見出し画像

名乗り出てやたら砂漠に水を撒く

名乗なのてやたら砂漠さばくみず

 僕たちは名刺を交換してからウェイトレスにコーヒーを注文した。彼は本当に大学の講師だったので僕はひどく驚いた。年は三十を幾つか出たあたり、髪はすでに薄くなりはじめていたが体は日焼けして頑丈そうだった。
「大学でスペイン語を教えています」と彼は言った。「砂漠に水を撒くような仕事です」
 僕は感心して肯いた。

村上春樹『1973年のピンボール』
秋野不矩《砂漠のガイド》2001年 秋野不矩美術館

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?