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「アンケート」ウォッチング:2023.11.3

ネット上に転がっている「アンケート」をネタにして、あれこれ書きたい放題書きます。「アンケート」を実施される方は、それなりに目的をもってされているのだろうと承知しています。それを批判するようなことはいたしません。しかし、せっかく貴重な資源を費やして調査結果をまとめるなら、できるだけちゃんとやってほしい、というのが私の願いです。

今回のネタはこちらです。

ツッコミたいところは山ほどあるが

記事をご覧いただいて、それぞれツッコミどころが見つかると思います。たぶん、書き出すとあれもこれも、山ほどツッコミたくなると思います。その中からあえて一つを取り上げます。

%を足したり引いたりしてわかったようなことを書くな!

基本情報を確かめよう

調査結果を見る時には、まず基本情報を確かめましょう。記事のサマリーのあとに置かれているこの部分です。

注意すべき点をいくつか

  • 調査対象がバイアスを持っている:「就活の教科書」公式LINEに登録している人が、どのような特徴をもっているのかはわかりませんが、登録していない人、このLINEを知らない人、そもそも「就活の教科書」を知らない人は、そもそも調査対象から外れています。

  • 調査方法が具体的でない:「インターネット上」とは具体的にどこなのかがわかりません。ありがちな方法として、「公式LINEでアンケートフォームへのリンクを送った」などでしょう。その前に「アンケート」参加者を募集して、応募のあった人にだけ送ったのかもしれません。いずれにしても、その通りに書けばよいのです。「インターネット上」等とぼかして書くことのメリットは何一つないと思います。

  • 有効回答数:有効回答率は何%であったかも書いてほしいと思います。

サマリーのここに注目

ギャップを感じた人のうち、ポジティブなギャップを感じた人は59%、ネガティブなギャップは41%でした。意外にもネガティブなギャップよりもポジティブなギャップを感じる人の方18%ほど多いことが分かりました。

この文章は記事冒頭のサマリーから引用したのですが、記事中盤にも同じような文章が「キャリアアドバイザー」の吹き出しとして書かれています。このアドバイザーがこう解釈しています、ということを意味しているのだと思われます。
この「18%」って何でしょう?
何を100%としたときの18%なのか、そしてその差にはどれくらいの意味があるのか。
読み解きましょう。

もっとも重視したいのは実数です

上記の解釈は、次の調査結果に対するものです。解答者数がないので、有効回答である n=117 であると仮定して、話を進めます。

示された割合を実数にしてみましょう。こうなります。

「比率」は表に示されていた比率、「計算値」は有効回答n=117にその比率を掛けて求めた値、「予測値」は計算値を四捨五入して整数にしたもの。合計が117に一致するので、これが実数と考えて良いと思います。
この表を出せばよいのです。

59%と41%はどこから

ところで、59%も41%もどこにも登場していません。注意深いみなさんはすでにお気づきでしょうが、「ギャップは感じなかった」という人々を除外すると現れます。何らかのギャップを感じた人92人を全体としてみると、59%と41%で、その差が18%あるといっているのです。

しかし、これは次のような見方もできます。

  • 117人のうち、ポジティブなギャップを感じた人は46.2%(15.4+30.8)、ネガティブなギャップを感じた人は32.4%(25.6+6.8)で、その差は13.8ポイントであった。(比率の差に言及するときは、このように「ポイント」とするのが一般的だと私は思っています)

  • 117人のうち、ポジティブなギャップを感じた人は54人(18+36)、ネガティブなギャップを感じた人は38人(30+8)で、その差は16人であった。

「ギャップを感じた人のうち」と断っている。何が悪い。

たしかに断っています。が、どうして「ギャップを感じなかった人」を除外して計算し直す必要があるのでしょう。それを示すのは、結果を出す人の方です。

上で見たように、記事に書かれている「18%」は、人数にすると16人です。これを多いと見るか少ないと見るかは、私には判断できません。
「キャリアアドバイザー」の見解として書かれている文章には、「新卒は会社に対する期待値が低い」と書かれているので、「ポジティブなギャップ」のほうがこんなに多い、という結果にしたほうが、アドバイザーの見解を強く支持する結果に見えると思われます。
ただし、最初に書いたように、調査に回答した117人が、「新卒」の人々を適切に代表しているかどうか、私には判断できません。また、n=117は、決して十分な数のサンプルとは言えないと思います。

参考:一様性の検定

参考までに、ポジティブなギャップを感じた=54名、ネガティブなギャップを感じた=38名という結果に対してカイ二乗検定(一様性の検定)を行うと、$${\chi^2=2.782, p=0.095}$$となり、数値が偏っているように見えますが、統計的に有意ではない、という結果になります。

(注)一様性の検定では、どちらのカテゴリにも同じ人数が割り振られるとき、この例ではどちらも46名のとき、カイ二乗値は0になり、どちらかに数が偏るほど、カイ二乗値は大きく、p値は小さくなります。カイ二乗値が小さく、p値が大きいなら、「サンプルでは、たまたま差があっただけで、母集団で差があるわけではない」と解釈できますし、カイ二乗値が大きく、p値が小さい(一般的には0.05以下)なら、「母集団において、差が無いとは言い切れない。母集団でも差があると考えるのが妥当だろう」という結論になります。上記の計算では、p値が0.095でしたので、「ぱっと見では、ちょっと差があるようにも見えるけど、たまたま生じた差と考えたほうが良い」と結論することになります。

研究されてきたのはネガティブなギャップ

この調査結果から思い浮かべるのは、キャリア研究の文脈で研究されている「リアリティショック」です。現実が理想と違っていた時に直面するギャップを指してこのように言います。リアリティショックが、むしろポジティブな方向で感じられるように変化しているのであれば、それはそれで、注目すべき現象でしょう。どなたか研究していらっしゃるのかな。ていうか、そもそもそういう変化が起きているのかな。