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2016年日本カメラ年度賞への軌跡

今から4年前の日本カメラの月例コンテストのモノクロプリント部門に僕は全身全霊で挑戦していました。
日本カメラの年度賞争いは金3点、銀2点、銅1点での12か月の合計ポイントで争われます。この時のモノクロプリント部門の毎月の応募総数はだいたい1400枚以上であり、入賞するのはたった19枚(金1、銀6、銅12)でした。入賞確率は1.35%以下、銀賞以上は0.5%以下となります。

その時の受賞写真や選者の渡部さとる先生の講評や自分の気持ちを備忘録として、ここにまとめておこうと思います。

2016年1月号 ”Indian Town” 銅賞

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渡部先生評:中藤毅彦氏ばりのラフモノクローム。男の風貌によくあってます。インドは人が面白い場所です。この至近距離も彼らは意に介しません。「EXTRA STRONG」の看板に気がついたのでしょうね。後ろの人物の配置といい偶然をコントロールしきれています。

松永備忘録:この写真はシンガポールのLittle Indiaで2009年に撮影したものです。その当時はシンガポールに住んでいたので、休日はインド街のLittle Indiaによくスナップをしに行ってました。この頃のLittle Indiaは今よりディープでカメラを持って歩いてるとホントにワクワクしました。GRDⅢで撮影してます。

2016年2月号  ”カシャ!” 銅賞

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渡部先生評:アジアで撮る子供の写真は、お祭りを撮るのと似ていて、絵になりやすい分だけ難しさをはらんでいる気がします。その中でこの一枚は、仕草の可愛らしさと光の良さで強く惹きつけさせられるものがありました。かつて訪れたミャンマーを思い出しました。

松永備忘録:この写真はマレーシアのジョホールバルの村で撮影したものです。シンガポールの自宅から車で橋を渡って2時間でこの村に行けるので、よく通ってました。村の人々とも仲良くなり、家の中で撮影してもOKの信頼関係を構築して、撮影しました。

2016年3月号  ”Jump” 銅賞

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渡部先生評:試しにこの写真に対角線を引いてみてください。光のラインが驚くほど見事に構成されているのがわかるはずです。構図、タイミング、光の差し込み方に関しては、これ以上考えられません。ただ残念なことにこの写真に既視感があって、驚きが感じられなかったので銅賞となりました。

松永備忘録:これも2月号と同じジョホールバルの村で撮影したものです。
3ヶ月連続で銅賞ということで、合計3点で総合順位はこの時点で6位でした。上位を狙うのであれば、金賞や銀賞を獲らないといけないのですが、ここで渡部先生が仰られた”既視感”という言葉に悩むことになります。

2016年4月号  ”The boys in Chennai” 三次予選止まり

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松永備忘録:ここに来て、入賞を逃します。予選には一次から三次まであり、三次予選さえ超えれば銅賞~金賞となり紙面に掲載されます。つまり、この写真は三次予選止まりで紙面に掲載されませんでした(得点もゼロ)。
インドのChennaiで撮影したストリートスナップです。

2016年5月号  ”quick turnning”  三次予選止まり

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松永備忘録:ここに来て、またまた入賞を逃します。二ヶ月連続で入賞あと一歩の三次予選止まりとなってしまいました。当然、この二ヶ月の得点はゼロで、年度賞争いには大きく後退してしまいました。今、この二ヶ月に応募した写真群を眺めてもそれなりの自信作だったんですが、”既視感”の壁があるのでは?と悩みました。まぁ、悩んでも直ぐに新しい写真が創造出来る訳もないので、それ以降は応募枚数を増やすことで対応しました(笑)
この写真はポートレートで良いところまで行ったので、入賞したかったなぁ。

2016年6月号  ”だんらん” 金賞

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渡部先生評:モノクロフィルムを使い、印画紙に焼き付けるというアナログな行為でプリントを作り上げた場合、粒子という「味付け」が自動付帯されます。ところがデジタルモノクロの場合、基本的に撮ったままのデータでは無味無臭です。そこから自分なりの味付けをしていくことになります。
松永さんの毎回応募されるモノクロは、一見普通に見えるのですが、実はかなり独特な味付けがなされています。粒子感とコントラストで作り上げているのですが、それがアジアの暮らしにぴったりマッチしています。
「いつかみた風景」という言葉を思い起こさせる懐かしさを覚える写真です。バラバラで見るよりも、ぜひまとまった形で見てみたいと思ってます。

今月の入賞者は語る:この時、金賞を獲ったので、僕の文章も掲載されました。以下その内容です。
受賞作品はマレーシアのある村で撮影したものです。この村には撮影の為によく通いました。撮影して、次の訪問時にプリントを手渡すということを何度も繰り返しました。そのうち村人と仲良しになり、家の中でも自由に撮影させてもらえるようになりました。
この作品はTVを家族で見ている様子を撮影したものです。部屋は暗かったので感度を上げ、絞りを開放に近い設定にしています。ドラマチックなシーンで子供達が声を上げた瞬間にシャッターを押しました。
写真は僕にとって、僕の感動を表現したものであり、僕の人生の軌跡です。


松永備忘録:Facebookにその時の気持ちを書いてます(汗)
「うぉ〜🎵見たか!(羽生くん風)
念願だった日本カメラで金賞を頂いた。とても嬉しい(≧∇≦)
六月号にはかなりの自信作を送って、突き抜けたかった。これまで銅賞までにしか届かなかった自分の写真に何が足りないのかをずっと考えていました。金賞を獲ったからといって、その悩みが解消された訳ではありませんが、自分が信じていたものが、そんなに間違ってなかったこともないのかもしれないと、少しは自信になりました。」
この金賞で総合1位と1点差の4位まで上昇しました。

2016年7月号  ”儀式の日” 銀賞

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渡部先生評:作者は毎回驚かされるような量のアジアの写真を応募されています。量とともに質も非常に高く、コンスタントということでは間違いなく現在の応募者の中で一番です。
住んでいるのではと思うくらい現地の村に溶け込んでいます。この姉妹も写真を撮られることへの抵抗感がまったく感じられません。焦点距離と絞りの関係性がよく、人物にはピントが合っていて、背景はボカすことで浮かび上がるように見えています。来月号の応募が楽しみです。

松永備忘録:これはネパールで撮影したある祭典での姉妹をご両親の許可を得て、撮影させてもらったものです。CANON EOS5DmarkⅡの28mmで撮影しています。この金賞と銀賞の連続で、悩んでた気持ちも薄まり、7月号時点では1位の方と1点差の2位まで迫り、てっぺんを意識しました。

2016年8月号  ”ヤンゴンの夜” 銅賞

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渡部先生評:松永さんの写真で、毎回驚かされるのがピントの良さです。ピントというのは、そのプリントを見た人が、最初に目が行く場所に合っていることが大切です。つまりピントを考えるのは画面構成を考えることと同じことなのです。そこが毎回ピタリときています。

松永備忘録:これはミャンマーのヤンゴンで撮影したものです。撮影に快く応じてくれて、タバコの煙を大きく吐いてくれたところでシャッターを押しました。この許可を得て撮影したナイトスナップでは、ISOを3200まで上げて、50㎜レンズのF1.6で撮影しています。
この時点の年度賞の総合順位は単独で2位でした。

2016年9月号  ”Classroom” 銅賞

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渡部先生評:松永さんはこの月例コンテストにおいて、一番きついこの時期にも、クォリティの揃った作品を応募され続けています。入賞回数も一番多いのではないでしょうか。一発ホームランを狙うというよりも、ヒットを積み重ねていくイチローのような存在です。
今回はブレッソンを思いおこさせる人物の構成です。

松永備忘録:いやぁもう、渡部先生から、イチローやブレッソンに比喩されるなんて天にも昇るようでした(汗)
この時までまだ二位を何とかキープしてました。
写真はネパールの学校でGRで撮影させてもらったものです。

2016年10月号  ”bus in Nepal” 銀賞

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渡部先生評:毎月送られてくる松永さんの写真をとても楽しみにしています。今回もロバート・フランクを彷彿とさせる、ネパールの人の射抜くような視線が印象的です。
おそらく作者もバスに乗っていて、すれ違いざまの撮影なのでしょう。右側の子どもの存在も効いています。瞬間を捉えるストリートスナップとしては最高の出来だと思います。

松永備忘録:いやぁもう、渡部先生から、今度はロバート・フランクに比喩されるなんて更に天にも昇るようでした(汗)
ネパールでのものですが、実はすれ違いざまではなくて、僕はバスに乗っておらず、地面からGRを持って背伸びして、両手を伸ばして撮影しました。
10月号時点では、1位の方が14点、2位の僕が12点でした。あと、2回でテッペンを取れるか!とかなり力が入ってましたね(汗)

2016年11月号  ”授業中” 銅賞

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渡部先生評:つまらなそうに教科書を見る少女の姿がたまりません。教室の窓から差し込む光にアジアを感じてしまいました。
こういった写真の場合どのように撮るかということより、どのようにそこに溶け込み、作者の存在が消せるかがとても大事なことになります。

松永備忘録:カンボジアで小学校を見学させて頂いたときの一枚です。
ここで銅賞だったことで、ずっと続いていた総合2位から滑り落ち3位となってしまいます。12月号のあと1回の審査を待つこの時点で、1位 Nさん14点(同点数なら金、銀の数で順位は決定)、2位 Kさん14点、3位松永 13点、4位Tさん 12点となってました。1、2位の方とのポイント差は1点ですので、まだなんとか最後12月号での逆転もあり得ましたが。。。

2016年12月号  ”儀式の日” 銅賞

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渡部先生評:祭礼用の衣装をまとった少女の目線。その強さに気押されます。松永さんは今年のモノクロの部で、もっとも多い10回の入賞になります。アジアを題材にして現地に溶け込むようなスタイルは、他の旅写真とは一線を画していました。

松永備忘録:これは7月号銀賞だった同じネパールで撮影したある祭典での撮影でした。この最後の戦いで痛恨の銅賞でした。そして、僕は最後の最後に総合4位に沈みます(年度賞は10位までですので、年度賞は獲得)。
12ヶ月で10回の入賞、金1回、銀2回、銅7回(合計14点)、次点2回となりました。一時は2位まで上り詰めたのですが、後半に銅が多く、失速し4位で終わりました。とは言っても6月の金賞から7か月連続で入賞しているので、失速という言葉が相応しいかどうかわかりませんが、本当に厳しい戦いでした。

あとがき

当時、毎月の結果を記載していたFacebookで以下のように書いてます。

テッペン獲れなかった力不足の悔しさを噛みしめたいと思います。
しかし、ここまで全力投球で年度賞に挑戦したことは、僕にとって大きな経験となりました。12月中金賞含む10回の入賞は我ながら頑張ったと思います。この自信と悔しさは今後の写真活動に繋げて行きたいと思います。
入賞確率1.35%以下の中で、毎月のように僕の写真を拾ってくれた渡部さとる先生には感謝しかありません。

ということで、日本カメラの年度賞を獲るという今年の目標は達成できました!有言実行出来て良かったです。

今振り返っても苦しい戦いでしたが、必死に頑張ったこの経験は今の自分にとって間違いなくプラスに働いていると思います。
アサヒカメラが休刊になった今、日本カメラさんには頑張ってもらいたいと思いますし、またいずれ挑戦してみようかな。。。。

年度賞の副賞と盾と賞状

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大阪ニコンサロンでの日本カメラフォトコンテスト展での展示

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では、また。




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