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けものフレンズ動物園レポ合同寄稿記事 その2

引き続き沼底なまずさん @eenamazu 主催の「けものフレンズ動物園レポ合同」に参加させていただいた際の文章、今回は2018年9月22日刊行の第2弾に寄稿したものです。

今回は前半がフンボルトペンギンの施設の中で特におすすめの3ヶ所について、後半が熊本震災後に限定開園を実現した当時の熊本市動植物園についてです。

フルルやりたい放題!

 筆者がアニメ版(※第1期)第一話を初めて見たとき、予告にペンギンのフレンズが五種も登場したのには驚いた。
 それぞれのペンギンの特徴をとてもよく表現したデザインで、教えてもらわなくてもなんの種類かほぼ当てることができた。しかし、ペンギンが五人もいて一体どのようにキャラを立てるのか不思議だったのだ。
 第八話、PPPの本格的な出番では、各メンバーの性格はペンギンの中でそれぞれの種を他の種と比べたときに受ける印象に基づいて設定されていた。
 フンボルトペンギン(以下フンボルト)のフルルはマイペースで食いしん坊なキャラだが、実際フンボルトは色々な行動を次々と取るし、食事の際は特に活発になる。
 フンボルトの多彩な行動が見られるのは、フンボルトの飼育羽数が特に多いためでもある。フンボルトを見かける機会が多いために様々な姿を目撃することになり、全体として気まぐれな印象が強まる。フルルのキャラクター付けは国内のフンボルトの多さを反映しているのかもしれない。
 そして、どんな行動を主に見られるかは設備次第でもある。
 プールが広ければ活発な泳ぎが見られるし、陸地部分が変化に富んだ構成なら陸での行動が複雑になる。
 スター動物の繁殖に苦慮する国内の園館にあってフンボルトは繁殖が特別うまくいっているので、さらに魅力が引き出せれば将来の日本の園館にとってますます頼もしい存在になってくれると筆者は期待している。
 そこで今回は、フンボルトの特に魅力的な姿が見られる施設を三つ紹介する。これら以外にも良い施設は多いので観察のヒントになればと思う。

1)陸のやりたい放題 埼玉県こども動物自然公園

 埼玉県こども動物自然公園(以下、埼玉動)は、ある意味日本で最先端の動物園ともいえる。
 環境エンリッチメント(動物の行動選択の自由を最大限保障すること)と、生態展示(動物が選択した行動の面白みをプロデュースすること)の取り組みが非常に優れているためだ。
 なかでも「ペンギンヒルズ」は、フンボルトの非常に多彩な行動が見られるので特に人気がある。ペンギンファンにとっては聖地のひとつだ。
 入園すると天馬をイメージした大きな塔の見える広場に出る。
 広場に向かって右手の、林を通る坂を登っていく。家畜と触れ合えるスペースや、マヌルネコやレッサーパンダ、プレーリードッグといった小動物の施設を過ぎると、奥の突き当りに開けた空間が見える。
 まず目に入るのは水色のプールだ。
 山の上の動物園ということで後述の水族館ほど水量はないが、動物園のペンギンプールとしては深くて大きい。
 しかも、造波装置が備えられていて泳ぐときの運動量を増すようになっている。陽光の中でしっかりと潜ってのびのび泳ぐ姿が爽快だ。
 プールで泳ぐフンボルトを広場からゆっくり眺めてもよいが、ペンギンヒルズとはこの広場ではなく、プールに向かって左の扉を開けると入れる野山のことだ。フンボルトが自由に暮らす空間に入れる、ウォークスルー方式なのである。
 プールはいくつかの、緑でいっぱいの丘に囲まれている。
 野生のフンボルトはサボテンが生えている土の地面にも多く生息しているが、日本の気候や植生の範囲でその状況に近付けている。また、地形や細部に変化を持たせることで、フンボルト自身が考えて体を動かす機会を増やしているのだ。
 入口のすぐ近くの、左右どちらかにフンボルトが立っているだろう。プールの岸辺で過ごしているか、左にある管理小屋のまわりをうろついているものがいる。
 手の届きそうなところにいるがもちろん触ってはいけない。ここはフンボルトの居住地で、ヒトはあくまでお邪魔させてもらっている立場だ。
 奥に続く道をフンボルトが通ったり横切ったりしているときももちろんだ。いきなり後ろから現れることもあるが、道をあけてあげよう。
 丘から丘へと早足で進んでいくこともあり、追っていると緑の濃さもあって見失いそうになる。そうかと思えば堂々と歩道を横切ったり進んだりもする。
 さらに、急な坂でもフンボルトは軽々と登っていく。陸上では不器用というイメージは全く当てはまらない。
 突き当りの丘では、低木に囲まれた木々の間に巣箱が置かれている。そして右側には特に高い丘があり、急な坂に背の高い草が生え、斜面に掘られた穴に巣箱がかぶせてある。
 これらの巣箱には草で入り口を隠されたものもあるが、よく見れば中でフンボルトが休んでいる姿が分かるだろう。また、草むらに潜んで落ち着いていることもある。
 フンボルトはつがいで場所を決めて巣箱を使うのだが、つがいの片割れを呼ぶときなどに大きな鳴き声を上げる。
 フリッパーを背中側に倒し、首を大きく反らしてクチバシを天に向け、おもちゃのラッパを勢いよく吹き鳴らすような強い声を発するのだ。丘の上で叫ぶ姿は案外ダイナミックである。
 また、草に囲まれて立っている姿自体、動物園のペンギンとは思えない開放感がある。
 ここで見られる特に活発な姿について書いたが、ある瞬間ごとにはのんびりしているものがほとんどである。また、季節ごとに変化があり、あまり暑い季節だとプールサイドから動かないので注意がいる。
 また、ここほど見事な施設でも、最初は動物園生まれのフンボルト達にとって見慣れないものばかりで警戒されてしまい、上手くいかなかったとのことである。「動物翻訳家(片野ゆか・著、集英社)」に詳述されているが、設備が整っていても動物自身に活用させられるかどうかが重要なことがよく分かる。
 なんとなく、ネクソン版のフルルが小心者なキャラだったことを思わせるエピソードではないだろうか。
 埼玉動の他の展示もペンギンヒルズ同様、環境エンリッチメントと生態的展示が非常に行き届いている。ペンギンヒルズ同様ウォークスルー方式のニホンジカ・カモシカとオオカンガルーが特に大規模な展示だが、ペンギンヒルズを目指す間に通りかかった小動物の施設やコアラ・ミナミコアリクイ・ナマケモノの施設も見事だ。

2)海のやりたい放題 長崎ペンギン水族館

 長崎ペンギン水族館(長ペン)は、国内で最も多くの種類のペンギンが見られる水族館である。ペンギンファンからは埼玉動以上に重要な聖地と見なされている。
 そんな長ペンでも最もありふれているはずのフンボルトが最も存在感を放っていて、それは「ふれあいペンギンビーチ」という非常に独特なイベントによる。
 長ペンは海に隣接して建てられていて、砂浜と入り江まで敷地に含まれている。
 そして時間になるとこの砂浜に向かって、飼育されているフンボルト達から選抜された数羽が散歩に出るのだ。
 歩いていく間ももちろん可愛らしいといえるが、この部分はよくあるペンギンの散歩にすぎない。
 重要なのは砂浜に出て、波打ち際に近づいてからだ。
 フンボルト達は海に向かって勢いよく駆け出す。
 足が水に浸かると体を倒し、フリッパーでも地面を蹴る四足歩行に移行する。
 そのまま、水中に潜って突っ込み、どんどん浜辺から離れていく。ドルフィンジャンプを見せるものまでいる。
 こうしてフンボルト達は、並の水槽やプールでは比べ物にならない広さの入り江を活発に泳ぎ回るのだ。野外の海で泳ぐペンギンを日本で見られるという、信じられない光景である。
 なお防波堤と網で仕切られているので脱走の心配はなく、逆にボラなどの外の生き物が入り込んできてフンボルトが遊び相手にしてしまうことがある。
 浮かんだまま毛づくろいをしたり、砂浜に上がってのんびり過ごすことも多い。砂浜では手は触れられないまでも(埼玉動と同じで触れてはいけない)フンボルトをすぐそばで眺めることができる。
 小柄な動物の常としてしばらく活発に動いていればすぐ空腹になる。そこでふれあいビーチの途中に飼育員がやってきて餌の時間が始まる。泳いでいたフンボルト達も続々と飼育員の足元に集まるが、飼育員が餌の魚を海に向かって投げれば皆急いで海に戻り、水中を突進することになる。
 泳ぐフンボルトを桟橋から見下ろすこともできる。筆者が見たときには一羽が特に遅くまで海中に残っていて、その素早さと優雅さには目を見張った。やはり彼らは可愛い生き物である以前に、見事に水中に適応した特殊な海鳥だ。その一羽は両翼に紫のバンドを付けていた。
 昼過ぎ、飼育員がフンボルトを砂浜に呼び集め、一旦近くで見られるように囲いに入ってもらってから館内に戻って、ふれあいビーチは終了する。
 複雑な環境である野外でのびのびと運動するという、優れたエンリッチメントの手法と考えられる。しかし定量的に効果を評価しているわけではないという。ただ、ふれあいビーチに参加するフンボルト達はかなり意欲的だとのことだった。
 ふれあいビーチはかなり長時間行われているが、ふれあいビーチだけを見てばかりはいられない。
 館内にはジェンツー・ヒゲ・キングが美しい泳ぎを見せてくれる深い水槽や、フンボルトと近縁なケープやマゼランを見比べられる区画、フェアリーペンギンなどの珍しい種類の展示もあり、フィーディングにバックヤードツアーと矢継ぎ早にイベントが起こるので忙しい見学になる。
 ペンギン以外にも餌となるマイワシの展示や近海の魚、様々な無脊椎動物などの展示もしっかりある。特に目立つのは前身の長崎水族館の頃からいたというメコンオオナマズ(プラー・ブック)だ。
 筆者としては博物館的スペースも紹介しておきたい。
 飛ぶ海鳥との骨格の比較、一度の換羽で抜ける羽毛、各種の卵の比較、かつて飼育されていたコウテイペンギンのフジの剥製など、とても興味深いものが多い。標本だけでなくペンギンにまつわるグッズのコレクションまである。
 また恐竜の中から鳥類、そしてペンギンが生まれ今に至るまでの年表のような掲示があり、ジャイアントペンギン(パキディプテス・ポンデロスス)の先輩たる所以が読み取れる。

3)始まりのやりたい放題 葛西臨海水族園

 陸海ときたが空ではない(フンボルトで空といえば旭山動物園のトンネル水槽だろうか)。
 葛西の何が「始まり」かといえば、フンボルトの生息地に近い情景での展示である。
 本誌の読者であれば、おそらくフンボルトが極地性ではなく温帯性であることはご存知のことかと思う。しかし、かつてはフンボルトやケープを氷山のような情景で展示するのは普通のことだった。今も歴史の長い園館にはあるだろう。
 温帯性のペンギンにまで氷のイメージが付いたのは、第二次大戦後、南氷洋で捕鯨が行われたことがきっかけだ。
 戦後の食糧難を救う英雄とされていた捕鯨船は、鯨肉だけでなく南極の珍しい産物もいくつか持ち帰り、市民を喜ばせた。
 その中に極地性のペンギンが含まれ、上野動物園などで飼育された。前節に登場したフジもそのうちの一羽である。彼らは大変かわいらしいものとして歓迎され人気を博した。
 これ以来、ペンギンと南極は日本人の意識の中で分かちがたく結びつくことになった。
 温帯性のペンギンが飼育されるようになっても南極のイメージは強く、極地性ペンギンの「代役」を任されることが多かったようだ。
 そうした状況を破ったのが、葛西のペンギンプールである。
 葛西臨海水族園は「アイドル不在」を志向して設計された水族館である。安易に感情移入されがちな海獣はおらず、生態的展示を強く意識して造られている。
 そのため、フンボルトに「南極の使者」という虚像を演じさせることがないよう、実際の生息地に近い、ところどころに草の生えた岩場の放飼場でフンボルトを飼育している。
 以上の「始まり」の顛末は、「ペンギン、日本人と出会う(川端裕人・著、文藝春秋)」に詳述されている。
 開園から三十年になろうとしている葛西だが、ペンギンプールは今なお圧倒的な展示であり続けている。
 全体は非常に横長で、プール状ではあるが階段を下れば大きな水中観察窓がある。ここでは、前節までに紹介した二箇所にも増してダイナミックな泳ぎが見られる。
 特に圧巻なのは餌の時間だ。
 時間に充分余裕を持って水中観察窓のところにいたほうがいい。それは混雑するからというだけではない。
 時間を察知して、徐々にフンボルトの泳ぎが活発になる。
 フンボルトは群れを成し、プールを左右に長く往復する。ちょうど観察窓からこれを目の前で見ることができ、この段階ですでにかなりの迫力がある。
 しかしこれもまだほんの前触れにすぎない。
 やがて、フンボルト達は右の奥に留まり、旋回を始め、渦を巻く。
 飼育員が餌を投げ込む場所に集まっているのだ。渦に加わるフンボルトの数と、渦の勢いはどんどん増していく。
 そしてフンボルトの渦は白黒の竜巻と化す。
 その勢いは小さな子供がおののいて泣き出すほどである。ペンギン、しかも小柄なフンボルトに子供が恐れをなすという稀有な光景だ。
 餌の時間が始まるとこの渦は崩れ、投げ込まれるアジやオキアミを皆思い思いに捕らえていく。これもこれで激しいが、先程のような鬼気は消え、かわいらしいといってよい動きになる。
 このペンギンプールにはイワトビペンギンとキングペンギンもいるが、夏季には非公開の冷房室に入ってしまうので、ペンギン目当てなら涼しい季節の見学をお勧めする。
 フェアリーペンギンも見逃せない。ペンギンプールの向かって右側の区画にいるが、そのさらに端の植え込みに隠れていることもあるので覗いてみよう。
 葛西の他の展示はあまりに多種多様なので、一つひとつお勧めを挙げるのが難しい。海の生き物についてそれほど知らないかたからマニアまで幅広く楽しめることは間違いない。

 以上、筆者がこれぞ代表的なフンボルト展示と考える三つを挙げたが、他にもフンボルトの見事な展示は数多くある。
 日本の動物園の未来を担うかもしれない種であるフンボルトの面白さを、読者の皆様にも注意深く探してみてほしい。

熊本まで困難を群れとして分けてもらいに行ったときのこと

 タイトルはこのとおりだが筆者の請け負った困難など微々たるものである。
 九州での震災以来、熊本市動植物園では部分開園の状況が続いている(※執筆当時)。とはいえ最近は開園部分が全体の六割ほどにまで広がったようだ。
 震災直後は開園部分が本当に限られていたものの、思ったよりずっと早く開園したので動物園ファンを驚かせた。
 けものフレンズプロジェクトでも、熊本市動にいる種を中心とするフレンズをパッケージにあしらったクッキーを発売し、売り上げの一部を寄付していた。
 そのクッキーが発売されて間もない、二千十七年のゴールデンウィークのことだった。
 筆者は九州北部を旅行していたが、このタイミングで熊本市動を避けることはできまいと、六ヶ所の目的地のうち一つに選んだ。
 復旧中の動物園の限られたリソースでも、職員の皆様は動物の暮らしのために工夫を凝らし、再生への歩みを進めていた。そのときの様子をこの場をお借りしてとどめておきたい。

1)寄付!被災した動物園

 路面電車の駅を降り、看板に従って緑豊かな公園を抜け、熊本市動の入り口へ。
 正門は開園部分に面していないため閉じていたが、餌の時間に行う解説など、イベントのお知らせはにぎやかに掲示されていた。それに、好天のおかげもあってか訪れる人は案外多かった。
 小川沿いの道を臨時門に向かって進む。民家のある普通の街並みだが、敷地の柵からはすでにキリンの姿が見えていた。このあたりの人はキリンが普段から見られるのだろう。
 しかもこのキリンは、国内で多く飼育されているアミメキリンではなくマサイキリンである。
 また、アフリカゾウの姿までちらりと見える。
 小川は江津湖という湖に注ぎ込み、岸辺を歩くとついに臨時門に到着した。公園からここまで大変美しい風景が続いている。
 しかし、すぐに園内には進まない。
 事務所で寄付金の手続きをしたいからだ。
 職員の女性に声をかけると、大変快く事務所に迎え入れてくださった。
 寄付者名簿に必要事項を記入している間、筆者が東京から来たということを聞くと、二人の職員の方は大変驚かれた。
 そしてコラボクッキーも筆者の目当ての一つだったと知ると、お二人は申し訳なさそうに、ここではすでに売り切れているということを告げられた。
 しかし、それだけ売れたということが筆者にとってはむしろ喜ばしかった。
 事務所の壁にはコラボクッキーに関するニコニコニュースの記事を印刷したものが貼り出され、星型をした四種のパッケージの画像がなにかまぶしかった。
 このしばらく後、千葉市動物公園でコラボイベントが行われたとき、筆者は無事クッキーを手に入れることができた。千葉動も困難を分かち合っていたのだ。
 筆者の寄付金は少額ながら職員のお二人に喜んでいただけた。カンバッジなどの特典もいただいて、事務所を後にした。

2)絶叫!セキショクヤケイ

 限定開園とはいえ園内をしっかり見ていくつもりであった。そのとき開いていたのは家畜動物の区画、公園のような部分、動物展示館、マサイキリンとアフリカゾウの放飼場、遊覧用モノレール、植物園だった。
 家畜の区画は、丸太で仕上げられたログハウス風の畜舎と鶏舎からなる。
 畜舎にはヤギ、ヒツジ、ポニーがいる。おなじみの顔ぶれの中、ミミナガヤギが印象的だった。首と同じ長さの耳たぶが垂れ下がる独特なスタイルに加え、柵に前足をかけてこちらを覗き込んでくるのだ。
 鶏舎は肥後五鶏と呼ばれる五つの地鶏を中心に、数多くのニワトリがそろっていた。
 特に天草大王という品種は他の倍ほどの体格を誇り、圧巻であった。地元では有名なニワトリのようだった。
 家禽のニワトリだけではなく、ニワトリの原種であるセキショクヤケイもいる。
 フレンズのセキショクヤケイさんに表現されているとおり、鮮やかな赤茶色と深緑の羽毛が美しい。
 セキショクヤケイの特に面白いのは、鳴き声だ。
「コケコーッコ!」
 オスが活発に鳴いていたが、何度聞いてもコケコッコーではなくコケコーッコだった。
 家禽のニワトリとは鳴き声を伸ばすところが違うという、意外なところで家禽ではないことが伝わり、フレンズのニワトリさんとセキショクヤケイさんが鳴き交わしては笑い合う光景を思い浮かべた。

3)爪痕!動物展示館

 公園部分はアスレチックが置かれているような普通の公園だが、アスレチックの中にプレーリードッグの獣舎が組み込まれているのが面白い。
 アスレチックの周りにはウシやバイソン、アンデスコンドルの石像があった。多分登ってはいけないのだが、子供たちががしがしと登っては写真を撮ってもらったりしていた。
 さらにその向こうは小川の流れる緑地である。昆虫やカワニナ、植物の観察もできる。
 そのように園内を周っているうちに、展示館に辿り着いた。
 門にはなんと「新ケロロ」とギロロ伍長、館内にもタママ二等兵の像が置かれていた。熊本は吉崎観音先生の故郷でもあるのだった。
 館内にはやはり震災の被害も色濃く見られた。
 中央には円筒形の背の高い水槽があり、水は入っていなかった。万全なら江津湖に生息する魚の群れ泳ぐ姿が見られたようだ。
 マサイキリンの骨格標本からは、後肢が失われていた。
 とはいえ、そんな状態でもマサイキリンの骨格が貴重なことには変わりない。なにしろ通常博物館にある骨格は、より飼育頭数の多いアミメキリンなのだ。
 キリンの中でも相当背の高い個体で、すらりと首を伸ばし、大変迫力があった。
 他にも、チャップマンシマウマやアジアゾウの骨格に加え、アフリカゾウの耳の剥製や牙、鳥類だけでなく爬虫類も揃えた卵の展示と、ゾウと卵について特に詳しく展示していた。
 また淡水生物の展示もスッポンやヤエヤマイシガメをはじめとするカメ、サワガニやヌマエビ、いくつかの魚と、小さな水槽できちんと続けられていた。
 講堂は休憩室として開放され、動物園の被災の様子や動物の避難についてまとめたものが掲示されていた。
 一部の動物は他の動物園に避難し、また須坂市動物園から贈られた寄せ書きもあった。
 園館同士はライバルではなく、協力関係にある。普段から繁殖や血統管理のネットワークを作ったり、良い工夫をお互いに取り入れたりしているし、災害に見舞われた園館には、他の園館の助けが必要だ。

4)豪快!アフリカゾウ

 展示館を出て、閉鎖中のパプアニューギニア館に沿ってモノレールの下の道を通るとアフリカゾウ舎に着く。
 頑丈そうな獣舎の前に砂地の放飼場があるオーソドックスな施設に、立派な大人のアフリカゾウが二頭いた。ともに千九百八十四年生まれのメス、マリーとエリだ。
 飼育員のかたが木の葉のたっぷり付いた枝を差し出すと、二頭は枝ごと葉を食べてしまう。元々、鉱物粒子を含むイネ科の草より食べやすい木の葉が好みなのだ。
 二頭は鼻で触れ合うなど仲の良い様子を見せていた。
 一方飼育員のかたは台車に乗せた干し草や固形飼料、サツマイモといった餌を子供達に見せていた。いかにものどかな動物園の風景である。
 そこに続いて出てきた餌は、なんと太い孟宗竹の茎であった。
 アフリカゾウ達の鼻と同じ太さに達する竹を、アフリカゾウ達は軽々と踏みつぶして、引き裂いて砕く。
 そして、板状になった竹を牙と鼻に挟んで、ボリボリと八つ橋(むろん焼いてあるほうだ)のように食べてしまうのだった。
 この豪快さに来園者も驚くし、アフリカゾウ達にとっても、工夫して手間をかけてものを食べるのはただ出てくるものを食べるより野生に近く、楽しみになる。これも食事に時間をかけさせるというエンリッチメントと、動物の能力を見せるという生態的展示の組み合わせだ。

5)威容!マサイキリン

 続いてマサイキリンも餌の時間である。
 飼育員のかたが餌を満載した台車を曳き、そちらにマサイキリンが続々と寄ってくる。
 鉄パイプで囲まれた放飼場には四頭のマサイキリンがいた。特に大柄なものは展示館の骨格に負けず背が高い一方で、子供の姿もあった。大人のリキと小春、まだごく若い冬真(トウマ)と秋平(シュウヘイ)である。
 見慣れたアミメキリンとの最も目立つ違いは、縁に切れ込みの入った模様だ。顔にも細かい模様が入り、なにかワイルドに見える。
 晴れて明るい空に、長い首がよく映えた。
 放飼場は広い日向と獣舎そばの木陰に分かれていて、暑いときは木陰で涼むこともできるようだった。
 餌やりの間の解説は、テレビの取材も入っていたが和やかに進んだ。
 特に筆者の印象に残った二点について。
 放飼場に角ばった細かい砂利を敷くことで、蹄の伸びすぎを防いでいるとのこと。ハズバンダリートレーニング(指示に沿って特定のポーズを取るよう覚えてもらい、健康管理などに役立てること)を行った上で削蹄する手法もあるが、これはこれで合理的かもしれない。
 熊本市動の園内は動物園の中でも非常に平坦な土地であるとのことだった。山中の自然公園として作られた動物園が多い中、熊本市動は大変歩きやすくできているようだ。

6)展望!ニホンザル舎

 筆者は、恥を忍んで遊覧用モノレールに乗車することを決断した。
 別にソロにもかかわらず童心に帰りたかったわけではない。公開されていない部分が空中から見られるという目論見があってのことだった。
 こういうときは一眼レフカメラを持っていると「写真を撮るためなんですよー」という顔ができて本当に心強い。カメラ無しで行けと言われたら平謝りで断るしかない。
 これ見よがしにカメラを構えて乗り込むと、思ったとおり、エランドやシフゾウといった筆者が特に好きな偶蹄類の放飼場が見られた。
 園内の他の部分と同じく彼らの放飼場も緑が濃く、過ごしやすそうであった。
 一際緑が濃い中に、円盤型の獣舎があった。中にも木々が植えられているのが金網から見えた。
 これは熊本市動でも特に評価の高い、ニホンザル舎だ。
 ニホンザルの放飼場といえばサル山、つまり岩山を模したものが多いが、ニホンザルは本来は森林の動物である。そのため既存のサル山に登れる木材を追加したり、緑を植えたりする例が多い。
 熊本市動では固定観念にとらわれず、林を模したニホンザル舎が作られたのだ。ここではサル山でよくあるような争いはあまり起こらず、野生と同様のどかに過ごしていることが多いという。
 モノレールからではニホンザル舎の中はあまり見えない。筆者は必ずまたここを見に来ようと思っている。
 モノレールを下車した後、植物園に足を伸ばした。
 このときのことにも簡単に触れると、見てみたいと思っていたユリノキの花がどれなのか職員のかたに教えてもらうことができた。
 とてもかわいらしい花なのだが、とても高い枝に咲くので教えてもらわないとなかなか分からないのだ。おかげでこれ以来、どの木がユリノキなのか見分けることができるようになった(Tシャツのような形の、手のひらほどもある葉を付けた木である)。
 見られる部分は少なく、昼前から園内にいたはずなのに、もう閉園の時刻が迫っていた。銀色の籠と白い骨組みの観覧車が、少し傾いた日を受けてまぶしくそそり立っていた。
 全て復旧したらけもフレコラボなども開かれるだろうか。そのときはマサイキリンやニホンザルのフレンズも登場するかもしれない。いずれにしろ、次は開園時刻から訪ねるつもりである。

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