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かわぐちかいじ先生講演会感想。

2023年9月2日(土)に小金井 宮地楽器ホールにて、漫画作家かわぐちかいじ先生の「マンガという文化を描きながら考えること」講演会に参加しました。

昨年の複製原画展レポはこちら⤵

小金井 宮地楽器ホール
本格的な音楽ホールでした。
会場ポスター

ポスター絵、別冊宝島の「僕たちの好きなかわぐちかいじ」でした😌
こちらもかわぐち先生がお選びになられたのでしょうか。

講演会は夜の7時から9時までの2時間にわたって行われ、マンガという文化、そしてマンガを形にしていく上で必要な発想力や技術を、様々なエピソードを交えて学ぶことができる内容になっていました。

うろ覚えではありますが感想レポとして書かせて頂きます🙏

(※)は私のボヤキです。講演会の内容と逸れます。


①アニメ映画「BLUE GIANT」を見て気付いたマンガの奥深さ。

とても好きなマンガ「BLUE GIANT」がアニメ化されたと聞いて、早速見た。
思っていた以上に綺麗で迫力があり、完璧な出来映。音楽もとても良くて感動した。
でもマンガを読んだ時に感じた感動と、アニメを見た時に感じた感動は、何か違った。
アニメは、色や音がある世界でキャラクターが勝手に動いてくれるので、想像力を働かせる必要がない。
マンガは想像力を働かせる事で、物語に参加できるから、キャラクターの心情や映像で表せない気持ちを追いやすい。
そこにマンガの奥深さ、スケールの大きさに気付かされた。

※話の途中、下書きがないとお話するの苦手と仰られるかわぐち先生がちょっとお茶目に感じました。

映画の公式サイトはこちら⤵

②マンガの基本表現・コマから見るかわぐち先生の原点。

戦前は、1個のコマの中でマンガを表現する「1コママンガ」から、4個のコマで起承転結を表現する4コマンガへと発展してきた。
戦前マンガは決まったコマの配置からマンガを表現していた。
戦後は、手塚治虫を筆頭に、自由自在にコマを使ってマンガ表現をする自由形マンガに変化していき、劇画へと進化した。
かわぐち先生が手掛ける作品は劇画。劇画のスタイルこそが、かわぐち先生の原点でもある。

劇画を選んだのは、大学時代に読んだ漫画作家上村一夫先生(代表作・同棲時代)の「完全なる答案用紙」を読んで胸につかえた感じ?がした。

こちら⤵から無料で読めます。

内容は思春期真っ只中の男子学生の友情、性、嫉妬、恋心、成功物語と、キーワードだけピックアップするとザ・青春モノなんですけど、 読み終えて、破滅的で理解不能な行動、それでいて主要登場人物に生々しい人間性が感じられます。
かわぐち先生の仰られるマンガの奥深さとは、人間の心の奥底にある闇を描き出すことを可能にする、という意味も含んでいるのかもしれません……。

※ジパングの草加と角松の「濃いッッッッ」関係が生まれた理由の一端に触れた気がして震えながら読みました。すごい高度なホ……失敬。

こちらの電脳マヴォでは掲載されていませんでしたが、かわぐち先生が特に気に入ったページが、少年の複雑な家庭環境や疎外感、静寂を一匹の蝶を視点で表現されたコマ割り。
このコマ割りの発想、発想する視点によって、各コマにストーリーがあるように感じるほど、面白い効果を発揮していたと感じ、マンガを描くきっかけになったようです。
絵心がないので雑な言葉ですが、かわぐち先生の解説絵をみたら、少年の心情が感じられて、ページをめくりたくなるコマでした。

※戦前のマンガは、風刺画や時事の描写を取り入れた1コマの風俗画が起源です。
漫画雑誌「東京パック」では北澤楽天によって物語風の4コマや8コマの連続画が生まれ、新たなキャラクター表現方法が生まれました。しかし、戦争によってマンガ文化は一度停滞しました。
戦後、手塚治虫率いる若手マンガ家が戦前マンガを継承し、現在の自由形や劇画のスタイルが確立されました。
手塚治虫の「新宝島」の冒頭シーンは、コマ割りの劇的な進化が分かりやすく描かれています。興味がある方はぜひ読んでみてください🤣

③故郷、家族から見るかわぐち先生の原点

かわぐち先生は、幼少の頃から尾道水道を挟んで向かいに浮かぶ島、向島から見た尾道の風景を見るのが好きだそうです。
美しくも儚い景色、港に浮かぶ漁船、対岸の向島にポツポツと見える民家。
3次元的な景色と、2次元的な美とが重なり合う幻想的な風景。
景色を見て漠然と妄想を膨らませるだけでなく、客観的に景色を愛でることも出来る。

あの立体的な絵の作り方や、あの色の出し方、あの形を発想する時は、その景色を思い出しながら、故郷を描く時のような愛着で描いているそうです。

分かりやすい写真を見つけました⤵

また、キャラクターの根源には、双子の弟という血で結ばれた関係の原点からくる寂しさ、孤独感も描かれているとの事。
インスピレーションという事かな?
同い年の兄弟を持つと、年齢や性別の違いを理由に出来ない。嫌でも比較される。
言い訳が効かない、永遠の友であり敵対関係。
②の「完全なる答案用紙」をご自身と弟さんに置き換えたら……確かに、あの場面は胸に来ますね。

※作中の主人公のような攻撃ではなく、表現でその感情と向き合ってきたかわぐち先生を尊敬します。
あ、海江田と深町の関係ももしや双子の存在が……?
あの「濃いッッッッ……」関係も……失敬。

また母方のおじいちゃんから平安時代風の絵?を描いてくれて、魔法のように感じたエピソード、鉄腕アトムより鉄人28号のクールさがすきで模写していたエピソード、マンガを読んで描いていたら勉強が疎かになり、父親から船乗りになれと迫られ逃げる口実に猛勉強したエピソード等など、かわぐち先生独自の家族の視点があったりして、とても楽しく聞かせて頂きました。

※手塚ファンとしては、アトムがロボットアニメであると同時にヒューマニズムというかわぐち先生のご解釈はグッときました( *˙ω˙*)و 
鉄人28号のようなクールさを追求した結果、プルートゥ(アトムのライバル)が生まれたのかしら?

※かわぐち先生のお話を聞いた際、二つのロボットが並ぶ姿が脳裏を過ぎりました。

④マンガを面白くする為に必要な発想力について。

書き手は読者に分かりやすく伝える為に、様々な技を使う。
コマの使い方や視線誘導、セリフ回し、背景描写等々、 これらは物書きとして必要な技術であり、マンガを描く上で欠かせない技術。

しかしマンガにおいて最も大切なのは発想力。
発想力とは、想像力が豊かで、物事を多面的に総合的に考えられる能力。
これがないマンガはどんなに絵が上手くても、面白くないマンガになってしまう。
沈黙の艦隊は日本初の原子力潜水艦を主軸に、非核三原則や日米関係、そして世界の政治経済までを取り込めた、非常に発想力に富んだ濃厚なマンガ。

※沈黙の艦隊を推すかわぐち先生の自作品愛、良かったです。

電子書籍版だと1巻、期間限定で無料です⤵
映画化もします⤵

かわぐち先生の作品は設定がしっかりと詰められ、奥深いです。
私は「沈黙の艦隊」「ジパング」「太陽の黙示録」を学生の時分読み込み、日本や世界について子供なりに考えました。
その根源たる発想を成立させるべく、掘り下げて掘り下げた結果、沈黙の艦隊最終巻のような展開が生まれたという、深い説得力に満ちた内容でした。
発想を成立させる為なら、描くことから逃げないとも仰っていました。
例えば沈黙の艦隊に登場する深町は、当初原子力潜水艦と共に逃亡した海江田を追う刑事として描くつもりだったとか。
しかし描いていくうちに、何故原子力潜水艦と逃亡したかを、掘り下げて描く必要に迫られた。
そこで海江田は原子力潜水艦で独立国やまとを創る、という発想を補強する目的が生まれたそうです。

つまらない物語→飛行機がいつまでもいつまでも滑走してるだけで離陸しない。
面白い物語→飛行機が離陸し空を飛ぶ瞬間、読者は未知の体験ができる。

というお話もされていました。
私の作品、そういえば半永久的に滑走してましたなぬ……。南無三……。

※かわぐち先生がお見せしてくれた下書き原稿、書きたい台詞や説明から形にするお話をされていましたが、お見事としか言いようがないほど、美しく、分かりやすいコマ割りでした。
※それを読者に分かりやすく伝えるべく、物語のテーマやキャラクターを記号として分かりやすく表現している。これをする事により、読み手にイメージが伝わり、面白い作品に繋がるそうです。

努力の鬼ですね!!

⑤質疑応答とキャラクターのリアリティとか

質疑応答は、ご質問された方々の質問内容を理解するのに手間取り、メモを取り忘れたりして、あまり詳しくまとめられていません……💦 
拙いメモ書きですが、そちらをまとめさせて頂きます。

「空母いぶき(やや未読?)は現在の世界情勢と非常にリンク(これは私の自己解釈)しているように感じた」
→ウクライナ危機の際は、空母いぶきを描き続ける事に悩んだ。
空母いぶきはフィクション作品でも、ベースは現実の世界。いぶきのロシアもベースは現実のロシア。
一時描くのを止めようか悩んだが、「フィクションが現実に負けず、超えていける作品を描く」へと切り替えた。

「マンガを面白く描くには」
→例えばAという存在がBである。
で終わらせるより、AはBでもありCでもありDでもありEでもあるかもしれない。
一人のキャラクターに複数の面を作る という発想が、結果的に大きな魅力になる……?

※ドラえもんは世界最高水準ロボットである。
よりも、ドラえもんは世界最高水準猫型ロボットであり、家庭用教育ロボットであり、ペットロボットであり、対話型ロボットでもあり、万能ロボットでもあるが、欠損ロボットでもある。
のような、ドラえもんの多面的な魅力を引き出す発想が、結果的に作品の面白さや魅力に繋がるという事でしょうか……?
凡庸な私には分からなかった……。

「下書きの方が上手く描けたと経験はありますか?」 
→よくある。下書きの方が上手く描けた時は読者さんに失礼だから修正液を使って描き直す。
読者さんを想って描き直す姿勢が、作品をより良いものにしているのでしょうか……🤔

「発想力が素晴らしいと思った作品は?」
→ない。僕が描いた沈黙の艦隊より発想力に富んだ作品はない。
断言出来るほど追求した作品、それが沈黙の艦隊なんでしょうね🙏
全巻持ってます……!!!!

もっと理解力と学習能力があれば、お話を聞きながら自分の考えも語れたであろうと思うと、とても悔しかったです💦

少し脱線しますが、講演会の中で韓流ドラマと日本のドラマの違いについてお話されていました。
日本のドラマは洗練されすぎていて現実から乖離している。韓国ドラマのは洗練しすぎず、現実とドラマが共存している。
韓流ドラマのように身近に感じれるような、リアルな設定や登場人物、展開は、日本のドラマにあまりない、と仰っていました。
かわぐちかいじ先生はマンガ制作において、ウソではない物語をいかに創り出すかを大切にしているそうで、その為に、キャラクターのリアリティ性を追及しているそうです。

おこがましい話ですが、自分はオリジナルキャラクターを創造し書くに、何度か「嘘の存在」と言われたのが悔しくて、今は出来る限り調べて創造しています。
それが行き過ぎてるのかな、痛々しいのかなと思い悩む時もありましたが、リアリティ追求のお話は少し報われたと感じました。

と、まとめていたら4時間近く経過していました…!時間の魔力恐ろしや!!
本当に楽しくて有意義な時間をありがとうございます!!

行きに海江田艦長見つけました!

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