月光の波間 2章 港町

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朝からいい天気だった。日差しも夏のようだった。

友人と入谷駅で待ち合わせをして、友人の会社に行った。朝早いというのに下町には活気があった。今日をどれだけ多くの人が楽しみにしているのかが、町全体で伝わってきた。

しばらくすると金ちゃんと彼が入谷駅についたというので、同居する友人は駅まで迎えに行った。

私は誘ってくれた友人に、「金ちゃん大丈夫かな?」と聞くと、「不法外国人だからって気にしないよ。みんな不法労働っていってもよくわからないし。でも、祭りを壊したり、町内会の輪を壊したりしたら許さないけど、金ちゃんが不法だとしても、お神輿担いで、祭りを盛り上げてくれる人だったら、みんなが守ってくれるよ。金ちゃん次第じゃない。不法なんて国が決めたことで、みんなにはあまり関係ないことだしね。」と。

結局、どの面からみるかだ。正面からみるのと、後ろから見るのが、全く違うように。町内会の人は、「お神輿をかつげる」という面から見ているのであって、「不法労働者」の面からはみていない。「お神輿をかつげる」面から見れば、確かに何も問題ないのだ。


しばらく友人と話していると、同居人、その彼氏、そして金ちゃんの3名がこちらに歩いてくるのが見えた。3人とも身長が高く、彼氏と金ちゃんはその中でも肉体労働者の立派ながたいをしているため、びっくりするくらいお神輿に似合っていた。町内会の人たちは誰もがそう思っていることは一瞬にしてわかった。

友人から町内会長さんへ挨拶にそのまま連れて行かれると、町内会長の最初の一言が、

「今年はいい青年みつけてきたね」とのことだった。

誰もが「お神輿をかつげる」の面でみている。そして、金ちゃんも中国語訛りの流暢な日本語で丁寧に会長に挨拶をしたことで、一気にその場の門扉が開かれた。誰もが彼を受け入れた瞬間だった。

後から決めたルールに縛られているのは私だった。そして、今の私のいる社会だった。何を縛られてきたんだろう。私は。私の人生は。どこかへ行こう。今とは今いる私の社会とは全く異なるどこかへ。全てどうにかなるのだ。生きていることでどうにでもなるのなら、どこか違う社会に身をひと時置いてみよう。そんなこと去年のあの夏に決めたのに、なぜいまだにぐるぐると同じ場所を回っているんだろう。どこかへ行こう、

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