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「玉子酒を、ギムレットには早すぎる」

玉子酒たまござけを、ギムレットにははやすぎる」

「そういう仮説は確かに成り立つでしょう、セニョール。おっしゃることはわかります。しかしそれはともかく、あなたは私が嘘をついたと言っておられる。私はセニョール・レノックスの部屋に入らず、手紙も預からなかったと」
「だって君は最初から部屋の中にいたじゃないか。そこで手紙を書いていたんだろう」
 彼は手を伸ばして、サングラスを外した。瞳の色だけは変えられない。
「ギムレットを飲むには少し早すぎるね」と彼は言った。

レイモンド チャンドラー『ロング・グッドバイ』
村上春樹 訳
上田薫《なま玉子A》1975年 群馬県立近代美術館

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