サンショウウオの四十九日
本年度芥川賞一作目。
なんというか、今まで味わったことの無い読書体験だった。
他の人はどう思ったんだろう?と思って検索してみるけど、びっくりするほどレビューが少ない。
確かに、「感想の書きづらい本」かもしれない。
共感するポイントが少しでもあればまだ書きようがあるのだろうけど、今作に関しては「共感」することが非常に難しい。
少なくとも自分はそうだった。
特異な性質を持った二人の女性が主人公だ。
外からは一人の体に見えるが、間違いなくその中には二人の人間がいて、それは二重人格とはまた別で、明確に人間がちゃんと二人分、入っている。いや、もともと二人の人間が、何かの手違いでひとりとして生まれてきてしまったという方が近いかも。彼女らは結合性双生児、と呼ばれる。
そんな経験、多くの人は体験したことがないし、そんな知り合いがいるという人もかなり稀だろう。
まずそのシチュエーションが、理解できない。
だから想像が及ばない。
さらに特異な状況で生まれた叔父さんと、その叔父の体内で生きていた(後に取り出された)二人の人間の父親となる人物が出てくる。
これまた奇特な境遇で、なかなか想像出来ない。
そしてもちろん、共感もできない。
物語は日常的な、なんでもない生活と日々を通して紡がれてゆく。
二人の人間がふらふらと入れ代わり立ち代わり、心情を語ったり幼い頃を回顧したりする。
その様は非常に文学的だ。
どの角度から楽しんだらいいのか、どういう読み方がはたして正しいのか、ちょっとわからなくなる。
作者は医師であった経験があり、人体について専門的な話も出てくるのだがそれは最低限におさえられているように感じた。
物語の主軸はあくまで「文学」であるが、時折医学的な話が出てきてまた興味をそそる。
そしてなにより哲学的なのだ。
本作は中盤から後半、徐々に「死」に触れていく。
物語って、体験とか想像で書かれるものだと思うのだが、誰も体験したことの無い「死」をこんなに解像度高く精密に文章にした作品が今まであっただろうか。
だって死んだことある人っていないじゃない。
作者、実は何回か死んだことあるんじゃないかな、って思うくらい、引き込まれる文章だった。
物語の終盤、読みながら私は自分の呼吸が浅くなっていくのを感じた。
そのくらい、すごい。
すさまじい。
朝比奈秋さんの作品は本書が初めてなので、他にも読んでみたいなと思いました。
「あなたの燃える左手で」が面白そう。
医師であり作家、というジャンルは珍しいと思ってたけど、医師作家さんたちの短編集で「夜明けのカルテ」も面白そうと聞いたので読んでみたい。
私みたいな素人が面白かった、というのはちょっとおこがましい感じがするので言いづらいのですが、とても興味深かったです。
人体のしくみには、なんというか、摂理のようなものを感じるのですよね。
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