岸田奈美さんに会って、炭酸泉に浸かった日
この数年大好きな作家さんである岸田奈美さんが、文学フリマなるイベントに出店するらしいと知ったのは10月のことだった。普段の文学のブの字も登場しない生活を送っている自分だが、入場無料だし入りやすそうだ、行ってみようと思い立ち、その場で岸田さんの同人誌の取り置きを申し込んだ(たぶん)。
(たぶん)←というのは、ここのところ1ヶ月前の記憶なんてほとんど残っていない、確認のメールを探しても出てこない、当日行ってみるまで取り置きしたかどうかは全くわからない。という状況だったからで。
流通センターという聞き慣れぬ会場に向かうため、東京モノレールという乗り慣れぬ乗り物に乗る。東京モノレール、凄かった。広い窓から、埋め立て地を駆け抜ける脇に広がる、倉庫や湾岸がよく見える。最愛の推し井ノ原快彦さんが幼少期を過ごした団地も、初めてこの目で拝むことができた。
軽い興奮を覚えながら流通センター駅に降り立つと、あまりにも多くの人が降車するのにビックリした。この人たちは一体どこへ向かうんだろう。この辺りに何があるんだろう。と思っていると、みんな、文学フリマの会場に吸い込まれて行ったので唖然とした。私はとんでもないところに、ノコノコとやってきてしまったのではないか。
実際、会場は信じられないくらい広かった。舐めてた、文学フリマ。ここのブースの一人一人が、熱量を込めて作った作品が売られている。それを求めてこんなに多くの人が足を運んでいる。そう思うとゾクゾクした。
お目当ての岸田奈美さんのブースは、1番奥だった。ドキドキしながら向かうと、思った以上に狭い、長机半分のスペースに、岸田さんがちょこんと座ってらっしゃった。それから10名ほどの列。
列に並ぶと、スタッフさんが同人誌を取り置きした人の名簿を片手に「お取り置きされてますか?」とやってきた。内心震えながら「たぶん…したと思うんですけど…記憶が…」とモニョモニョ言いながらスタッフさんの名簿をサッと盗み見て、自分の名前があることを確認してから名乗った。名乗って取り置きしてなかったら恥ずかしすぎるので。どうやら過去の自分はちゃんと取り置きしていたようだ。
安心したのも束の間、あっという間に自分の番が回ってきた。前の人が手紙を渡しているのを見て、何の差し入れも持って来なかったことを後悔しつつ、オドオドと「初めましてなんですけど、いつも日記楽しみに読んでます。」と伝えた…と思う。
いやほんと、こういう時に何と言っていいのか、いつも分からなくて挙動不審になってしまう。銀河一好きなバスケットボール選手渡邉亜弥さんの出待ちをした時も、散々待つ時間があった割に、いざご本人を目の前にしたら何も言葉が出なくて絶望した、その記憶が蘇る。
取り置いてあった同人誌にサインをしていただき、持って行った新刊にもイラスト&岸田良太さんサイン判子とスペシャル盛り合わせ的なサインをしていただき、そしてツーショットを撮っていただいて、頑張ってくださいとブースを後にした。
完全に舞い上がった私は、サイン本二冊を胸に抱いて売り場をウロウロした。いやー、嬉しい。応援してる人に直接会って、応援していますと言えるのは幸せなことだ。ニヤニヤしながらインスタにツーショットを放流して、ハタと気付いた。
私、同人誌のお金払ってない。
思い返すと、流れるようにサインして手渡してくれたそのプロセスの中に「お金を払う」というスキは無かった気がする。こうなってくると、私は取り置きの時点でお金を払っていたのかもしれない。記憶がないから全くわからん。
戻ってスタッフさんに確認すると、取り置き時に支払いは受け付けていないとのことで、慌てて支払いを済ませた。
帰りに平和島温泉に寄って、人生初めて炭酸泉に浸かった。身体のあらゆる表面にCO2がプチプチつくのが面白かった。小学生の時、お風呂に浸かるたびに身体につく泡を手で除去する遊びをしていたが、炭酸泉ではそれがやりたい放題だった。除去しても除去しても泡。
無限泡除去ゲームに興じていると、身体の奥からピリピリと火照ってきて心拍数が上がった気がしたので慌てて退散した。なんでCO2が血流を促進するのか理屈はよく分からないが、炭酸泉の威力を感じて帰路に着いた。
以上、正真正銘の、ただの日記(2021年11月23日)をお送りしました。
炭酸泉とかけて、同人誌の支払いを忘れた時の心境と解く。その心は、どちらも あわて(゛)る。
…おあとがよろしいようで。
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