『会議の生産性を高める 実践 パワーファシリテーション』を読んでみた

本書は、プロフェッショナル・ファシリテーターが行っている企業の研修プログラムのエッセンスを集約。

「会議」を効率よく、且つ効果的に進める「ファシリテーション」の実践的手法をわかりやすく解説した一冊です。

◆書籍の紹介
会議の生産性を高める 実践 パワーファシリテーション
楠本和夫 著

ファシリテーションとは

本書の軸であるファシリテーションとは、参加者に切り口を展開して、意見やアイデアを引き出した後、次に進めるための要素の整理をおこない、基準を提示して合意形成を図る偽装となります。

ファシリテーションには以下の3つのポイントがあります。

①「切り口を展開」すること
意見やアイデアが出てこないのは、会議においてリーダーが適切な切り口を展開できていないためだと本書では語られています。アイデアが出ない、意見が出せない、議論が盛り上がらないときは、メンバーに問題があるわけではなく、リーダーやマネジャーの力量が不足となるのです。

②「要素の整理」をすること
会議をおこない、意見やアイデアがたくさんでたとしても、各要素のレベルが最初から整っているわけではありません。また、論点からズレることもあります。そうしたメンバーからあげられた情報の要素を整理し、レベル感をそろえる作業が必要となります。

③「基準を提示」すること
候補案が複数ある場合、メンバーが納得する意見に絞るためには、選択するための基準を提示しておく必要があります。合意形成をおこなう際に、基準があいまいだと、それぞれの価値観で意見の主張がぶつかることもあるため、基準を提示しておくことが重要なのです。

ファシリテーションが必要とされる理由

企業活動のすべてはコミュニケーションから始まり、社内での会議が業務の大半を占める会社も少なくありません。働き方改革の流れから、生産性の向上はどの企業も課題として抱えているものの、この会議の効率性が悪いと、なかなか改善を図ることはできないと本書では語られています。

同じ成果をより短い時間で出す、同じ時間でより高い成果を上げる、このどちらかを考えるときに、効率的かつ成果に直結するファシリテーションをおこなうことで、昨今急速にニーズが高まりつつあるといえます。

そして、AIが人間の代わりをおこなう時代に突入している中、人間の役割はゼロからイチを生み出すことにあるとも言えます。AIができて、人間ができないことを見直すとするならば、ファシリテーションはそのための必須スキルであるといえます。

ファシリテーションとリーダーシップ

ファシリテーターにリーダーシップは必要ないのか?という疑問について、本書では以下のような回答を述べています。

ファシリテーターこそリーダーシップが必要である

その理由は、ファシリテーションをおこなう上で、リーダーシップが不要なのは、メンバー全員が論理的、合理的であり、ファシリテーションがわかっているという条件が整っていなければならないからです。

現状の社内会議を振り返ると、受け身の態度や、異なる議論に展開してしまったり、全員が全員、ファシリテーションの本質が理解できていることは少ないでしょう。そのため、通常の会議を進行させるためには強力なリーダーシップを発揮し、ファシリテーターとして引っ張っていく必要があるのです。

ファシリテーターとしてのリーダーシップ

本書ではこれからのあるべきリーダー像を以下のように定義つけています。

✔リーダーは、メンバーか色々なアイデアを引き出すことが重要だ
✔リーダーがわからないことがあってもいい。そのままにするほうが問題だ
✔チームとして出した案から最良の案を選ぶ力こそが重要だ

これまでのリーダーであれば、リーダー自身がもっとも知識があり、優れたアイデアを持つ必要があったかもしれません。しかし、これからのリーダーは、自分の意見を押し出す力ではなく、情報やアイデアを周りから「引き出す力」を有する必要があります。

◆過去のリーダーの問いかけ
「今年の戦略について、〇と✖という2つの施策に取り組もうと考えているがどうか?」

◆これからのリーダーの問いかけ
「今年の戦略について、まず〇という切り口で見たとき、あなたならどのような施策が考えられる?」

最後の意思決定はリーダーがおこなう必要がある

本書では、著者に対しよくある質問として、「ファシリテーターが意思決定するの?」「リーダーとの役割の違いは?」というものがあると紹介されています。著者の回答としては、「意思決定権を持つのはあくまでリーダーであり、最後はリーダーが意思決定をする」と語られています。

ファシリテーターは、情報やアイデアをメンバーから十分に引き出すことを通じて、リーダーが「質の高い(目的を達成する可能性が高い)意思決定をするための重要な支援役」だと捉えるべきです。

5つのファシリテーション技法

本書のタイトルでもある「パワーファシリテーター」とは会議をコントロールするという感覚を持ち、積極的な問いによってメンバーから知恵を引き出し、納得感のある意思決定まで力強くリードできる存在だと、定義づけられています。そのために必要なスキルを5つに要素分解して紹介されています。

技法①議論の構成をデザインできる
「メンバーがこの会議の背景をわかっていない様子なので、まずその共有から入る」「アイデアを出す前に議論の分析から入る必要がありそう」など、ゴールに向けて、実際にどのような展開になっていきそうか、について想像力を働かせることが必要となります。

技法②アンテナと立て、問いを立てられる
ファシリテーターは自分で答えを見つけるのではなく、メンバーから答えを引き出す「問い」を立てる必要があります。また答えを出す以外にも、議論のズレを正したり、発言の意図が不明な時に、問いを立てて修正をおこなう力が必要となります。

技法③出てきた意見を整理できる
出てきた意見を整理して、議論を次に進める、または完了させるためのスキルです。議論のタイプごとに出てきた意見やアイデアを整理するための方法論(フレームワーク)を駆使する必要もあります。

技法④グラフィックを効果的に使える
ホワイトボードをつかって議論内容を可視化し、議論を効果的に促進するためのスキルです。ホワイトボードを必ずしも活用する必要はありませんが、ホワイトボードを活用することで議論の効率が飛躍的にアップします。

技法⑤議論のスタックから抜け出せる
議論が停滞した際に、そもそもその状況を招いた原因を見極めて、それを解決し、先に進めるためのスキルです。意見が対立する理由は、「前提のズレ」に起因すると言ってよいと本書では語られています。

議論の設計モジュール「5つのS」

議論のタイプは大きく分けて5つに分類されます。これを本書では議論モジュールと呼んでいます。モジュールとは部品、つまりこれらを議論を構成するために必要な「部品」であるということです。

◆議論モジュール

shere:共有
【共有の議論イメージ】
・ブランド戦略を議論することの目的を共有する
・販促プランを検討する参考材料として、他社事例を共有する
・問題を解決するために、まずは現場の実態を共有する
・品質向上会議の前にすでに社がきめている品質の定義を共有する

【共有を入れる状況】

・各メンバーのお題、テーマについての捉え方が不安なとき
・メンバー間での情報量の違いがありそうなとき
・見ておいたほうがはかどりそうな情報があるとき

ファシリテーションのポイントは、事実と意見を混同させないことにあります。曖昧な場合はそれらを区別するよう、メンバーに指摘する必要があります。

set:定義
【定義の議論イメージ】

・顧客の成功を支援、というが「成功」は何を指している?
・理念の浸透試作を考える前に、どこまで行って「浸透」したとする?
・社員の健康UP施策を議論する前に「社員」の対象範囲をどうする?

【定義を入れる状況
・お題の中にあいまいな「名詞」「動詞」が含まれているとき
・そのまま進めると、議論の対象範囲が広がりすぎてしまうとき
・議論の中で、抽象的な概念に関して、意見の対立が起こったとき

名詞と動詞の両方に気を付ける必要あります。とはいえ、あまり細かく細部までこだわりすぎると議論が進展しないので注意しましょう。

spread発散
【発散の議論イメージ】

・営業マンのスキルアップを目的として議論を洗い出してみよう
・自社技術の活用方法についてアイデアを出してみよう
・ある商品の「売り」となる新機能の候補案を洗い出そう

【発散を入れる状況】
・視点を広げて、新しいアイデアをたくさん集めたいとき
・導出した議論を解決するための施策を得たいとき

ファシリテーションのポイントは、各案を細かく評価せずに、アイデアではなく切り口を提示する必要があります。

solve解明
【解明の議論イメージ】

・なぜ、あのサービスは販売好調なのか?その要因を探ろう
・事業部によって成果にバラつきがある理由を特定しよう
・なぜ、顧客Aが自社商品を選んでくれないのか、原因を考えてみよう

【解明を入れる状況】
・そのお題が設定された背景に、何等かの議題が存在しているとき
・アイデア発散の前に、議題を整理したいとき

ファシリテーションのポイントは、要素探索のための切り口を抜けもれなく出すこと、そして出てきた要因仮説を整理し、主たる要因を特定することが必要です。

select:選択
【選択の議論イメージ】
・2つのセールス戦略のうち、どちらを導入するか?
・社員旅行の行き先は、箱根か金沢か湯河原か?
・来期の広告は代理店DかHどちらに任せるか?

【選択を入れる状況】
・複数の選択肢があり、どれかを選ばなければ次に進めないとき
・最後の意思決定段階の時

ファシリテーションのポイントは、選択のための基準を決めることにあります。会議の目的に照らし合わせ、選択のための基準を定めます。

「問い」とはそもそも何か

本書では、ファシリテーターとして必要なスキルとして「問い」についてあげていますが、この問いとは4本のアンテナが必要だと記載があります。

①ズレてない?②理解できる?③どう拡げる?④どこを深堀る?です。特に議論のズレについては、4つズレがあります。

ヨコズレ:並列の切り口にズレる
広告の戦略についての議論なのに、商品戦略についての発言が出てくる

タテズレ
セールス戦略についての議論なんもに、会社の方向性について熱く語りだしたり、個別の販促ツールについて議論し出す

順序ズレ
まず問題の解明をやろうとしているのに、いきなり施策アイデアを出そうとする

ルールズレ
発散だからたくさんアイデアを出そうとしているのに、アイデアが出てくるたびにいちいち評価しようとする

ズレを正すには、直接正すことや、間接的にメンバーに確認する、一端流してもう一度戻るなど、いくつか方法があります。そのためにはまずズレてない?というアンテナをしっかり立てて、議論を正しい方向に導くことが重要です。

まとめ

本書を選定した理由は、現在御社のWebチーム内でディスカッションを定期的に実施しており、その中で自分のファシリテータースキルが足らず、議論が曖昧になる、決定力に乏しいと感じた事がまずあります。

また、クライアントとディスカッションをする機会も多くあるため、その中で適切にメンバーの意見や、クライアントの意向を聞き出すスキルを養うため本書を手に取りました。

まず本書を読み終えたあとの気づきとして、自分はファシリテーターとして、適切な問いを生み出す力が不足していることに気づきました。議論のズレや、方向性が異なる際の修正力ももちろん、発言が活発になるような雰囲気がまだまだ作れていない点が気づきとしてあります。

そして何よりも「合意形成をとり、まとめる力」が足りません。この点で、何に原因があるのかを考えると、「肯定」を優先しているため、メンバーやクライアントに遠慮してしまう節が自分の中にはあると感じました。

この先、ティール組織を実現していくにあたって、ファシリテータースキルは必要不可欠だと考えています。意見が出ることは肯定するべきなので、肯定しつつ、議論がズレたときの軌道修正するための「問いを生み出す力」「合意形成をとり、議論をまとめる力」この2つを、これから養っていきます。御社Webは、社内で最も、ディスカッションの効力を最大化できるチームにしていきます。

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