マガジンのカバー画像

エッセイ『3人を生きる』

23
一卵性三つ子として生まれた著者が、三つ子として生まれる腹の中から20歳までの、三つ子の一人の視点から書かれた記録です。特殊な環境、「私」として存在することへの葛藤・焦り、三つ子と…
運営しているクリエイター

2018年11月の記事一覧

3人を生きる-アナタの知らない三つ子の話- vol.16 私としてできること

 どうにかこうにか、2人に追いつこうと思っても、どう追いつけばいいのか分からなかった。  自分のやりたい分野を伸ばすだけでは、2人には追いつけない。じゃあ、どうすれば追いつけるのか。  私がしていなくて、2人がしていることは何だ。私と2人の違いは何だ。  ぐるぐると探しているうちに、一つの答えが見えた。  2人は人に魅せている。他者を巻き込んでいた。  私は、アクセサリーを作るのも、執筆するのもほとんどが自分の中で終わっていた。自分から堂々と見せに行くという行為を進んでし

3人を生きる-アナタの知らない三つ子の話- vol.17 「私」の確立

「ラジオドラマの脚本をしないか」  その言葉に最初、何も言えなかった。  今の私にできることはないと半ば諦めていたというのに、地元を離れて数ヵ月経って、そんなことを私が言われるはずがないと何処かで思っていた。  依頼主の彼は、私の作品を読んだことなどない。ただ、私が高校時代、演劇部の脚本を担当していたことと趣味で執筆をしているということだけを知っていただけだ。 「私、そんな力ないです!」  やっと出た言葉は情けないものだった。  正直、半分、断ろうとしていた。  コ

3人を生きる-アナタの知らない三つ子の話- vol.18 触れる解かれる歩く

 指先が2人の背中に触れた瞬間、もう一度離れないように、精一杯腕を伸ばした。頼りない脚に力を入れ、地面を強く蹴った。指先から掌へ、そこに遅れて胴体が背中に近づき、肩が2人の肩に触れた。  追いついた。  やっと、2人に追いついた。  安堵なのか達成感なのか分からない感情が込み上げた。 「私にも、ちゃんとあったんだ。やっと見つけたんだよ」  私は笑っていた。しかし、2人は私を見て、呆れた顔をした。 「やっと気づいたかバカタレ」  三女が肩を竦めた。そして、私を指差した