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私小説のような何か。

 国立大学の合格発表シーズンである。Twitterのタイムラインに「#春から〇〇大」が溢れている今日この頃だ。

 共通テストがある1月からこの時期にかけて自分の大学受験を思い出すという人も少なくないだろう。3年前に大学受験を経験した私もその例外ではないが、実は私は大学受験がトラウマである。

 親のいいなりになって塾をいくつも掛け持ちしたが勉強のやる気は上がらず、ただ椅子に座って時が流れるのを待つ日々。そんな自分を周りと比較しては落ち込み毎晩布団の中で泣いていた。当然センター試験で十分な点を取ることはできず志望大学を変更したのだが、そこから先は全く勉強せずパズルゲームばかりをしていた。それでも今の大学に合格できたのはまぁ、なんだかんだと小さい頃からそれなりの積み重ねをしてきたということだろう。

 そんなこんなで受験を終えた私だったが、中高時代の親友は私が本来目指していた大学に合格した。素直におめでとうと言えればよかったのだろうが、私は自分の中に湧き起こる嫉妬と劣等感に耐えきれず彼女と縁を切った。今ではもう連絡を取ることもない。

 だが、彼女の存在は私の中から消えることはなかった。彼女の好きな本、彼女の好きな色やデザイン、彼女の言った言葉、彼女との思い出……。彼女が私に与えた影響はあまりにも大きかった。

 学歴コンプレックスが今よりもずっと色濃かった2年前、私はその気持ちをベースに小説を書いている。誰にも見られることなくひっそりとパソコンの中で眠り続けたこの小説を、今なら公開してもいいだろう。そう思い立った私は今、この記事を書いている。

 以下に載せるのは私が2年前に書いた小説を手直ししたものだ。いや、起承転結も読者を楽しませる仕掛けも何もなく、ただダラダラと文章を書き連ねただけのものであるから小説とすら言えないかもしれない。まぁこの鬱々とした記事をここまで読んでいる人もそういないだろうし、駄文でも問題あるまい。

彼女は、俺を作る。

 俺は二年前、中学時代から六年ほど付き合っていた彼女と別れた。彼女を嫌いになったわけではない。二人で一緒にいるのが辛くなっただけだ。俺も、彼女も。

 俺と彼女が出会ったのは中学二年生になってすぐのときだ。よく晴れた四月の始業式の日のことだった。俺は少しだけ緊張した気持ちで新しい教室に入り、出席番号順に指定された席に座った。周りを見渡すと、入っている部活や一年生のときのクラスをベースに「グループ」が作られ始めている。俺が一年の頃につるんでいた浅井や広田も同じクラスだったはずだがまだ来ていない。

 微妙に時間を持て余した俺は寝たふりでもしようかと思ったが、ふとそのとき隣の席で本を読んでいる女子が目に止まった。やや茶色がかった長い髪、そばかすの浮いた白い肌。特に目立つ容姿をしているわけではなかったが、なぜか俺は彼女から目を離すことができなかった。本のページをめくる彼女の小さな手はふっくらしている。ブックカバーにプリントされた子猫がぱっちりした目で俺のことを見つめていた。

 俺は人と話すのが特別得意というわけではないが、さりとて話しかけるときに強く緊張するタイプでもない。俺はすぐに彼女に声をかけようと思ったが、やめた。俺が彼女に声をかけようとしたそのとき、彼女がページを見つめながら顔を綻ばせたのだ。とろんとした瞼に縁取られたその瞳は少し潤んでいる。その姿を見て俺は読書の邪魔をしてはいけないと思った、わけではない。完全に彼女に見惚れてしまったのだ。これが俺の恋の始まりである。

 その後なんだかんだあってゴールデンウィーク明けあたりから俺と彼女は付き合い始めた。「中学生の恋なんて」と周りの大人から軽んじるような目で見られることもあったが、俺たちは本気だったし恋は順調だった。

 始業式の日にも本を読み耽っていただけあって彼女は小説に詳しかった。彼女の家には図書館かと思うくらい本がたくさんあり、俺に次々と本を貸してくれた。俺は拙い感想しか言うことができず恥ずかしかったが、彼女はいつも俺の言葉ひとつひとつを受け入れてくれた。

 彼女に出会う前は流行りの冒険小説をちょこっと読む程度であまり小説を読んでこなかったから、彼女に本を紹介してもらうことで俺の世界はぐっと広がった。ただノリと雰囲気だけで会話をしている奴らとは違って、俺たちは小説を通してもっと深いことを話しているのだと得意になっていた。

 そして、本に関すること以外でも俺たちは本音をぶつけ合える仲だった。もちろん喧嘩も数多くしたが、それを乗り越えるたびに俺たちの絆は固くなっていったと確信している。周囲にはデートスポットに行って写真をSNSに上げることばかりに夢中になっている奴らや、付き合い始めてもすぐに飽きて数ヶ月で別れてしまう連中がごまんといたが、俺はそういう奴らをくだらないと思っていたし真実の愛で結ばれた俺たちが別れることは決してないと信じていた。

 中高一貫の学校だったので俺たちはそのまま高校に上がり、お互いを愛し続けた。県内有数の進学校だったこともあり高校に入学後ほどなくして大学受験を意識するようになった。

 俺は彼女に読書の楽しさを教えられた影響で、自分も本の魅力を伝える職業に就きたいと思っていた。まだはっきりとは分からないが、司書とか。地元で一番の国立大学であるT大では司書の資格を取ることができる。だから俺は早い段階からT大の文学部に行くと決めており進路に迷うことはなかった。

 一方で彼女は文系にするか理系にするかしばらく迷っていた。高校に入学したタイミングではS&Fシリーズの犀藤先生が好きだと言って理系に行きたがっていたが、二年生の進路調査ではやっぱり数学が苦手だから文系にすると言いだした。彼女は志望大学もしばらく迷っていたが、二年の夏頃には俺と同じT大の法学部を目指すことに決めたようだった。だが高校三年生の秋のタイミングで偏差値の都合上やはりT大の文学部にすると俺に伝えてきた。

 互いに目標が違えば気楽な気持ちでいられるが、同じ大学の同じ学部を受けるということは、俺と彼女が直接的な「ライバル」になるということだ。それが俺にはプレッシャーとなった。しかも、ずっと前からT大の文学部に行くと決めていた俺から見ると彼女は中途半端な気持ちで文学部を選んでいるような気がしてそれも嫌だった。だが、二人とも合格すれば大学入学以降も二人の時間を確保しやすいだろう。俺だけが落ちるなんてことのないように頑張らねばと思った。

 しかし、結果彼女は合格、俺は不合格だった。彼女の方が成績が良いのは前から薄々分かっていた。それに、俺は頑張らなければと思ってはいたものの受験勉強に身が入らなかったのだ。模試の成績に一喜一憂してばかりで前向きに勉強ができず、そんな自分に自己嫌悪している間に時はあっという間に流れていった。だからこの結果はある程度予想できていたことだ。しかし、いざそれを突きつけられると耐え難いものがあった。彼女が不合格であればこんな気持ちにはならなかったのに。そんなことを考えてしまう自分が憎くて仕方なかった。

 俺はT大より2ランクほど下の国立大学の後期日程を受験し合格。そのままその大学に進学することにした。親からは浪人を勧められたが、そんな気力は湧いてこなかった。

 お互いに大学が地元だったこともあり俺たちは大学に進学してからも付き合いを続けていた。彼女は自分より俺の学歴が低いことを気にするそぶりは全くなかったが、俺は彼女のことを考えるたびに苦しんだ。浅はかな考えであることは自分でも分かっているが、自分が彼女よりも「下」であることが耐え難く、「上」の彼女を憎んでしまうようになったのだ。だが俺は彼女と別れることができなかった。そんな醜いコンプレックスで彼女と別れるなんてかっこ悪いじゃないか。そんなことをしたら俺は本格的に自分を許せなくなるだろう。

 俺は自らのコンプレックスを乗り越えようとした。学歴だけが人間の魅力ではないということを何度も自分に言い聞かせ、自己啓発本を読み漁った。しかし彼女への憎しみは日に日に増大していくばかりだった。なぜ彼女ばかり何でも持っているんだ。彼女の大学生活がつまらないものであればいいのに、彼女がみんなから嫌われるようになればいいのに、彼女が不幸になればいいのに……。

 だが、俺の醜い願いに反して彼女はさらに輝きを増していった。彼女は勉強もサークルもバイトも全てがうまくいっているように見えた。彼女の輝きに比例して俺の嫉妬も強くなったが、同時に自己嫌悪も強くなっていった。ああ、俺はなんて醜い人間なんだろう。何も悪くない彼女を憎むなんて。よりによって永遠に愛すると信じて疑わなかった彼女を。俺は彼女への気持ちを真実の愛だと信じていた。それなのに彼女の不幸を願うとはどういうことだろう。俺は彼女を愛していなかったということなのだろうか。俺はもう自分を信じることができない。俺は誰も愛することができないんじゃないか。俺は一体、俺は……。

 そんな思いを抱えながら一年が過ぎた。柔らかな日差しが差す3月半ばのある日、俺と彼女はお昼から桜を見にいった。桜をまぶしそうに見上げる彼女は美しく、どこか儚さを纏っていたのを覚えている。その帰り、俺たちは手を繋ぎながら人気のない道を歩いていた。彼女が何気ない様子でぽつりと言った。

「ねえ……、私たち、別れよっか」

 そう言われた瞬間の気持ちを俺はうまく思い出せない。ショックだったような気もするし、どこか安堵していたような気もする。

「リュウくんのことを嫌いになったわけじゃないよ。でもね、リュウくん私と一緒にいると苦しそうだから。そんなリュウくんを見てると私まで苦しくなっちゃうだ……」

 俺は自分のコンプレックスを彼女の前ではなるべく隠しているつもりだった。でも彼女は気づいていたのだ。やっぱり彼女には敵わないな、と思った。その日、俺たちは桜の木の下で最後のキスをして六年間の付き合いに終止符を打った。

 あれから二年ほど経った今現在、俺は書店の本棚の前に立っている。久しぶりに小説をまとめ買いしようと思ったのだ。まず外せないのは『十一国記』の最新刊。そして以前本屋大賞になった『蝶々と遠雷』も読まなければ。久々に有川ひろしも読みたい……。

 レジに向かう途中、ふとかごの中を見た俺は思わず苦笑いをした。『十一国記』は彼女に勧められて嵌まった作品だ。『蝶々と遠雷』の作者である恩田海も、有川ひろしも彼女が大好きな作家である。そもそも俺が今小説を読んでいるのは間違いなく彼女の影響だ。

 俺は彼女と別れてからなるべく彼女のことは考えないよう努めてきた。だが俺は彼女の影響を受けすぎていたようだ。俺はどうしようもなく彼女でできている。

あとがき

 あなたが今これを読んでいるということはもしかして私の書いた小説モドキを全部読んじゃったってことですか?ひゃー!こんな鬱々とした文章を最後まで読んでくださりありがとうございます。

 で、どうでした?改めて自分で読み返してみると「リュウくん」って自分のことしか考えてなくて、ウジウジしてるくせにプライドだけは高いクソ野郎だなと思いました(笑)

 私の気持ちを小説にしているという話を最初にしましたが、恋愛要素とかは完全にフィクションですしリュウくん=私というわけではありません。ですがやっぱりリュウくんのベースは私ですね。引きました?私っていろいろと拗らせてるんですよ。いつからこんなに捻じ曲がっちゃったんでしょう。

 私は人生で小説らしきものを2回しか書いたことがないのですが、次回はもう一つの方を載せようと思います。と言っても私が一から生み出したものではなく『鬼滅の刃』の二次創作です。こちらは楽しい内容のはずなので鬼滅が好きな人はぜひ読んでみてください!ではでは次の記事でお会いしましょう。ごきげんよう。

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