本気で「続・星の花が降るころに」書いてみた。
続・星の花が降るころに とは
みなさんは『星の花が降るころに』という作品をご存知だろうか。
光村図書の「新しい国語1」という中学校一年生向けの国語科の教科書に掲載されている安東みきえの書き下ろし小説である。
この教材を用いた単元の最後には、この物語の「続き」を書いてみよう!という授業がよく行われている。それを、『続・星の花が降るころに』として、生徒たちは思い思いの筆致でその続きを綴っていく。
そして、ふと、「これ本気で大人がやったら面白くなるのではないか」と思い立ったのである。
生徒には「作者の書き方を真似してみよう」とか「終わり方はハッピーエンド(読んだ人が不快にならないようなエンド)にしよう」と指導するので、もちろん私もそうしてみた。
誰にでも分かりやすい、良くも悪くも「優等生」な展開や文章を目指した、という批判に対する保険だけはかけておくこととする。
本編はこちらから読める。↓
https://assets.mitsumura-tosho.co.jp/4516/7537/4983/03k_yomu_original.pdf
それでは、ぜひご一読いただこう。
物書きが本気で書いた『続・星の花が降るころに』
「続・星の花が降るころに」 作:群多亡羊
「銀木犀の花は、あたかも白い星かのように見える。」
クラスでうるさくはしゃいでいる戸部君に後ろからいきなりそう話しかけてみた。戸部君は、気配を感じて振り向くときょとんとしてこちらを見ている。
「ごめん、何か言った?」
周りの声にかき消されて戸部君の耳には届かなかったらしい。それでよかった。昨日、お風呂に入りながら、戸部君に聞かれた宿題の答えをぼんやりと考えていた。その答えを戸部君に教えてあげたかった。
だけど、実際に口にすると、なんだか恥ずかしくなった。だって、戸部君のために大事なお風呂の時間を使ったみたいになってしまうから。
だから、これでよかった。聞こえていなくてちょうどよかった。
「ううん、なんでもない。」
一度口にできて満足したから、二度目はごまかした。戸部君は私の返事を聞くなり、男子たちの方を向いて、何事もなかった様子で昨晩のサッカーの試合の話に混じった。どの選手がかっこよかったとか、どの選手は下手だったとか。みんな、私の知らない人の話ばかりしていた。
昼休みの廊下は、都会の雑踏みたいに騒がしかった。知らない人たちの声が重なり合う。肩と肩とがぶつかり合う。
だけど、その中に私の友達はいない。なんだかみんなが私を見て不気味に笑っているみたいな気がして、思わず目をぎゅっとつむった。
「ねぇ——」
複雑に混ざり合った知らない声。だけど、この声はよく知っている。昨日、聞きたくても開けなかった大好きだった声だ。目をつむったままでも、間違えるはずがなかった。
「——昨日、何か言いかけてたよね。ごめんね。他の子に話しかけられちゃって。」
どうして謝るの。どうして簡単に謝れるの。私の言えなかった「ごめんね」が、夏実の声で何度も頭の中に再生される。
目を開く。世界に色が戻る。声のした方へ振り向くと、確かに夏実がいた。
「私こそ、ごめんね。」
泣きそうになりながら、喉の奥の方から絞り出された声は、か細くって弱々しかった。
「ごめん、何か言った?」
周りの声にかき消されて夏実の耳には届かなかったらしい。
だけど、今度は何度だって言える。何度口にしたって満足なんてできるもんか。
「ごめんね、夏実。私——」
次の言葉を必死に探しているうちに、夏実が私に抱きついてきた。
夏実の好きなものを私が嫌いだって言ったこと。夏実と一緒に遊ぶ約束を寝坊ですっぽかしたこと。一緒に拾った銀木犀を捨ててしまったこと。
謝らないといけないことはたくさんあるのに。夏実はそんなことわかってる、とでも言うみたいに、笑顔で私を包み込んだ。
今日の涙は隠さない。隠さなくたっていい。私の知らない人たちに見られたっていい。
「明日、友達のお家に遊びに行くんだ。よかったら一緒に来ない?」
私はただ、壊れた人形みたいに首をこくこくと縦に振ることしかできなかった。
夏実とはもう、話せないのだと思っていた。私は独りぼっちなのだと思っていた。だけど、今なら言える。
「夏実、また拾いに行こうよ。銀木犀。」
今度の声はちゃんと届いた。
「もちろん。じゃあ今日の放課後、『秘密基地』集合ね。」
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。私は、夏実に「またね」と手を振って教室に戻る。
机の上に宿題プリントが置いてあるのに気がついた。その真ん中のあたり、解答欄には確かに「銀木犀の花は、あたかも白い星かのように見える。」と見慣れた汚い字で書いてあった。
そして、その下には小さく「ありがとな」とこれまた見慣れた汚い字で書かれていた。私は、その横に丁寧に「うるさい」とだけ大きく書いて、後で返そうと机にしまった。
大人になっても、きっと今日のことを思い出すのだろう。
いつかの星の花が降るころに。白く小さな星の花が降るころに。
最後に
いかがだったろう。
中学一年生がこれ書いてきたら私は今すぐその子を小説家にするだろう。
ところどころにみえみえの「作られたエモ」みたいなものを散りばめたが、やはり元のストーリーが良すぎる。誰が書いてもいい作品になってしまうのである。
それと同時に、その書きやすさと発想のしやすさから、教材としての価値の高さを実感することもできた。
読者の皆さんもぜひ、楽しんでみて欲しい。
あはよくば、読ませて欲しい。
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