見出し画像

スターは楽し タイロン・パワー|芝山幹郎

「スターは楽し」タイロン・パワー

タイロン・パワー
Ronald Grant Archive/Mary Evans/共同通信イメージズ

二枚目以外を求めた二枚目

ギレルモ・デル・トロが『ナイトメア・アリー』(2021)という新作を撮った。主演はブラッドリー・クーパー。題名を聞いて、おやと思った人は少なくないのではないか。

お察しのとおり、これは『悪魔の往く町』(1947)のリメイクだ。こちらの原題も『ナイトメア・アリー』で、監督がエドマンド・グールディング。というより、タイロン・パワーが主演して新境地を開いた映画と呼ぶべきだろう。当人も「私の出演作のなかで一番好きな映画」と公言してはばからなかった。

この映画はフィルム・ノワールの変種である。描かれている背景を見れば、カーニヴァル・ノワールと呼ぶべきかもしれない。タイロン・パワーが演じたスタン・カーライルはいかがわしい流れ者だ。そんな男が全米を移動する演芸団の一座に潜り込み、やがて独立した奇術師として名を売るのだが、最後は……。

という内容だから、愛欲や陰謀や残酷描写がしばしば顔を出す。とくにデル・トロ版では、お馴染みのグロテスクで悪夢的なイメージが頭に絡みつく。

ここから先は

1,395字
noteで展開する「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。同じ記事は、新サービス「文藝春秋 電子版」でお読みいただけます。新規登録なら「月あたり450円」から。詳しくはこちら→ https://bunshun.jp/bungeishunju

文藝春秋digital

¥900 / 月

月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「…