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磯崎新が実践した弁証法の具現化建築「北九州国際会議場」

建築(北九州国際会議場)(敬称略)

北九州市JR小倉駅北の港湾地区に位置する国際会議場で、磯崎新の設計です。竣工は1990年、道路の向かい側に建つ西日本総合展示場も同氏の設計で、こちらの展示場は海にちなんで帆船をイメージした吊り屋根構造が特徴ですが、この国際会議場もホールの屋根が波打つデザインを取り入れています。

1974年に磯崎が設計した同市の北九州市立図書館と市立美術館は、プラトン立方体に由来する〇と△と□理論の具現化でしたが、16年後に竣工したこの建物の特徴は、上記の屋根が波形の低層棟と上部がキューブ(箱型)の上層棟を中庭で挟んでつなぐコ型のプランとなっています。

磯崎の設計作品の一端を時系列的に見てみると、大分県立大分図書館(1966年)→北九州市立図書館・北九州市立美術館(1974年)→つくばセンタービル(1983年)→北九州国際会議場(1990年)→豊の国情報ライブラリー(1995年)となります。

県立大分図書館で日本建築学会作品賞を受賞後、コンスタントに作品を発表しながら、ポストモダンの代表作といわれるつくばセンタービルで1つのピークを迎えますが、今回の国際会議場はその7年後の作品となります。都市の変貌に伴い、建築もそれに対応して変化しなければならないと主張していた磯崎は、それぞれの時代の都市の姿に応じた建築の設計を実践してきました。

7年前のポストモダンの要素を随所に採用したつくばセンタービルとは、当然異なった作風が必要となりましたし、その1つの手法として表現したのは、中庭を挟んだ低層と高層の2つの建物の対比であり、さらに建物自体をシンボリックに表現するための高層上部のキューブだったと思います。
波形の屋根で海のイメージを表現しながらも、そうした直接的な表現だけに留まらない、キューブによる象徴性や抽象性も合わせて表現していると感じました。

北九州市立図書館や美術館が、明確な幾何学的形態で建物そのものを表現しているのに対して、この国際会議場は波形の具象性と、頂上のキューブの象徴性と抽象性の相反する要素の融合体であり、それは磯崎が常日頃から主張していた建築のおける二律背反の弁証法的な手法での表現であったのかもしれません。

その後1995年に竣工する磯崎の地元大分市豊の国情報ライブラリーでは、ダイナミックなホールの吹抜け空間が出現することになります。

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