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「竜とそばかすの姫」表象考察と感想

 サマーウォーズが大好きなので、満を持して見に行ってきた結果、かなり好きで考察が止まらなかったので書き出しました。

ネタバレあります、というか未視聴の方は理解できない部分が多いと思います。是非視聴後に読んで頂けたらと思います。

<表象考察>

 今作は現代の社会問題というかネット問題(メインとして匿名からの誹謗中傷)をかなり扱っているなと思ったので整理したくて書きました。
 考察と題していますが、かなり所見が入ってしまいました。先にお詫びしておきます。

1.ジャスティス=正義警察、顔のないジャスティスの兵士=流されやすい大多数

 ネット上に蔓延るいわゆる「正義警察」。彼らはいかにも正しいことを言っているように見えて、しかし実際はその出来事の表面しか見ず、結果のみで善悪を決めていることが多いのです。そして最大の特徴は匿名でしか活動しないということです。なぜ匿名でしか活動しないのか。それはもし掲げている「正義」が間違っていた時に、すぐ逃げれるようにだからだと思います。つまり、それが本当に「善」なのかは自信がなく、常に保険をかけている状態なのです。そんな匿名に依存しきっている彼らにとって、アンベイルされることは「U」の世界で命を取られることと等しい。だからこそ「悪」をアンベイルしたがるのでしょう。
 今回、表面の出来事とは「暴力を振るう竜」「ライブをめちゃくちゃにした竜」です。表面だけ見るといかにも竜が悪ですよね。ただ、鈴だけが流されやすい大多数の意見を鵜呑みにせず、その行動には何か理由があるのではないかと思案します。

 そしてジャスティスの部下である顔のない多くのモブは、その正義警察の意見を鵜呑みにした流されやすい大多数です。いかにも正しそうに言っている彼らの意見を、特に調べもせず、「みんなが「悪」だと言っているからこの出来事は「悪」なんだ」と判断し、ネット上なので叩いてもよし!と判断してしまうのです。これが誹謗中傷に繋がります。
 今作では、城に勝手に入り込んで竜をあぶりだそうとしている行為、そしてマスコミやらがこぞって竜の正体を突き止めようとしている描写がそれに該当しますね。

2.虐待されている子どもと竜

 「助ける助ける助ける…」のセリフがあったと思います。
きっとネット上で助けを求めたことって過去に何回かあったのではと推測します。そして、虐待されている子どもを見たら、正義警察はいかにも「助ける」って言いそうですよね。そして実際に言ったのでしょう。匿名で「助ける」と、とても正義のヒーローのようなことを言って、しかし言うだけで何も行動しなかったのでしょうね。匿名のヒーローに「助ける」と言われて、待っても待っても助けは来なくて。匿名で言った人は、匿名だから助けなくてもいい。匿名で言ったことだから、助けなくても自分が批判されることはない。だから竜は、匿名の安全圏から正義を振りかざしている正義警察ことジャスティスに攻撃したのでしょう。作中で竜が攻撃したアカウントはジャスティスだけだったと思います。このことから、匿名の仮面を被った安全圏から「助ける」と言っている人=正義警察をかなり恨んでいるということが分かります。(ちなみに竜に攻撃されて氷漬けにされたのは「凍結」ってことかな、と思いました。うまいね。)

だからこそ、匿名の安全圏からではなく、アンベイルして本当に助けに来てくれた鈴のことを信じたのでしょう。(まぁ虐待の根本的解決はされていませんでしたが。尺の都合でしょうか)

3.クラスのグループライン

 私の学生時代はまだガラケーだったので、この問題は無かったのですけれど、昨今の社会問題だということは聞きます(学生時代にLINEが無くて良かった)。たった一人、その現場を見た(忍くんと鈴が手をつないでいた)ことを言っただけで、流されやすい大多数(この大多数はもちろんその前後のできごとは考えない)を左右できちゃう時代なんですね。
 この誤解は解けるものの、この問題についても作中では解決しません。リアルでも難しい問題ですもんね。ただ、作中で誤解が解けた後に大多数がちゃんと「ごめんね」って言っているにはえらいなぁと思いました。


 他にもありそうですが、作中で伝えたい社会問題はだいたいこんな感じでしょうか。なんと、この問題提起されたほとんどが作中で解決されていないんですよね。(尺的な問題だったのかなとは思いました。)しかし、映画の中で問題を提起しても、その映画の中で解決する必要は別に義務ではないんですよね。創作にルールはないので、「言いたいこと」が無くてもよい、起承転結が無くても良い(前作『未来のミライ』)し、特にキーになるわけでもなく飼い犬が前足をケガしててもいいし、問題を全て解決する必要もない。今作は、昨今蔓延るネット問題を提起したかったのだと思いました。


<考察>

1.忍くんと「U」

 鈴がアンベイルされて歌うときに忍くんだけ「見てるから」って言っていたし、みんなが「U」のイヤホンしているのに彼だけしていませんでした。ということは、忍くんは「U」のアカウントを持ってないってことですよね。なぜ「U」のアカウントを持っていないのか。まぁあれだけイケメンならリアルが充実しているでしょうから、特にネット上で「もう一人の自分」を作る必要がないのかな、と思いました。

2.鈴の友人:ヒロちゃん

 固定観念の象徴かなと思ったんですけど、彼女の考察はめちゃくちゃ難しい。最後、忍くんがアンベイルすることを提案している時に、反対している彼女。鈴の殻を破らせようとする忍くんの対比として出てきたキャラなのかと思ったんですけど、そもそも鈴を「U」に誘ったのは彼女本人でしたね。鈴に変わってほしいのか否か、彼女の思考がわかりませんでした。

3.鈴だけが竜に興味を持った理由

 ライブ中に乱入して来た竜に対して、ヒロちゃんを含めて観客も皆「出でていけ!」と言います。一方で鈴ことベルだけは竜を冷静に観察し、追われていることに気づきます。「ライブをめちゃくちゃにした」という表面だけの現象を見て竜を悪だと判断するのではなく、めちゃくちゃにした理由、追われている理由を探そうとします。そして実際に竜を探しに行った。これは彼女の母親もそうですね。水難事故の時、他の人は安全な川の外側から見ているだけで行動はしません。他人の子供を助けに行ったのは彼女の母親だけ。そんな母親の血を濃く引き継いでいるなと思いました。

 ただし、優しすぎて他人を信じすぎても詐欺にひっかかったりするので、毒舌というか疑り深いヒロちゃんとのバランスはとても良いと思いました。


<感想と所感> ~インターネットの有用性~

 正直、ツッコミどころが無かったといえば嘘になります(虐待を助けに東京まで一人で行くのか?!とか)。しかし、社会問題を扱っている作品が好きやし、曲がはちゃめちゃに良かったので、個人的にはかなり好きな作品です。

1.ミュージカルのような今作

 細田守監督作品にして珍しく、かなりミュージカル寄りでしたね。キャラデザにディズニーの方がいたり、主人公の名前やタイトルからも分かるように美女と野獣のオマージュがかなりあったからだと思います。めちゃくちゃ良かった。劇場で見て正解やった。これを読んでいる方はもう見てる方が大多数だとは思いますが、まだの方はできるだけ音響の良い劇場を推奨します。

2.冒頭

 サマウォでは「OZの世界へようこそ」から始まりますが、今作の始まり方は「「U」の世界へようこそ」でしたね。サマウォをなぞったこの始まり方は本当にワクワクで、そしてそのセリフの後に流れるメインテーマ「U」。めっちゃ良い。最高潮から映画が始まる。「U」の世界の圧倒的映像美と素晴らしいノリノリの音楽との相乗効果で、開始10秒で「もう好き。この映画もう好き」となりましたね。曲が良すぎて、帰ってからすぐに買いました。

3.批判

 鈴の母親が死んだことがネットニュース上で中傷されていたり、「U」の世界では無名のベルが歌った初期の頃に、吹き出しによる批判コメントがあったりしました。ネットって顔が見えない匿名だからこそ、無責任に知らない人へでも批判が言いやすいですよね。でもそれは、リアルでは言わない人が多いのではと思います。そう、リアルで「言ってはいけない」と判断できるものはもちろんネットで匿名でも言ってはいけないのです。しかし昨今、これがなかなか分かっていない人が多いような印象です。
ネットで中傷する人って、ネットアカウント=リアルっていうのが分かっていないから、批判をするのではないでしょうか。面と向かって言えないから、匿名という安全圏(だと思っている)から攻撃しているのではないかと思います。
 でも、鈴はもちろん、1アカウントももれず「ネットアカウント=リアルの人間」なのです。匿名であっても発言には責任を持つものだし、匿名だと思っていても、特定はできるのです。つまりネットで安全圏などないのです。
これは所感なのですが、これだけネットが発達している現代、義務教育でネットリテラシーの時間を増やすべきなのではと思ってしまいます。

4.「鈴」こと「ベル」

 さて、これまで匿名のことを悪く言っていましたが、それは匿名の仮面を悪用しているからです。鈴みたいに、自分に自信がなかったり、リアルでできなくてイップスになってしまっていても、ネットならリアルを気にせずにもう一人の自分になれる。これってネットのとても良いところですよね。そう、「匿名」というのは利用する人によって、良い風にも悪い風にも働くわけなので、悪いことばかりではないと思います。リアルが辛い人はネットに逃げて、それこそもう一度人生をやり直すぐらいのことができる、とても良い時代だと個人的には思っています。かくいう私もリアルがしんどかったらインターネットに逃げたり居場所を作ってもらっていたので、インターネットには感謝しかありません。

『自信が無かった主人公が、リアルでも自信を持てるようなった。』
作中で唯一解決した問題ですね。

 話は逸れますが、歌ってみたや描いてみた、作ってみたなど、技術の発展でニコニコ動画全盛期の時代から(今はYouTubeの時代ですが)一般の人もクリエーターなどになれる間口がめちゃくちゃ広がったと思います。歌ってみた動画の投稿から歌手になったり、ボカロ動画から作曲家になったり、漫画をSNSにあげたのがきっかけで漫画家になったり。インターネットは無名の誰にもチャンスがあるフィールドだと思っています。インターネットの好きなところです。
 そしてベルのバズり方(他の人が動画をあげたり、それの派生動画が作られたりと)がとてもイマドキっぽいなぁっと思いました。

5.ペギースー

 昨今のネットの流行りというか、コンテンツの移り変わりってめちゃくちゃ早くないですか?!「人の噂も七十五日」と言いますが、例えばネットでバズる漫画とかの話題って日に日に短くなって言っている感じがします。前は1週間ぐらいその漫画が話題になっていたのに、今はもうバズった当日だけ話題になって、次の日には誰も話していないとか。ペギースーがそうなったように、Belleもすぐ流行りから過去の人になるんだろうなって思ってしまいました。ジャパン、娯楽コンテンツ多いね。

6.インターネットの可能性

 実際の距離をあってないものにしてくれるのも、インターネットの良いところのひとつです。こうして遠く離れた田舎からでも、東京の虐待されている子どもたちを救うことができるというのは、本当にすごい時代になったなと、改めて思いました。

7.鈴の父親

 鈴が勝手に東京に行く時に、お父さんは気持ちよく送り出してくれたけど、「知らない人を助けに行く」ってきっとお母さんの二の舞になるんじゃないかって、かなり心配になったと思うんですよ。でも「鈴が母さんに育てられてよかった(ニュアンス)」って送り出しててえらいなぁと思いました。

8.ボディシェアリング

 「U」の世界に入るときに「視覚情報を共有します(ニュアンス)」と、とても印象的なシーンがあったと思います。ネットの仮想空間に入れるなんて、2021年現在では夢のような技術ですよね。仮想空間にダイブする、といえば有名な「攻殻機動隊」や「ソードアートオンライン」を想起させられましたが、そんな研究も進んでいるみたいですね。
 「ソードアートオンライン」ではヘルメットのようなVRゴーグルを頭から被っていましたが、「竜とそばかすの姫」では、ワイヤレスイヤホンのような、本当に小さい機器でした。VRゴーグルはかなり普及しており、現代が「ソードアートオンライン」の時代に近づいているからでしょうか。ワイヤレスイヤホンのような小さい機器でダイブできる未来がくるといいですね。楽しみです。

9.正義警察

 何か違反行為をした人に、必要以上に叩いてる人を見かけます。「みんなが叩いているからこの人は叩いてもいい」「違反をしたから叩いてもいい」、そして「違反者に警告してやった!自分は正しいことをした!」と悦に浸っている人が多いのではないでしょうか。次にその満足を求めるためにまた次の違反者を見つける。「満足感のため」や「みんながやっているから」ではなく、叩くこと自体が本当に必要なことなのか否か、流されるままでなく一瞬冷静になって自分で考えてみることも大事だと思います。ということが、監督が一番言いたいことかな、と思いました。
 別の項目で先述したように、日本はとても娯楽コンテンツが多い国だと思います。他人を叩いて娯楽を得るより、何か他に充足できるような楽しみを見つけてみてはいかがでしょう。

 この記事が炎上するとしたら、この項目の一部分(つまり表面部分)だけを切り取って「コイツは違反者を擁護する発言をしている!」となるのでしょうが、国語のできるみなさんなら前後の文脈を加味してこの記事が言いたいことはそうではない、ということがわかっていただけると思います。国語って大事だね。

全ての感想:細田守の男子を信じろ

 


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