鬱と多発性硬化症と他殺願望


鬱がひどいころはひどかった。自殺願望だけではなく他殺願望が起こった。あの頃はひたすら頭の中で自殺計画について考えていた。だがもし自殺が失敗すれば次からは周りが止めるだろう。だからチャンスは1度きりだ。自分の思い通りに死ぬためにはまず邪魔者を消さなければいけない。つまり手順としては周りを殺してから自分が死ななければいけない。そんなやばい思考がぐるぐると巡っていた。思考どころではない。そいつは衝動だった。なので僕は周りに包丁をどこか僕の見えないところに隠してほしいとお願いした。それは僕が僕を殺さないようにするためという理由もあったが実は僕が他人を殺さないためでもあったのだ。鬱で自殺願望が起こるということは分かるが他殺願望も起こるものなのだろうか。精神がおかしくなっているので人を殺したいと思ってもおかしくはない。

僕が死にたいと思ったのは鬱のせいばかりではなかった。同時に多発性硬化症にもかかり治療の術もなく体が動かなくなっていった。このまま体が朽ち果てていけば将来的には自分で死ぬことさえ出来なくなるかもしれない。それが怖かった。その時点でもう首を吊るためのロープをかけることさえ難しい体だったのだ。チャンスは今のうちしかない。そう思いながらただ時間が過ぎて行った。今日よりも明日は死ぬの難しい。明日より明後日はさらに難しい。だけどどうしても踏み切れない。僕の死体を見たときの周りの反応を考えると死ねない。あとは苦痛も嫌だ。何より死んでしまってはこの人生という物語の続きを見ることも出来ない。その時その時点でプツリと終わりだ。死はたやすくない。生命の死そのものに対する恐怖も湧いてきた。

僕の精神が人生で一番やばい時だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?