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LIBRARIAN|維月 楓の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、維月楓の小部屋。詩人・研究者・翻訳家。古今東西の女性/クィア詩人の作品を読み解くことを通して、新たな生の軌跡に敬愛を捧げている。
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2022年11月の記事一覧

スウィンギング・ロンドン|河井いづみ《2》|呟声と時間

 時代の嵐が去った後も残り続けるモノ――。独特のノイズ感をもった鉛筆画から、じっと動かないモノの息遣いが秘かに聞こえてきます。  衣装替えの混乱が終わったあと、人々の気配が充満する部屋。傾いたハイヒール、飲み干された空瓶、打ち捨てられた林檎。  時間が止まったモノクロームの世界で、静物であるはずのモノたちがぬるりと生きているようにその存在を表している。呼吸を繰り返し、ふくらんだカーテン。来客を迎えようと、鷹揚に構えたソファ。  現在でも、オークションを華やがせるそれらは

スウィンギング・ロンドン|須川まきこ《1》|クイーン・オブ・ハートの鼓動をきいて

 華々しく時代を一新し、自らの眩しさによって神話と化したブランド〈BIBA〉。神話を作りあげたのは、ショップに並んだ伝説を、選び取り、身に纏った女の子たち。  最新作のバッグ、オリエンタルな髪留め、愛用の仮面と羽根飾り。ごちゃまぜな懐古主義が、部屋を舞い踊る。  モダンの終焉を予見したバーバラ・フラニッキが作り上げた王国〈BIBA〉、ついたてさえない試着室は、毎日が盛大なパーティーのようだっただろうか。人間も衣服も、もみくちゃに、生身をもった物質へと一体となりながら。

スウィンギング・ロンドン|カタユキコ|未来の旅1965-1974

 エネルギッシュで象徴的な世界観を持つカタユキコさまの作品は、まさに1960年代半ばから瞬く間に広がったロンドンの熱気そのもの。  シンメトリ―な女性たちが連帯し始める、爽やかな時代の息吹きを描いた4作をご紹介します。  ミニスカートから、大胆に突き出した脚が枠ぶちのように、扉の中から二人の女性に誘われる――女たちが紡いできたパッションへと!   小首を傾げ、余裕を残した姿態は新しいモードの萌芽を感じさせる。 *  芝生の草が肌をやさしく刺激する。ヒールを投げ出して