「好き」を捨てた私が、もう一度幼い頃の夢を追いかけ、絵本作家になるまで
2022年の8月12日に初の電子絵本を出版しました。
タイトルは『ののちゃんは そばかすが きらい』
「そばかす」「くせっけ」「ぽっちゃり体型」がコンプレックスな女の子の元に、動物たちから電話がかかってくるお話です。
自分の絵本を出版することにずっと憧れていたものの、絵も描けないし自信もないし……で諦めていました。
今回は私が絵本作家と名乗れるようになるまでの紆余曲折をお話ししたいと思います。
絵本に夢中だった病弱な幼少期
私は生まれつき身体の弱い子どもで、しょっちゅう熱を出しては幼稚園を休んでいました。家族ぐるみで遊びに行く約束をしても、私が熱を出して行けなくなってしまうことばかり。母親が電話口で相手の家族に謝っている姿をよく見ていました。
友達と遊びはしますが、同年代の子たちほど活発ではありません。子どもながらに「自分は他の子より力が弱い」と感じていました。
病気がちだった記憶が多い幼少期ですが、大好きだったものがあります。「絵本」です。
母がよく図書館に連れて行ってくれて、山ほどの絵本を借りては家で読み聞かせしてくれました。私はそんな時間が好きで、絵本の世界にも夢中になったのです。
そのうちに読むだけじゃ足りなくなり、自分でも絵本を作るようになりました。頭の中の世界を画用紙の上に絵と文章にして……。
5歳のとき、はじめて描いた絵本は『ゆっくりタクシーのリーピー』でした。文字通り、リーピーという名のゆっくり走るタクシーのお話です。
病気がちだった私は、両親や周囲に心配ばかりかけていました。
しかし自分で作った絵本を家族に読み聞かせているときは違います。母も父も祖父母も嬉しそうに笑うのです。そこに心配や不安な顔はありません。弱々しい私が無敵になれる瞬間でした。
絵本作りは楽しく、また家族に笑ってもらえるのが嬉しくて、私は次々と絵本を描いていきました。
・ことりがダンスパーティに行くお話
・きつねとひよこがみかん狩りに行くお話
・こぐまがスキーをするお話
・犬と魔女が夜の散歩をするお話
・2歳の妹へうさぎから電話がかかってくるお話
うさぎから電話がかかってくるお話は、当時電話遊びが好きだった妹に向けて描いた作品です。実は今回出版する絵本のアイデアの元となっています。
絵本を描くのをやめてしまった理由
絵本を描くことは、私の価値観や性に合っていたと思います。
しかし小学生の頃になると、徐々に描かなくなっていきました。
周りの友人たちは、誰もそんなことをしていなかったからです。スポーツなどアクティブなものを趣味にしている子ばかりでした。
そもそも私が絵本を作る趣味を持ったのは、病弱だったことが起因しています。今思えば私は、身体が弱いことがコンプレックスだったのでしょう。
小学生低学年になっても相変わらずよく熱を出し、保健室の常連だった私。元気でハツラツとした人に憧れ、同時に貧弱な自分を恥じていました。
絵本作りは、そんな自分の受け入れられない姿を象徴しているように思え、私は創作をやめてしまったのです。
今となっては、なんてバカな考えで、勿体ないことをしたのだろうと思います。しかしあの頃の私は、人目を気にせずに「好き」を貫いたり、自身の弱い部分を受け入れることができませんでした。
小学校高学年の頃には、体調も安定してきました。ですが作品を生み出すこともなくなり、絵も全然描かなくなったのです。
そして、周りの笑顔が見たくて絵本を描いた楽しさも忘れていってしまうのでした。
「ののちゃん」が生まれた日
再びお話を書いたのは、大人になって結婚してから。
ちょうど人生の挫折を味わっていたときでした。
当時勤めていた会社の事務が、あまりにも向いていなくて辛かった
↓
夫の転勤で関東から、知り合いが誰もいない九州へ
↓
体調が悪化し、闘病することに
身体の調子が良くないと、心もすり減るものです。
自分の向いている仕事がわからない
新天地には友人もいなくて孤独
まずは健康を取り戻さないと
こんな私に何ができるのだろうか……?
無力感で自己肯定感がすっかり下がっていた私に、母がこんな提案をしました。
「また絵本を描いてみたら?」
絵本作りならば身体に負担にならないし、紙とペンがあればすぐにできます。
どんなお話にしようか考えていたら、幼い頃に妹のために描いた物語を思い出しました。電話あそびが好きだった妹の元にうさぎから電話がかかってくる、あのお話です。
「内気な女の子のところに、いろんな動物から電話がかかってくるお話はどうだろうか……」
過去の自分の作品から、イメージを膨らましました。
こうして生まれたのが『ののちゃんは そばかすが きらい』です。
作品のテーマは「多様性と自己受容」。
「そのままの自分を受け入れられるようになると、生きるのが楽しくなる」
「自分を受け入れられると、人のことも受け入れられるようになる」
というメッセージが込められています。
自分のことが受け入れられずに苦しんでいた時期だったので、まるで自分を励ますように、ののちゃんの物語を書き上げました。
20年ぶりくらいに描いた絵本は、文章はノートに走り書き、絵もひどい落書きという有様……(笑)
でも不思議と満足でした。「ののちゃん」を読んで母や夫が嬉しそうなのを見て、幼い頃にも感じた「満たされたような無敵感」を思い出しました。
しかしこのときはまだ、出版してみようとは全く思っていなかったのです。あくまで趣味レベルで描いたものだと、そっと引き出しの奥にしまいこんだのでした。
突然お絵描きにハマる
それから私の体調はゆっくりと快方へ向かっていきました。
元気になってくると、いろいろやってみようじゃないかという気持ちにもなります。Webライターになるためのライティングスクールを受講したり、宅録ナレーターに挑戦してみたり。
そしてゆるくではありますが、フリーランスとして活動するようになったのです。プライベートでも仲良くできるフリーランス仲間もできて、以前のように孤独ではなくなりました。
自分のスキルで勝負するフリーランス。仲間の中にはイラストレーターも数名いました。彼女たちがイラストをプレゼントしてくれたことがあるのですが、とっても嬉しくて幸せな気持ちになるんですよね。
そしてきっと、描いている本人たちも楽しいのだろうなあと。
「自分も楽しくて相手にも笑顔と幸せを届けられるなんて、最高じゃないか」とイラストレーターに憧れるようになりました。
2022年の3月、試しにお絵描きアプリをダウンロードしてみたところ、見事にドハマり!絵も下手くそで、子供の落書きそのものでしたが、時間を忘れて毎日何枚も描いていました。
私がよく描くものは動物。周囲の人を動物化して絵を描くことにハマっていました。
動物化したイラストをプレゼントすると、「絵本のキャラクターみたい!」と喜んでもらえて。
自分が描いたキャラクターに物語を持たせてみたら、どんなふうに動くだろうかと考えるようになりました。
絵本出版のきっかけ
イラストを描くようになって、作品で人の笑顔を見る充足感を再び思い出してきた私。
エイプリールフールに仲間たちに「絵本出版します!」と嘘つくくらいには、絵本を出すことに憧れを抱いていました(笑)
周囲で電子書籍を出版している人も多く、「自分も出版するなら電子書籍だな」とぼんやり考えていました。
しかし私には「アイデアは浮かぶけど、形にするのが苦手」「事務作業がマジで苦手」という弱点があります。
多くの事務作業や手続きを経て形にしていく電子書籍出版において、絶望的な弱点です(笑)
またお話の種はいくつかあったものの、どれもオチまで決まり切っていなかったことも、出版に踏み切れなかった理由の一つ。
絵本出版が本格始動したのは7月中旬、夫の言葉がきっかけでした。
「ずっと前に描いた、ののちゃんを出版してみたら?」
幼い頃に妹のために描いた絵本から着想を得て、大人になった自分を励ますために描いた『ののちゃんは そばかすが きらい』。出版しようなんて思ってもいなかった作品です。
ずっとしまいこんでいたノートを再び広げ、読んでみました。改善すべき箇所はあるけれど、お話としてはまとまっている。絵本にできるかも……と思いました。
そして今はイラストが描けます。宅録ナレーターもしているので、読み聞かせ動画も特典として付けられます。
私が元気になってスキルを身に着けるまで、ののちゃんは待っててくれたのかな、なんて気持ちになりました。
何より作品を読んで、誰かがほっこり笑顔になってくれたら嬉しい。
決心したからには動くだけです。私がまずしたことは、周囲に助けを求めることでした(笑)
苦手な事務作業は夫に手伝ってもらい、仲間たちには絵本の挿絵を見せて意見をもらったり、出版までの流れを一緒に考えてもらったのです。
そして途中で失速しないように、Twitterでも出版宣言!フォロワーさんたちからのあたたかい励ましは、私の大きな原動力となりました。
こうしてあまりにもたくさんの人たちの力を借りて、本格始動から3週間で出版準備は整ったのです。
出版への想い
物事をやりきることが苦手だった私が、出版まで来れたことが嬉しいです。ちっぽけな一人の力だと成せなかったことも、多くの人の力を借りると到達できることを感じ入っています(今度は私ができることで誰かに力を貸して、そうやって助け合いが循環していったらいいな)。
準備期間は短めですが、元を辿れば始まりは私の幼少期。
一度は捨てた「好き」をもう一度拾って、磨き、形にした絵本です。
自分を受け入れられずに苦しんだ時期があったからこそ、作品で誰かをほっこり笑顔にしたい。
読んでくださった方の心に、あたたかく幸せな気持ちをお届けできたら、とても嬉しく思います。
みい (はなもと みちか)
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