月光の波間 2章 港町

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「とにかく、友人に付いて彼女の祖父の家に行こう。行って彼らに聞いてみよう。もうそれしかない。」そう思うといても立ってもいられなくなった。こんな感情いつ以来だろう。日々淡々とした生活を送るだけの人生だから、こんな感情は滅多に芽生えない。もうだいぶ前にあったか、なかったか、、、自分のレールが急激に変化しているのを強く感じた。

「あの夏の日にきっと何かに呼ばれたのかもしれない」ふとそんな感情を抱きながら、私は友人が次に実家に帰る日に一緒に帰ることを告げた。しかし、それはしばらく先であったため、今は何をしようかと、どうしたら彼らを知ることができるのかを、ぼんやりと日々考えていた。

そんなある日、友人の彼が家に遊びに来た時、一緒に飲んでいると彼から気になる話を聞いた。

「なんか入管の強化月間らしく、金ちゃんが最近現場来れないから仕事が忙しいんだよね。」と。

「金ちゃんって?」と聞くと、彼が建築現場で働く同じ親方の所で働く不法の中国人であると教えてくれた。

「金ちゃんは不法で働いている中国人でさ、すごいいい人なんだよね。仕事もできるし、人としてもできてる。でも不法だから、何年も中国に帰ってないだよね。帰ったらしばらく日本に来れないし、帰れないんだよね。今度連れてくるよ。酒も強いし、面倒見もいいよ。」と。

「不法で働いているの?」と私が興味深そうに聞くと、建設現場では不法で働く外国人が多くいると教えてくれた。

「解体屋なんでほとんど不法じゃないかな?」と。

金ちゃんは中国に子供がいるらしく、他の外国人同様、結構な額を送っているとのことだった。日本には多くの労働ビザを持たない外国人が働いているため、入管は定期的にそのような外国人狩りという検挙をしているとのことだった。ただし、なぜだか知らないが、ある程度外国人や雇用者には検挙の日程が聞こえてくるらしく、その時期は雇用者は休ませたり、外国人もひっそりと過ごしているとのことだった。

「日本の建設現場は外国人いなかったら、もう成り立たないよ。」と彼がポツリといった。ここにも日本人離れが進んでいるそうだ。辛い仕事はしたくない。汚い仕事はしたくない。かっこ悪い仕事はしたくない。結局そんな仕事をしなくても、他に働くところが今の日本には多くある。でも、そんな仕事を誰かがしなければ、この国は回らない。きっとそんな国は他にもいっぱいあるんだろう。ただ、知らないだけ。

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