月光の波間 1章 始まり

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私の知る多くの漁師は浅黒く、顔には深いシワが刻まれているが、あの風貌や顔つきは決して私の知る漁師ではなかった。肌の色は同じように浅黒い。服も他の漁師と比べて格段に違ってはない。背丈も筋肉のつき方も特に違ってはいない。髪の色だって。だが一つ違うのは、その瞳だ。目の大きさがどうとかではなく、その瞳の輝き方だった。昔と比べ格段に漁業が儲からなくなっており、大きな網元でさえも廃業する昨今、誰も漁師になりたがらず、誰も漁業に夢を抱かなくなっている中で、あんな瞳を持った漁師なんていない。それなのに、その外国人と思われる漁師の目には希望があった。あの瞳を見なければ、あの若者を外国人とは思わなかっただろう。ただ、「漁師」とだけ思っていただろう。

「外国人が漁師をしている」、その事に気づいた時から、今までひっそりと暮らしている外国人が急に私の目の中に頻繁に入ってくるようになった。彼らは目立たないようにしているが、どの顔もあの瞳を持っている。その瞳に気づいてしまってからは、まるで間違い探しの答えを知った後にすぐに違いがわかるように、私の目の中には多くの外国人が飛び込んでくるようになった。

「この町は外国人で溢れている。」その事に気づくと、町にはそんな彼らが利用する彼らの国の小売店が多く存在している事にも気が付いた。多くの店は、住宅地にひっそりと小さな看板を掲げていたり、入り口に見たことのない缶詰めや野菜を置いていたりと、知っている人だけにその門扉を開いているようだった。そして、店はタイの物を扱っている店、中国の物を扱っている店、インドネシアの物を扱っている店など、様々だった。

私がその存在を今まで全く気がつかなかったのは、気づこうとしなかったからなのだ。彼らはひっそりと暮らしていたが、決して隠れてはいなかった。私の関心がそちらに向かなかったから、見えてこなかっただけ。今はしっかりと見えている。彼らの存在も、彼らの生活も、そして彼らの瞳も。

今、あの夏の白昼夢を経験した私は、彼らがどうしてこの町にいるのか知りたかった。こんな気持ちになることにびっくりした。自分の人生に全く関係ない彼らをなぜ知りたいのか、自分でもわからなかった。しかし、彼らがどこからきて、どのに住み、何をしているのか、知りたかった。どうにかして知りたかった。しかし、どうしたらいいのかわからなかった。知りたい、知りたいという欲求だけが日々高まっていた。そして、その答えを手に入れるためには、私から何かしなくちゃいけないこともよくわかっていた。

「私から何かするの?」と思った後、いつもなら「なんで?」となるが、この知りたいには「なんで?」ではなく、「何を?」という考えが浮かんだ。「とにかく何かしなくちゃ。」と。

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