのバイキングである。空港直結のホテルなので、各航空会社のパイロットやキャビンアテンダントもそこで朝ごはんを食べていた。中にはどこの国だかわからない航空会社もあった。
その中のCAのひとりがやたらとデザートに迷っていたのが印象的であった。現場では瞬時に的確な判断を下す人でも、日常では人間らしい迷いを持っているものだなあと思った。

私ははじめての海外旅行ということもあり、何かと緊張気味であった。という表現は控えめであり、実際にはこの旅行がうまくいくかどうか不安で心配でたまらなかった。

出国審査などは自動パスポート読取機を使うので案外スムーズであった。人と話す必要がないというのはそれだけでありがたい。手荷物検査でキーオーガナイザーがわずかに引っかかった時はかなり動揺してしまったが、結局キーオーガナイザーは持ち込むことが出来た。

国際線とは言っても、日本発の便であるから、ヘルシンキまでは日本語の機内アナウンスもちゃんとあって、英語の不自由な私にとってはありがたかった。

ヘルシンキまでは約10時間のフライトである。これまでの人生でここまで長いフライトの経験は無かったから、どんな不快な気分が起こるか不安であった。なによりも乗り物酔いによる気持ち悪さが1番嫌なので、離陸前から酔い止めの薬を服用しておいた。

機内は観光シーズンから外れているからか、席に幾ばくかの余裕があり、隣の席は空いた状態であった。この環境が実現したことで、快適さは大幅に向上した。知らない人が隣に座るだけで精神的に大きな苦痛を受けるものだからである。

暇つぶしの類は、良くも悪くもなく、といった感じだ。ただ、数独などのパズルがあったのは良かった。結局、頭を使うことが、1番早く時間を忘れさせてくれるのである。
薬の副作用も手伝い、フライトの4割くらいは寝ていたように思う。存外快適であり、満足できたフライトだった。ただしヘッドフォンの調子が悪く、なぜか音声が聞こえなかったのは残念だった。こういう時、申し出ることができればいいのだが、なかなか言うこともできず、結局そのまま機内の時間を過ごしたのだった。

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機内食はどのメニューにもそばが添えられていたのが面白かった。日本発着便だからだろうか。フィンエアーもたいしたものである。

ヘルシンキ空港に到着して、そのデザイン性の高さにたいへん驚き感心させられた。日本の空港にはない、統一感というか、洗練された空間に迎えられたので、わくわくする気持ちが湧いてきた。洗練されて調和のとれた、温もりある木のデザインは、思うに北欧デザインの核をなすものであろう。

一つ一つのデザインが洗練されているのはもちろんだが、それらが同一空間に存在した場合、お互いの存在が邪魔することなく自然に溶けあう。あたかもひとつの森のように、一つ一つが在って当たり前と言った感じになるのだから不思議なものだ。そういう空間は違和感がないから居心地がいい。乗り継ぎにはまだ時間があったので、少し空港の中をウロウロした。

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トイレにも寄ったが、トイレまで洗練されており流石であった。


1番気になっていたのは、ちゃんとクレジットカードが使えるかどうかだ。正式に言うと、私はデビットカードを使おうとしていたのである。事前情報では海外でも使えると説明されていたが、どうやって使うかが1番不安であった。1回どこかで試しになんでも使ってやればいいのだが、その勇気もなかなか起きずに、グズグズと引きずっていた。

とうとう夕ご飯を調達する必要が出てきて、コンビニのような所でサンドイッチと水を買った。レジの人も慣れたもので、私のカードを見るなり、やり方を教えてくれた。日本ではまだ少ない非接触型決済である。タッチするだけなのである。フィンランドではこの仕組みがかなり広くいきわたっている。こうして私の海外における初クレジットカード決済は無事に完了したのである。

乗り継ぎ前に、手荷物検査と入国審査がある。手荷物検査は問題なし。入国審査は自動機会で行えるため、やってみるまではドキドキしていたものの、やってしまえばどうということも無かった。

さて、ここからはフィンランド国内便に乗る事になる。ヘルシンキからロヴァニエミへ向かう。もちろん案内はフィンランド語と英語だけになる。フィンランド語は露ほどもわからないので、英語をなんとか聞きとろうとがんばった。
ヘルシンキ空港内には待合場所というのがあまり無く、むしろ待合スペースよりも飲食店の席の方が多いようだった。空いた席をなんとか見つけ、乗り込みを待った。


飛行機は小さめのもので3人席が左右に並んでいるタイプのものだった。今回も乗客は少なく私たちの隣は空いていた。
飛行機が動き出し、滑走路に入る。一気にスピードを上げていき、離陸する。この時日本で乗る同程度の大きさの飛行機よりも揺れは少なかった。また、3分くらいですぐにベルト着用サインが消えた。どうにも日本より安定するのが早いように思える。これが気候的要因なのかどうかは誰かに聞いてみたいものである。

フィンランドの現地時刻で夕方の16時くらいのフライトであるが、この時期サマータイムを考慮して日本との時差は6時間になる。つまり日本時間でいえば22時である。普段の生活であればもう布団に入って眠ろうかという時間だ。我々は規則正しい生活を送るように心がけていたので、これは厳しい時差ボケと言えるだろう。さらに薬の副作用が残っており眠くてたまらなかった。

1時間くらいでロヴァニエミ空港へ着いた。ちょうど空港の改装工事が終わったのか、新しい手荷物受取所へ通された。荷物は無事に到着した。とりあえず安心である。聞けばフィンエアーは信頼度が高くロストバゲージは少ないそうである。

ロヴァニエミはヘルシンキよりも寒く、日本から来た服装のままではとても外を歩けないから、スーツケースにしまっておいたコートをすぐに取り出し着用した。出口に向かうと、事前情報通り、私達の名前の入ったパネルを持つ現地ガイドさんが立っていた。日本人の方である。

初老の男性ガイドさんは空港からホテルまでタクシーで行き、チェックインのお手伝いをしてくれる算段を手早く確認した後、はてさてガイドさんが空港に戻るタクシー代は誰が負担することになっているのか聞いてきた。これは私も予想外の質問で動揺してしまった。なにせかなり高額な旅行代金は事前に支払ってある。その中には現地ガイドの人件費諸々も含まれているとの説明を旅行会社から受けていたのである。にも関わらず、そのガイドはタクシー代を私達から現地で受け取るということになっていると言ってきた。

実際タクシー代は日本円にして数千円程度であるが、予想外の突然の出費ということで躊躇せざるを得なかったというか、頭が混乱してしまった。いや、眠くてまともな思考ができなかった。妻もいささか困った様子である。

私の中には、まず、疑念が芽生えてしまった。この男性は信頼のおける人間なのだろうか?何も知らない私たちを騙そうとしているのでは?そう思うとすんなりどうぞと言う訳にはいかなかった。とにかく、ホテルまで移動してしまおうということになり、タクシーを捕まえてもらいホテルへ行った。

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着くとチェックインの手続きはガイドさんが手伝ってくれたおかげで、すんなりできた。自分達だけでは相当大変だっただろう。ここはしっかり仕事をしてもらい感謝である。
タクシー代の議論はここでもあったが、こちらの立場としては追加料金として聞いていないから払えないと意志を汲んでくれ、追加で払うことはなかった。

ただ、私の心の中にはしこりが残ってしまった。心に後悔が残る決断をしてしまったと気づくのはいつも事を終えて、頭が冷静になってからである。人を疑ってしまった罪悪感も少しある。

それにしても眠くてたまらない。現地時間は19時前、日本時間は深夜1時になろうかと言う所である。さすがに起きているのがつらい。

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感動的な部屋の説明は明日に譲って、今日はもうお休みにしよう。

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