月光の波間 2章 港町

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友人の家に移ったある日、私はふと友人にあの町で見た外国人の話をした。「あんな田舎に外国人がすんでるのよ。」と。

しかし、友人は全くそのことに驚かなかった。私たちの町は人が出て行くことは多いが、外から入ってくることはほとんどない。私の小さな頃は転校生すらほとんどいなかった。幼稚園から中学校まではほとんど同じ顔ぶれ。高校になってようやく顔ぶれが変わるくらい、ほとんど出入りが無い町なのに、友人は私の話を聞いて何も驚かなかった。

「おじいちゃんの加工場で外国人雇ってるよ。結構前から。日本人は魚の加工なんて大変な仕事やりたがらないから、結局外国人雇ってるのよ。不法だけどね。」と。

こんな身近に彼らを知る糸口があったことにびっくりした。私はなんとか理由をつけて、友人が帰省するときに友人の祖父の家の加工場について行くことにした。

彼らがなんであの町にいたのか、ぼんやりだが先が見えてきた。彼らは海で働く人に間違いなかった。ただ、どうやってあんな町まで来たんだろう。あの町は外国人が知るような町ではない。それに外国人が仮にあの町に流れ着いても、どうやって友人の祖父の加工場で働けるんだろう。私が見た彼は少なくとも日本語は話せた。あの彼が発した「おのさん」という言葉が頭の中で急にぐるぐると巡り出した。そしてふと、「彼は私に見つけて欲しいのだ」という思いが湧き上がってきた。彼が確かにこの町に存在することを見つけて欲しいという思いが。ひっそりと暮らさなければいけないはずの彼らの核に、自己存在認識の欲がこういった形で私を惹きつけている。彼らの強い思いが私の頭を巡った。

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