『アドラーに学ぶ部下育成の心理学』を読んでみた

アドラー心理学は、これまで、主に子育てや学校教育の分野で活用され、企業の人材育成には適さないと考えられてきた。なぜなら、企業組織においては「短期的な結果を出すこと」が必須だからです。

オーストリアの精神科医、アルフレッド・アドラーによって提唱されたアドラー心理学は、「自己啓発の源流」とも呼ばれ、その考え方は、コーチングなどにも応用されています。

アドラー心理学とマネジメントという観点で、まとめられたのが本書となりますので、部下の育成に課題があるリーダーは、是非手にとって頂くことをお勧めします。

■著書の紹介
アドラーに学ぶ部下育成の心理学
小倉広 著

褒めるではなく『勇気づけ』が必要

部下が目標を達成した際に、通常上司であれば「よくやった」と褒めますが、アドラーは褒めるということを否定しています。褒める=上から目線の行動であり、相手の自律心を阻害してしまうからです。また、上司への依存度を高めてしまい、かえって部下個人の成長が遅れることに繋がります。

アドラー心理学では褒めるのではなく、勇気づけと表します。褒めるという行為は、上下関係を刷り込むにも繋がっています。相手をコントロールしようと無意識化に考えてしまうのです。

勇気づけでは、相手が自分の力で自発的に困難を克服するように応援することです。業績を上げた部下に対して「偉いぞ! よくやった!」とほめるのではなく、「生き生きと仕事をしているね」「チームを助けてくれてありがとう」のように、横から目線で主観や感想、感謝を伝えることが必要となります。

■部下が提出した資料の出来が良かった時
【ほめる】
「なかなかやるじゃないか、良い出来だ」
【勇気づける】
「とても読みやすいね。読み手の立場を考えた工夫が感じられるな」

■部下が企画した商品がヒットした時
【ほめる】
「よくやった。偉いぞ」
【勇気づける】
「あきらめずに最後までこだわっていたね。私もうれしいよ」

ほめるの定義
相手の優れている点を評価し、称賛すること

勇気づけるの定義
相手が困難を克服する活力を与えること

勇気づけでは決して『叱ってはいけない』

部下が、目標を60%しか達成できなかったとします。その際に、上司や先輩として、結果ではなくプロセスに注目するが重要です。そして、結果については60%はできたことに注目します。良い点を見つけて認め、ポジティブな感想を伝えて勇気づけるべきだと本書では、語られています。

叱らずに勇気づけながら部下を指導する基本形の1つは「主観伝達」と「質問」です。こんな観点に気を付けると良いとアドバイスをした上で、どんなやり方が考えられるか?と質問を投げかけます。部下に自主的に考えさせることで、叱らずに成長させることができるのです。

勇気づけの万能スキル「アイ・メッセージ」

大相撲で小泉首相がいった「感動した」というセリフが本書では取り上げられています。このセリフが「アイ・メッセージ」です。実は小泉首相はこのメッセージの前に「痛みに耐えてよく頑張った」というセリフも言っています。これは「ユー・メッセージ」です。

アイ・メッセージとユー・メッセージを二つ用いることで、効果的に勇気づけができるのです。

原因分析ではなく解決策を考える


職場で問題が起きた時に原因分析をおこなうはずです。しかし、原因分析は「勇気くじき」を引き起こしてしまうことがあります。「担当は誰だ?なぜ見落としたんだ?」と追及されたとき、担当者は「責められている」と感じます。原因分析は「犯人捜し」と「吊し上げ」の効果をもたらしてしまいます。

 勇気くじきをなくすために最もいい方法は、原因分析をやめることにあります。例えば、「さあ、今回と同じ問題を起こさないためには、どのような対策を取ればいいでしょうか。どんどんアイデアを出してください」と宣言するなど、原因ではなく、解決策にフォーカスします。

部下に指示を出さずに『空白』をつくる

リーダーや上司が会議を独占するのはどこの現場でも起こりえますが、実はこれも部下の成長を阻害するコミュニケーションが問題となります。

「部下の主体性が低くて困ります」「責任感がありません」「後輩の指導をしようとしません」といった問題も、上司がしゃべりすぎる、命令しすぎることが根本的な原因であることも多いのです。

 自分の頭で考え、自分の意思で行動する社員を育成したいと思うなら、指示、命令を通じて課題の答えを言ってしまってはいけないことを念頭におきましょう。教えずに空白を作り出し、部下たちの手でその空白を埋めさせることが人材育成の本質です。

求められて初めて応じる「支援応需」

教えない部下育成の基本は、「支援応需」にあります。部下から「教えてください」「手伝ってください」と要請があったときに、初めて上司がそれに応えるということです。

質問されたら正解を教えればいいというほど、支援応需は単純なものではありません。「どうしたらいいですか?」と部下に問われたら、まずはオウム返しをします。

「あなたはどうしたいの?」と上司が「答えを言った方が早い」という誘惑に耐え、質問には質問で応じることで、部下は自分の頭で考える力をつけることができます。

教えずに、あえて失敗を経験させる

人は体験からしか学べない。特に大きく成長するのは「失敗したとき」です。失敗して痛い目に遭い、死にものぐるいで試行錯誤し、考える。そして、失敗を乗り越え成功をつかんだ瞬間に大きく成長できます。

しかし、指示や命令に基づく作業だけを体験させても人は成長しません。自分の意思で決めた中での体験だからこそ深い学びがあるのです。

たとえば、子どもが学校へ行くとき、いつも忘れ物をして先生に叱られているとします。親が「忘れ物ばかりして! もうするんじゃない!」ときつく叱るのが「勇気くじき」になります。アドラー心理学のアプローチでは、忘れ物をする子どもに「何も言わない」です。

忘れ物をして困るのも、叱られて嫌な思いをするのも子ども自身。小さな失敗であるならば、放っておいてどんどん体験させます。この「自然の結末を体験させる」という考え方は、子育てのみならず、部下の育成に応用することができるのです。

周囲は淡々と普段通りにしていればよい

 そうは言っても、たとえば毎回会議に遅刻する部下を放っておいたら、他のメンバーに迷惑がかかるのでは……という疑問を持つ方もいるかもしれません。しかし。会議に遅刻するのなら、その部下を待つことなく、定刻通りに始めれば良いのです。

遅れることで大事な話を聞きそびれ、同僚から信用をなくして困るのは本人です。自然の結末を体験させるために、周囲が我慢をする必要はありません。周囲の人は淡々と普段通りに仕事を進めることが肝心です。

無条件に相手を信頼する

例えば、部下に、「鈴木さん、私はこれまでおせっかいを焼きすぎました。そのことによって、鈴木さんが自ら気づく機会を奪ってきたと反省しているんです。私はあなたが自分の力で課題を解決できると信じています。だから、これからは余計な口出しをしないようにします」などというように、事前に告げておくことが重要です。

加えて、日頃から部下との間に信頼関係を築いておくことが必要不可欠です。特に上司から部下に対しては、裏付けがなくても、裏切られる可能性があっても無条件に相手を信じる姿勢が求められます。

共同体感覚

アドラー心理学における教育の目標は「共同体感覚の育成」にあります。共同体感覚とは、①自分は誰かの役に立つことができる=自己信頼②周囲の人は自分を助けてくれる=他社信頼③自分は社会に居場所がある=所属感の3つにより形成されます。

そして、共同体感覚を身につけるtまえには、「まず他社への貢献から始めよ」とアドラーは言っています。

まとめ

本書の選定理由は、自分が部下にまだまだ仕事を振っていないという事実があり、そこにマネジメントの弱さがあると感じ、その解決策を模索するために本書を手に取りました。

実際、まだまだ任せていないというのは、部下に適切なタイミングで成長をさせたいという自分のエゴからです。またリーダーとしての判断の遅れなどもあります。仕事には「雑用」という考え方はないのですが、簡単な仕事ほど、「こんな仕事を部下にさせたくない」という気持ちが強くあります。あと、今不要なスキルは、自分がカバーするという考えも強いです。

本書を読んで、自分が出来ているところと出来ていないことがあると感じました。共同体感覚は基本的にチーム全員に伝えているので、そこは良いチーム構成の一つになっています。しかし、「教える」ということに徹してして、空白を与えていないという気づきもありました。

部下の自主性を育むことが少なく、依存度が高くなってしまっています。そのため、まずは空白を作り、部下に考えさせる状況をもっと積極的にとっていきます。


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