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SHONIN / マッシュル-MASHLE-THE STAGE 2.5感想

 マッシュル -MASHLE- THE STAGE 2.5
 絶賛上演中の舞台、通称マシュステ。去年の夏に第一弾を観に行って、原作を全て読み、そして今年めでたく第二弾を観劇中である。明らかに一作目よりパワーアップしている……。

 漫画のコマが開いた先に、キャラクターがいる。そしてお話が始まる。様々な巧みな演出で第四の壁がバキバキに壊され、漫画の世界に入り込める。
 そんな素晴らしく楽しい2.5次元体験ができる舞台マッシュルについて、思い出が色褪せないうちに書き連ねていきたいと思う。

物語の中心構造はマッシュ対ドミナの対比による承認の話

 ドミナはイノセントゼロの配下・息子であり、彼の愛を求めて必死に足掻いている。しかし父であるイノセントゼロも同胞たちも彼を顧みはしない。利用できる時は甘い言葉を囁き、内心では罵り、失敗すれば打ち捨てる。強い力と才能を生まれながらに手にしているのに、しかしドミナは満たされず承認を求めて苦しんでいる。

 一方、マッシュは父代わりのレグロじいちゃんに愛されて育った。その愛は喧嘩しようが期待に応えられなかろうが与えられるもの。
 魔法不全者であることを気にせず、認めて、秘密を守ろうとしてくれる友達にも恵まれた。彼らはマッシュが糾弾された時、マッシュを守り、一緒に謗りを受けますと声を上げた。周りの大人たちもマッシュの優しさを知れば味方となり、納得できないまでも猶予を与えたり事実彼に救われれば彼に光を見出したり存在を認めていく。
 マッシュもそんな周りの人達に応えて誰にでも慈愛を以って接している。彼もまだ子供で、きっと辛いことやままならないこともあるだろう。皆と違って魔法が使えないことを全く何とも思っていないわけはないはず。そんな彼は、周りの人たちの"変わってるところ""人と違うところ"を否定しない。ツッコミはしても存在を否定することはない。
 だから友達たちも魔法が使えない彼を否定しないのだろう。自然と受け入れていくのだろう。

 この作品は受容と承認、つまり愛の話である。

 それも無償の愛。絶対に与えられると信頼できる無償の愛を巡る話だ。

 このお話は、魔法不全者の彼を受け入れようという一方の多様性の話だけではない。この世界には魔法が使えない人に並んでシスコン、臆病者、甘いもの好き、承認好き……がいる。魔法が使える人の中にもそんな人たちがいるのだ。
 マッシュだって魔法が使えないとか筋力が人並み外れているだけでなく、人の名前を間違えがちみたいな個性もあるわけである。

 マッシュの手がドミナに差し出される時、きっとドミナもそちら側へ行けるのだと思う。

 多様性の話ではありつつ、少年漫画らしい戦闘シーンの見どころは存分にあり、理屈っぽさはあまりない。
 必死に愛を求める姿や見捨てられたくなくて足掻く仕草が大好きな人にはかなりささると思う。私は大満足だった。

 リアレンジ部分はかなりあるが、原作サイドからの提案もあったと書かれてあったとおり、原作で伝えたい主題はそのままに舞台に合わせて削ったり順番を変えたり離れた場面をくっつけたりして良い改変になっていたと思う。
 キャラクターも原作から逸脱することなく、しかし役者さんが改めて再現するという意味もしっかり感じられる出来だった。セルが対ドミナの場面で若干自己肯定感高めに感じたが、ドミナを寝返らせるマグマの代わりの役目が加わったと考えれば程良かったとも思う。要素だけ盛ってもノイズになるだけなので如何に制限内に収めて削るかというのも2.5の醍醐味かもしれない。
 殺陣も素晴らしく激しいので少年漫画好きは原作を知らなくても楽しめるはず。

日替わりが多くて1公演も見逃したくない

 日替わりシーンもマシュステらしく盛りだくさんだ。
 特にセル・ウォーを倒して始まりの杖を返してもらおうと身体を検めるシーン。マッシュがイレギュラーでありつつ他のキャラは大真面目ということも相まって、なかなか面白いシーンになっていた。
 セルウォーは全力で可哀想なことになっているし、それを見つめるドミナも訝しげに見たりドン引きしたり突っ込んだり、マッシュルのキャラクターのお茶目な部分が引き出される良いアドリブシーンになっていた。

キャストの歌唱力の高さと音楽演出の妙

 さて、そんなマシュステだが、俳優陣も最高の面子が揃っている。
 前回に引き続いてキャスティングされている俳優さんと、キャスト変更で新しく入られた俳優さん、新キャラとして仲間入りした俳優さんのバランスの良い舞台だった。
 とにかく皆、歌が上手い!
 この作品では魔力=歌唱力である。だからマッシュだけ歌わないし、他の皆が歌うことをメタ的に捉えてもいる。
 そういうわけでか、歌の演出にはより力が入っており、とても巧みに感じられた。
 耳に残る歌詞で彩られ、盛り上がるところでちょうど欲しい!と思っていた音楽が流れ出す。
 特に一幕終盤と二幕序盤の曲の盛り上がりと胸の高鳴りと言ったらない。休憩でぶつ切りにされたファンタジーの世界に一気に戻されて、現実から漫画の中へ連れて行ってくれた。
 一幕終わりはキャラの立ち位置で作られる構図がめちゃくちゃ綺麗なのも相まって続きが楽しみで仕方なくなる。
 アニメ主題歌のBling-Bang-Bang-Bornの音楽も本当にここぞという良いところで流れてくる。逆にここは静かな方がいいなというところではいい感じの静寂が流れて感動を噛み締めることができた。

衣装美術

 演出とは少しずれるかもしれないが衣装による演技の補強も素晴らしかった。生地や出来という話ではなく、もっと美術的に、服そのもののシルエットや動的な見栄えと役者にマッチすることで生まれる美しさがそれはもう完璧だった。
 マカロンの捩れるように踊る裾、ドミナの制服が武器と共に描く弧、軽く滞空するようにうねるセルの装束……。
 魔法や武器による殺陣で生まれる偶然の動きも、そう見せようと計算された必然的な動きも、毎回毎回漏れなく画として美しく視覚的にも楽しませてくれた。

漫画世界の拡張

 さらに今回も前作に引き続き漫画のコマが描かれた舞台装置が使われており、まさに2.5次元化の最も原初的な「あのキャラが現実にいたらなあ!」という感情を奥底から掘り出して喜ばせてくれる。
 シュールギャグの作風によりメタ的な発言も多いが、全く気にならないくらい現実に、目の前に、あのキャラが存在しているという幸福を浴びせてくれる。
 じいちゃんが森の動物たち(客)に突っ込みを入れても、前回の千秋楽から〜なんて言及しても、むしろそれがマシュステを面白くする重大な要素である。

(そういえばマッシュとイノゼロの血縁関係についての書類の小道具に"JUDAINA HOUKOKU"と書いてあった気がする。せっかくなのでこの感想のタイトルもローマ字にしておこう)

アフターイベントの充実

 お見送りはどの舞台よりも距離が近く、役者さんたちもノリノリで小道具を持ってきたりキャラの範囲でファンサービスをしてくれたり。
 振りとはいえキャストにグーパンされたりグーパンし返したりする機会はなかなかない。シュークリームを差し出してくる人もいれば自前のうちわを持ったキャストもいて、杖を持って魔法をかけてくることも。ありがとう一つとっても笑顔で言うキャストもいればあえて無愛想なキャストもいる。
 多種多様、本当に良い物語、良いキャラクター、良い俳優たちで満たされた作品だと思う。
 レグロの家もぜひ円盤に収録してほしい。

大きな手(舞台装置)

 最後に、舞台装置。斜めに開く漫画コマが描かれた壁や横向きの階段、回る床、プロジェクションマッピングなどいろいろあるが、特に巨大な化物がすごかった。

 大きい怪物の体と手。
 大きい手が出てくると昔見た最高なのにトンチキな舞台を思い出して懐かしくなるのだが……。(戦ブラ……)
 かなりクオリティの高い巨大な演出で迫力と臨場感に劇場版の応援上映かな!?と興奮した。

 終始良いもの観せていただいたな〜と思いつつ、更なる続編や再演を期待する。

1作目の感想↓

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