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【量子生物学】鳥の渡りや光合成にも量子論が関係している

鳥の渡りや光合成に関して量子論が関係しているというのは、生物学や生物物理学の現象において、量子力学の原理が重要な役割を果たしていることを意味しています。具体的には、鳥の渡りに関する研究では、鳥が地球の磁場を感知して方向を見つける能力(磁気感覚)と、光合成においては植物が光エネルギーを効率よく化学エネルギーに変換する過程において、量子現象が重要な役割を果たしているとされています。

  1. 鳥の渡りと量子論 ヨーロッパのミツスイ科の鳥の一部が地球の磁場を感知して方向を見つける能力を持っていることが示唆されています。この磁気感覚は、鳥の目のタンパク質(クリプトクロム)内で起こる量子的な現象と関係しているとされています。地球の磁場によって生成される量子的な状態(ラジカル対)が、鳥のクリプトクロム内で形成され、磁場の強さや方向に応じて量子的な状態が変化します。これによって、鳥は磁場を感知し、渡りの方向を決定できると考えられています。

  2. 光合成と量子論 光合成は、植物や藻類、光合成細菌が太陽の光エネルギーを利用して二酸化炭素と水から酸素とグルコースを生成する過程です。この光エネルギーの受容から化学エネルギーへの変換過程で、量子現象が重要な役割を果たしています。光合成の過程で、光エネルギーが植物の光受容体(光システム)によって受け取られ、電子が励起されます。この励起状態の電子が、光システム内で効率よくエネルギーを伝達するために、量子的な現象(量子コヒーレンス)が利用されているとされています。この量子コヒーレンスにより、エネルギー伝達が最適化され、光合成の効率が向上していると考えられています。

量子コヒーレンスとは、量子状態が一定の相関関係を維持する現象で、これによって植物は効率的にエネルギー伝達経路を見つけることができます。光エネルギーは、光受容体であるクロロフィル分子間を移動しながら、反応中心へと至ります。ここで、光エネルギーが化学エネルギーに変換され、さらにATPやNADPHといったエネルギー貯蔵分子が生成されます。

量子コヒーレンスは、エネルギーの伝達経路を最適化し、光合成の効率を高める役割を果たしています。この現象は、光合成の第一段階である光依存段階において特に重要です。量子論が光合成に関与していることは、生物学的なシステムが量子力学の原理を利用してエネルギー変換効率を最大化する例として注目されています。

要約すると、鳥の渡りと光合成において、量子論が重要な役割を果たしていることが分かっています。鳥の磁気感覚におけるクリプトクロムの働きや光合成における光エネルギーの効率的な伝達は、生物学的現象における量子力学の応用例として研究されています。これらの研究は、生物学と物理学の融合による新たな知見をもたらすだけでなく、将来的には技術革新や持続可能なエネルギー生産に貢献する可能性があります。


参考文献

鳥の磁気感覚に関する研究:

  • Ritz, T., Adem, S., & Schulten, K. (2000). A model for photoreceptor-based magnetoreception in birds. Biophysical journal, 78(2), 707-718.

  • Mouritsen, H., & Ritz, T. (2005). Magnetoreception and its use in bird navigation. Current opinion in neurobiology, 15(4), 406-414.

  • Solov'yov, I. A., Mouritsen, H., & Schulten, K. (2010). Acuity of a cryptochrome and vision-based magnetoreception system in birds. Biophysical journal, 99(1), 40-49.

  1. 光合成と量子論に関する研究:

  • Engel, G. S., Calhoun, T. R., Read, E. L., Ahn, T. K., Mancal, T., Cheng, Y. C., ... & Fleming, G. R. (2007). Evidence for wavelike energy transfer through quantum coherence in photosynthetic systems. Nature, 446(7137), 782-786.

  • Collini, E., Wong, C. Y., Wilk, K. E., Curmi, P. M., Brumer, P., & Scholes, G. D. (2010). Coherently wired light-harvesting in photosynthetic marine algae at ambient temperature. Nature, 463(7281), 644-647.

  • Panitchayangkoon, G., Hayes, D., Fransted, K. A., Caram, J. R., Harel, E., Wen, J., ... & Engel, G. S. (2010). Long-lived quantum coherence in photosynthetic complexes at physiological temperature. Proceedings of the National Academy of Sciences, 107(29), 12766-12770.

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