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LIBRARIAN|維月 楓の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、維月楓の小部屋。詩人・研究者・翻訳家。古今東西の女性/クィア詩人の作品を読み解くことを通して、新たな生の軌跡に敬愛を捧げている。
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2022年7月の記事一覧

二人展《空はシトリン》|永井健一|光彩を纏う空

 淡い色合いを用い、風景にきらめく生命の瞬きを描く永井健一さまの作品が、宮沢賢治の詩群と溶け合います。  最初の作品は、企画展のタイトルともなった「空はシトリン」が含まれた詩に捧げる一作。何度も口ずさみたくなるような繰り返しによるリズムが楽しくもせつないこの詩を、絵画の中の幾層もの重なりが連想させます。  シトリンが降り注ぐ空。地平線が幾重にも交わり、すれ違い、繰り返していく。動物、人間、植物がそれぞれ運命に揺れながら生きる。それぞれ異なる地平を生きながらも、安らぎに満ち

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|かぐわしき草原の奇跡 

 植物学の祖ともいわれるヒルデガルトは、修道院の庭でどのように植物と対峙していたのでしょうか。今回は、自然の息吹を感じる土地で季節の花を愛でる、くるはらきみさまの暖かい眼差しを感じる3作をご紹介いたします。  集まった信者たちに炎の舌が降り、異国の言葉を話し始めたと伝えられるペンテコステ(聖霊降臨)。本作品では、炎に代わり色とりどりの花が降り注ぎます。  復活祭から50日、全ての生命を持ったものが目覚める季節。香気に満ちた大気のうねりを感じる淡い緑色のグラデーションが、天と