うれしかなしワッペンの記憶

幼稚園の記憶。
送り迎えはバスで、行き先によって帽子につけられたワッペンの色分けで区別されていた。
ふつうは1枚。
私は2枚のワッペンがついていた。

親が共働きで家に帰ってもいないことがあるから、家方面のバスのワッペンと、親の働き先へ行くバスのワッペンで2枚だったのだ。ピンクと青のワッペンだったと思う。

ワッペンを2枚つけている子はそうそういない。
だから、私はちょっとだけ誇らしく、そしてちょっとだけ悲しかった。
小学生になっても私は鍵っこだったし、家に帰っても自分で鍵をあけて入っても家に誰もいない、というのはさみしかった。

だけど「親に家にいてほしい」というのを言っちゃいけないこと、という認識もちゃんとあったので黙っていた。

ちいさな心にちょっとだけ残る"悲しかったなぁ"。

でも悪いことばかりではなかった。
初恋が幼稚園のときだった私。
働き先へ行くバスに乗っているHくんを好きになって一緒のバスに乗れるのが楽しかったらしい。あんまり覚えていないのだけど、親にそんな話をしていたみたい。そんなHくんとは小学校は違って、中学校で再会するのだけど、結局一言も話さずに終わったんじゃないだろうか。

初恋とは淡いものである。




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