9月 透析と気候変動

腎臓内科、透析科を回って

 1ヶ月間、腎臓高血圧内科をローテートし、透析を行えるようになることと慢性腎臓病の管理ができることを目標に勉強していました!
 透析は完全に未知の領域で、透析患者というだけで「私たちにはわからないもの」として接してしまっていたような気がします。どのような経緯で透析に至るのか、透析を受ける生活はどのようなものか、透析をしている方に起こる様々なトラブルはなにか、対策はなにか。医学的な管理も含め、生活面や医療資源といった部分で具体的に理解することができたのが大きなポイントだったと思います。

総合診療科研修のモヤモヤ

 総合診療科の研修では毎月のように環境が変わり、学ぶポイントも全く違い、それでも1ヶ月以内にできるだけのことを吸収しなくてはいけないというプレッシャーがあります。毎回1から始めるので、自分の成長が実感しにくい面があり、この半年は結構モヤモヤと過ごしておりました。
 ただ少しずつですが、外来で患者さんの相談に乗った際、今までモヤモヤとしながら説明するしかなかったものが、すごくクリアに話せるようになったし、相手の頭の中に自分と同じような映像が浮かんでいると感じ取れるタイミングが多くなってきた気がします。
 それは、ひとえに初期研修から現在に至るまで、様々な医療・社会の側面を経験させていただいてきたおかげであり、その経験が統合されつつあるからだと思いました。一人の人が抱える問題・不安は多岐に渡っており、そこから表出される症状に対応する(またはしない)ためには幅広い経験が必要なのだと感じております。病気ではなく人を相手にしているからこそ、そういった点において、今回透析を学ばせていただけて良かったです。

透析と気候変動

 今回透析業務をしている最中、技師さんと一緒に透析回路を組み立てる研修をしてみました。透析液がどのように作られて運ばれているかを教えてもらった時に、ものすごい衝撃を受けました。
 なんと亀田総合病院で透析のために使用された水の量は1年間で1000万リットルであり、そのうち500万リットルは精製されたあとに不合格水となって廃棄されてしまいます。日本は世界第2位の透析人口を抱えており、年々透析の需要は高まっている状況です。透析は水・電力・廃棄物・CO2排出において、大量の資源を消費する治療であり、質の高い医療を継続して提供するためには無駄を極力なくし、Reduce, Reuse, Recycle できるものはなんでもやらなくちゃいけないと思っています。World’s Hospirtal 43位に入る亀田総合病院だからこそ、環境負荷に対する影響を考えた医療が社会から必然的に求められるのではないでしょうか。
 メキシコで生活した原体験、そして島根県で過ごした経験から、地球の環境を守りたいという気持ちは人一倍強いような気がします。今月は透析が与える環境負荷と、可能なリサイクル方法の文献を読み漁っていたので、世界一環境にやさしいクリニックになりたいな〜という気持ちでクリニック建て替えにも意見を出していきたいです。


以下、調べたこと。(全部は大変なので割愛)

"Sustainable kidney care delivery and climate change – a call to action"
・一般的な4時間の透析では、透析液の調製に240リットルの原水が必要となる。前処理の呼び水、すすぎ、システムの滅菌に必要な水を含めると、血液透析の各セッションでの水の消費量は500リットルにもなると推定されている。
・オーストラリアでは、透析治療1回あたりの電力消費量は12.0~19.6kWhと推定され、一般家庭の1日あたりの電力消費量は18.7kWhと推定されている。
・ある研究では、1回の血液透析治療で2.5kgの有害廃棄物が発生し、そのうち38%がプラスチックであると推定されている。
・イギリスでは、血液透析は患者一人当たり年間3.8tCO2-eqの排出をもたらすと推定されており、これはイギリスの医療における患者一人当たりの平均カーボンフットプリントの7倍以上である。

"Water implications in dialysis therapy, threats and opportunities to reduce water consumption: a call for the planet"
世界の血液透析の年間水使用量は約2億6500万リットルである。この参考試算では、この水の3分の2は排水溝に排出される不合格水となる。
・慢性腎不全コホート研究で、推定糸球体濾過量が1.73m2あたり5ml/minになるまで内科的に管理すれば、透析開始を中央値で8ヵ月遅らせることができることを明らかにした。透析開始を1ヵ月遅らせるごとに、約6000L(12回×500L)の水を節約できる。
・バランスのとれたQdは、経済的にも生態学的にも有益。少なくとも一部の症例では、Qdを現在の標準である500ml/minから400ml/minに減らすことで、4時間のセッションあたり約100Lの水を節約することができる。
RO水は患者の血液と接触しないため、感染症の危険性はない。この水は脱イオン処理の結果であるため塩分を多く含むが、全体としては飲料水の水質パラメータに適合している。病院内サービスや、殺菌施設に再利用することができ、また軟水化された水によって洗剤の使用量が少なくて済むという環境上の利点もある。
・透析液は農業用水としての食糧農業機関/国連/世界保健機関(WHO)の基準値内であった。

"Sustainability in dialysis therapy: Japanese local and global challenge"
・気候変動(腎臓病への言及の有無にかかわらず)に関する医学雑誌の論文数は、このテーマに関する国際的な傾向と比較して、日本では依然として少ない。日本人は環境問題や気候変動を対岸の火事としてとらえている。
2018年の腎臓週間には、国際腎臓学会の支援のもと、グリーンネフロロジーに関する初の世界会議が開催された。その後、ブラジルとイタリアは、グリーン透析を支援する地域活動を拡大するための行動を起こしました。しかし、日本が世界第2位の透析人口を有する国であるにもかかわらず、環境に配慮した腎臓医療や透析療法の推進や取り組みは、まだ発展していない。
・極端な気象災害ではないが、日本では他の地域よりも災害が頻繁に発生しており、水不足や電力不足もあって、HD患者が別の透析施設に避難することを余儀なくされている。
・日本では、より地球に優しい透析療法を実現する方法を検討し、気候変動に関連した緊急事態に備える計画を立てることが道徳的に求められている。
・可能な行動としては、スタッフや患者に可能な限り節水や節電を促したり、透析室に節水・節電システムを導入したりすることが考えられる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?