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実の父親がネトウヨになったルポライターの力作「ネット右翼になった父」

本(ネット右翼になった父)(長文失礼します)

実の父が、ネット右翼(ネトウヨ)となった原因と経過を克明に記録した本です。筆者の鈴木大介さんは、貧困問題などをテーマに取材しているライターで、自身の左翼的立場と相いれない父親の変貌に当惑しながらも、なぜそのようになったのか、その取材力を活用して実態に迫っていきます。

筆者が最初に指摘するのは、家族の右傾化と分断は、現代の普遍的な現象であり、ネトウヨに走る行為も決して特異なことではなく、その原因は2011年の東日本大震災であり、あの時初めて日本人が右と左に分断されたと筆者は感じたと述べています。

筆者が定義するネット右翼(ネトウヨ)の特徴とは、以下のようになります。
1.盲目的な安倍晋三応援団 2.思想の柔軟性を失った人たち
3.ファクトチェックを失った人たち 4.言論のアウトプットが壊れた人たち

時系列的に父の言動を調べていくと、父は決して韓国や中国の国民を嫌ってはいなかったが、その政治体制については確実にヘイトしていたという事実がわかってきます。
そうして様々事実や資料を取材しながら、総合的に分析した結果、ネトウヨと思っていた父親の実像を以下のように結論づけています。
「父はネット右翼ではなく、保守ですらなく、自分が面白いと思うもの、好奇心が湧くものを何でも取り入れる、多様性のあるパーソナリティーの持ち主だった」

ただ青春時代における左翼を正義とする権威主義、在日外国人との軋轢、欧米覇権主義に対抗すべきアジア全体で非協力的な中韓の政治体制などへの批判感情、またシングルマザーや生活困窮者などの弱者への自己責任論に対する根拠のいない同調、ジェンダーなど価値観の多様化に対応できない高齢の壁などが要因としてあったと分析しています。

こうした実の父から得た結論を基に、社会の分断には解消不可能な分断と可能な分断があるとの結論に至っています。父親の場合は後者のケースだった訳で、生前父と和解できなかった悔恨の念にかられたことも吐露しています。

筆者は自分も含めて、読者にもネット右翼(ネトウヨ)に対する自己診断の必要性と、それによる客観性の重要さを説いています。これは父への作業手順をまとめたものですが、
自分が描くネトウヨの主張、人物像、調査資料などで規定される人物像との比較、さらに相手の言説に対して、一番拒絶や憎しみの感情を抱えているかを切り出すという作業です。
それにより自己の思い込みなどがあぶり出されて、より客観的なスタンスになれるというものです。

最終章の6章「邂逅」で、筆者は以下のように述べています。
「分断の主因は「相手の等身大の像を見失うこと」であり、 その溝を埋めるには、相手の等身大の像を取り戻す、改めて見直すことだと思う。」

私も以前ネットで、ネトウヨの思われる人物から反発を受け、反論したことも何度かありましたが、結論として感じたのは、筆者が定義したネトウヨ像と同様に、建設的な議論ができずに時間の無駄であったことです。
それ以降はもっぱら無視を続けていますが、相手方(複数)も過去の履歴から察したのか、ほとんど絡んではきません。ただ私自身も冷静になって、自己診断が必要なのかもしれません。

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