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LIBRARIAN|維月 楓の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、維月楓の小部屋。詩人・研究者・翻訳家。古今東西の女性/クィア詩人の作品を読み解くことを通して、新たな生の軌跡に敬愛を捧げている。
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スウィンギング・ロンドン|河井いづみ《2》|呟声と時間

 時代の嵐が去った後も残り続けるモノ――。独特のノイズ感をもった鉛筆画から、じっと動かないモノの息遣いが秘かに聞こえてきます。  衣装替えの混乱が終わったあと、人々の気配が充満する部屋。傾いたハイヒール、飲み干された空瓶、打ち捨てられた林檎。  時間が止まったモノクロームの世界で、静物であるはずのモノたちがぬるりと生きているようにその存在を表している。呼吸を繰り返し、ふくらんだカーテン。来客を迎えようと、鷹揚に構えたソファ。  現在でも、オークションを華やがせるそれらは

スウィンギング・ロンドン|須川まきこ《1》|クイーン・オブ・ハートの鼓動をきいて

 華々しく時代を一新し、自らの眩しさによって神話と化したブランド〈BIBA〉。神話を作りあげたのは、ショップに並んだ伝説を、選び取り、身に纏った女の子たち。  最新作のバッグ、オリエンタルな髪留め、愛用の仮面と羽根飾り。ごちゃまぜな懐古主義が、部屋を舞い踊る。  モダンの終焉を予見したバーバラ・フラニッキが作り上げた王国〈BIBA〉、ついたてさえない試着室は、毎日が盛大なパーティーのようだっただろうか。人間も衣服も、もみくちゃに、生身をもった物質へと一体となりながら。

スウィンギング・ロンドン|カタユキコ|未来の旅1965-1974

 エネルギッシュで象徴的な世界観を持つカタユキコさまの作品は、まさに1960年代半ばから瞬く間に広がったロンドンの熱気そのもの。  シンメトリ―な女性たちが連帯し始める、爽やかな時代の息吹きを描いた4作をご紹介します。  ミニスカートから、大胆に突き出した脚が枠ぶちのように、扉の中から二人の女性に誘われる――女たちが紡いできたパッションへと!   小首を傾げ、余裕を残した姿態は新しいモードの萌芽を感じさせる。 *  芝生の草が肌をやさしく刺激する。ヒールを投げ出して

二人展《空はシトリン》|影山多栄子&永井健一|青い明滅――人も山猫もこっぱのこも

 宮沢賢治が生前唯一出版した詩集『春と修羅』の序詩として、賢治の詩観のみならず宇宙観をも示した作品「序」が、遊び心の溢れる2作品として新たな灯をきらめかせます。  むっつりしたり、微笑んだり、重なったりと、楽し気に弾けている。黄水晶(シトリン)色の小さな人形たちが8体!   それぞれ見た目は違っても、「あらゆる透明な幽霊の複合体」として存在している。現次元も別次元の世界も行き来できる不思議な力を秘めていそうな「こっぱのこ」たちは、「現象」として捉えられる「わたし」を具現化

二人展《空はシトリン》|永井健一&影山多栄子|夜汽車の希求

 「青森挽歌」の対照的な2つの声、亡妹トシへの願いと遺された者の哀嘆が、永井さまの2作に響き渡ります。影山さまの人形1点は、私たちをトシの無邪気な面影へと誘います。  夜の静けさが、遠くから聞こえるさまざまな声を総動員して、心にのしかかってくる。風景がびゅんびゅんと通りすぎる汽車の中、トシの姿が詩人の頭の中に往来する。  水族館のように光る窓は、焦点を集めるように降り注ぐ光として描かれている。苹果の香気が漂うガラスに閉じ込められているのは「わたし」。  たおやかな花咲く

二人展《空はシトリン》|永井健一|光彩を纏う空

 淡い色合いを用い、風景にきらめく生命の瞬きを描く永井健一さまの作品が、宮沢賢治の詩群と溶け合います。  最初の作品は、企画展のタイトルともなった「空はシトリン」が含まれた詩に捧げる一作。何度も口ずさみたくなるような繰り返しによるリズムが楽しくもせつないこの詩を、絵画の中の幾層もの重なりが連想させます。  シトリンが降り注ぐ空。地平線が幾重にも交わり、すれ違い、繰り返していく。動物、人間、植物がそれぞれ運命に揺れながら生きる。それぞれ異なる地平を生きながらも、安らぎに満ち

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|かぐわしき草原の奇跡 

 植物学の祖ともいわれるヒルデガルトは、修道院の庭でどのように植物と対峙していたのでしょうか。今回は、自然の息吹を感じる土地で季節の花を愛でる、くるはらきみさまの暖かい眼差しを感じる3作をご紹介いたします。  集まった信者たちに炎の舌が降り、異国の言葉を話し始めたと伝えられるペンテコステ(聖霊降臨)。本作品では、炎に代わり色とりどりの花が降り注ぎます。  復活祭から50日、全ての生命を持ったものが目覚める季節。香気に満ちた大気のうねりを感じる淡い緑色のグラデーションが、天と

ヒルデガルトの小径|金田アツ子|花と十字架の祈り

 今回ご紹介する金田アツ子さまの絵画作品には、ヒルデガルト・フォン・ビンゲンにゆかりのハーブが描かれています。目に美しいだけでなく、自然療法に利用される効能を持つ、植物の新たな魅力を伝える作品をお楽しみください。  ひとつ目の作品は、少女時代のヒルデガルトを描いた人物像です。  8歳で修道院に入り、16歳で永久誓願のヴェールを受け修道女となったヒルデガルト。幻視を見ながらも、世には語らなかった少女時代。顔の回りに優しく垂れるヴェールが、内に潜む情熱を柔らかく守るよう。

ヒルデガルトの小径|こうのかなえ|花園の秘密は少女の手の中に

 霧とリボン企画に初参加となる、こうのかなえ様の作品は、鮮やかな植物と幾層にも重なる暗色の背景が織りなす作品世界から物語が溢れ出てくるようです。  少女時代から幻視が視え、8歳で修道院に入ることを決意したヒルデガルドが後世に遺した薬草学の知恵と、その秘密を受け継ぐ少女たちを繋ぐような作品をどうぞご堪能ください。  一人花束を手にたたずむ少女。その周りを可憐なヒナゲシが囲み、純粋さを表すスズランがひっそりと揺れている。庭の影は、少女時代の絡まりあった感情の目覚めを思い出させ

ヒルデガルトの小径|&Robe|静寂の祈り—夏至のタブリエ—

 偉大な修道女ヒルデガルト・フォン・ビンゲンに捧げられる本企画展、初参加の&Robeさまによる2シリーズがお披露目となります。  修道院での生活は、労働と祈りと休息のサイクルというとてもシンプルなものでした。労働には、自給自足のための庭仕事以外に、修道僧たちの衣類、さらには司教や法王の法衣の仕立ても行ったそうです。  衣服を身に着けることで、ヒルデガルトの生活の追憶を辿るだけでなく、彼女の行っていた手仕事にも思いを馳せることができそうです。  作者自身によって撮影された美し