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あの日私の応援してる人はヒーローになった

人生であれを超える現地観戦はきっともうない。
そう言い切れるほどの試合だった。

自国開催のW杯、どこのチームよりも早い6月から代表合宿は始まった。富樫勇樹をはじめ、長年日本代表を引っ張ってきた選手たちからは何か並々ならぬ覚悟を感じた。特に最年長の彼は東京五輪の時に一度引退を考えたとも口にしていた、それでも世界で一勝したいんだ、私はそれを見届けたいと思った。

この夏がJAPANを背負って戦う最後の勇姿かもしれない。これで見納めでも後悔のない夏にしよう。みんなが戦う姿を目に焼き付けよう。そんな思いで、国内の強化試合には全て出向いた。

W杯のコートに立てるのは12人、まずそこを勝ち抜かなければ世界から一勝をもぎ取るチャンスも得られない。W杯から見始めた人には信じられないかもしれないが、比江島慎はこの夏ずっと試されていた。代表にいるのが当たり前だった選手が落とされるかもしれないという初めての壁と戦っていた。

国内で何試合もあった強化試合、最後まで納得いく顔でコート一周する彼は見られなかった。十分にもらえないプレータイム、指揮官からのことば、全てをまっすぐ受け止める素直な彼はたくさん苦悩してるように見えた。その姿はより一層応援しなきゃという気持ちを駆り立てた。ファンだから応援することしかできなかったけど、私もHCの言葉に一喜一憂し、プレータイムがないとへこんで帰り、ポジティブなことが書いてある記事がないかと探したりした。同じポジションの選手が活躍するのも複雑だった日もあった。SNSでの不要論に心底落ち込む日もあった。

そうやって私は彼が戦う夏を応援し続けた。

迎えたW杯本番、予選の3試合、どうしても現地で応援することは叶わなかった。精一杯リアタイした。フィンランド戦は家で信じられないくらい泣いた。だって彼が世界で一勝した瞬間だったから。

それと同時に思った、私これ見に行かなくていいの?って。この夏私が応援してきた集大成はここじゃんって。仕事のスケジュールと照らし合わせて慌ててチケットサイトを見にいくと、唯一行けそうな8月31日のチケットは数枚残ってた。オーストラリアに勝ったらこの日に日本戦は行われない。賭けだった。

幸か不幸か、無事に日本戦に参戦できることになった私は6番のグッズを纏って沖縄に乗り込んだ。

相手は格下のベネズエラ、主力選手の1人は怪我で帰国し平均年齢も高いため、予選ほど難しい相手ではないだろう。そう思っていた。

しかし、この試合相手の好調なシュートタッチで終始追いかける展開だった。さらに私の最も応援する人はファウルトラブルに陥った。正直なんで今日に限ってって思った。過去の代表戦での嫌な思い出が蘇ったりした。でも前半スリーやアタックで繋いでくれたからまたきっと出番がある。ベンチに戻ってまっすぐ戦況を見つめる彼を信じて精一杯声を出した。

迎えた3Q、スタートに6番の姿があった、日本は連続スリーなどで1点差に詰め寄る(残り7分)。しかしここで4個目のファウルが宣告された。下がらざるを得なかった。そこからズルズルと離され、4Q残り5分になっても10点ビハインドだった。バスケを見ている人なら誰だって、ここからの勝利が簡単ではないことがわかるだろう。


反撃の狼煙は彼のすごくクイックでタフなスリーだった。みんなで守った次のポゼッション同じような角度からシュートを放った、リングで跳ねてとボードにあたりバンクで入った、変な入り方だった。この瞬間になぜかゾーンに入ってると直感した。代表では珍しくボールよこせモードだった。いつもと何かが違うのをいちファンの私でも感じ取るほどだった。打てば入る、人間の極限の集中状態であるゾーン、それを目の当たりにした瞬間でもあった。あの日沖縄アリーナにいた全ての人がその空気を感じ取ったのではないかと思うくらい独特の何かがあった。

もう一つのファウルも許されない中ディフェンスもすごい気迫だった。

そして残り2分をきったころ日本はついに逆転した、馬場雄大のスティールから合わせてのエンドワンだった。最高潮に盛り上がる沖縄アリーナで私は6番のタオルを掲げながら大号泣していた。彼がボールを持った時のアリーナの期待感と興奮は本当にすごかった。そしてあの一生擦られているセレブレーションへと繋がる。

日本は見事に勝利した。最後の最後まで相手にシュートを打たすまいとする姿も本当にかっこよかった。

ブザーがなって駆け寄る仲間に照れくさそうに笑うところはいつも通りの彼だった。さっきまでとはまるで別人のようにふにゃふにゃの笑顔で笑っていた。この夏、ずっと見たかった笑顔だった。世界に一勝だけじゃなくて、もう一個勝っちゃったじゃん。かっこよすぎだよ、できすぎてる。こんなに応援したいと思える人がいて、その人が夢を叶える瞬間に立ち会えた、まさに最高の瞬間だった。大げさかもしれないが、きっと人生のハイライトに入るだろう。

見たか、世界、これが 『比江島慎』だ覚えとけ!!
私まで鼻高らかになっていた、私の応援してる人はすごいんだぞって。今もこの日のことは鮮明に覚えている、きっとおばあちゃんになっても忘れない。ありがとうマイヒーロー、これからも信じて応援するから。

8月31日、日本に勝利をもたらしたヒーローの話。

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