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死生学

公開2日目に鑑賞

人間、80年以上生きると、やっぱり皆一定の方向に振り切れるのだな、って思った。

作家や芸術家の晩年の作品は、クレイジーで難解なものが多い。
鬼気迫るものや、挙句の果てに本人にも分からないものを自身で生み出したりする。
最終的にはみんな、「今までのとおんなじやん」ていうのを出す。本質的には変わらないものが作品の中に残っていくんだと思う。



(ここからガッツリネタバレになるので見てない人は見ないでください)

あらすじというか、物語としては割と単純。
眞人は火事で母親を亡くし、父親の再婚相手の家に行く。再婚相手は亡くなった母親の妹で、(つまり亡くなった母の実家)そこで過ごすうちにある場所に迷い込み、火女(ヒミ)と言う少女に出会うのだが、よくよく話を聞いていくと過去神隠しになっていたころの自分の母親だったっていう。
それで二人でナツコ(ヒミにとっては妹であり、眞人にとっては継母)を探しに行って、最終的にはそれぞれの時代に帰る。

ファンタジーというか冒険譚みたいな感じではある。しかしなんの説明も無くサラサラと話が進んでいくのでストーリーとしては確かにちょっと分かりにくい。
物語自体を全く理解できなかったという感想も割とあった。
現代のコンテンツが、いかに観客に向けて親切にわかり易く作られているか、って思っちゃうよね。

作品全体を通して自分が感じたのは独特の「死生観」である。
既にこの世に居ない人との心の折り合いの付け方。
また、監督自身、いずれ自らもそうなるという事実とどう折り合いをつけるか。
そういうのがヒシヒシと作品全体に現れていたように思う。

あの島に渡ってからはそれがどんどん濃くなる。

「大いなる石」が妊婦を取り込んで石の意志を継ぐものを産ませようとしているところもなかなかグロテスクだったし、キリコが「ここで殺生ができるのは自分だけだ」と言っていたのも印象的だった。
瀕死のペリカンがそもそもどうして自分たちがここへいて、ワラワラを食すのかといった話を延々語るのもシュールだった。
様々なシーンで鳥に糞尿をかけられるという描写も「それ入れる必要ある?」って思うほどには不快だった。
インコの群衆もまぁまぁのトラウマになる。
絶望がいろんな形で次から次へを来るもんだから、ちょっとしんどかった。
何だこのゆるっとした死後の世界は、と思いながら見ていた。

諸々清濁併せ呑む事で成り立つ世界観、あの島での現実味のなさ、不穏さと不安さがどんどん増していく感じ。
ちょっと怖かった。
戻ってこれてよかったね。
眞人が大叔父の世界を拒絶しなかったら、キリコも自分の母も、ナツコも自分自身も、現実世界からは居なくなっていた(神隠し状態のまま)かと思うと……。
そしてそれぞれの時代のドアへ、還っていく。
あーなるほどなぁ、と思った。

作中に出てくる同タイトルの「君たちはどう生きるか」についてだが、読んでおくと眞人が泣いたシーンは「あ、あのシーンか」とわかる。
眞人はこれを大好きな母から貰い、これを読むことにより自分の中の不実さに気付いたのかな。
感動は人を変える。
ふたつの物語は全く違うものだけど、不思議と強い結びつきを感じる。
時を超えて。

そもそも、この映画は7年という制作期間を経て公開されているという。
長い年月をかけて作られた作品独特のとっ散らかり具合が、さらに今作をわかりづらくしちゃってるのかもしれない。おそらく膨大に削られた部分もあったんではなかろうか。その過程で残った描写やセリフが意味不明になっちゃってる部分はあると思う。めっちゃ削ぎ落とされてこの形になった感じ。

ともあれ、またジブリ映画を映画館で見れるのは単純に嬉しい。御大82歳でまだ仕事をしてくれるのが凄い。感謝。本当にありがとうございます。

昨今、なんにでも意味を求め、正しい解答を得たがる現代では流行らないのかもしれないけれど、少なくとも自分は見てよかったと思いました。
手塚治虫が火の鳥で描いた死生観も面白かったが、こんな風に物語を通して学べる死生学というのはとても好きだ。
面白かった。

声優、「あ、ハウルだ」って思った以外は全く分からなかったけど、みんなもわかってなくて安心したよね

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