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落ちてゆく火蛾の内にも、ほら、洞が

ちてゆく火蛾ひがうちにも、ほら、ほら

昨夜は夢をみて
小鳥の籠があったかしら 火は爆ぜていたかしら

それであのひとはよそにおんながいるのです
わたしのところに十日ほど するとこんどはおんなのところに
行く夕方がきます
行っていらっしゃい
おんなは半分裸で いえ 肩から着物がすべて落ちるとかいなも細くて
背も薄いのです

ああ 夢に火がついて
それでやっと わたしの洞はあんなだったのよ
ながい間わたしをさびしがらせていたのがあの大きさだったのよ と分かる
不可思議の脛舐めている火の舌が這いまわり
くくっと わたし
こそばゆいので

あかい月がぼうっと上る夜道にむかって
いってらっしゃぁい
さびしくないわぁ と手を振っています

このおそろしさ
離れているのはおそろしいことよ とわたしはいつもあのひとに言ったのに
空けてあればいつのまにかおぼろに充ちる
夢一夜。

三井葉子『夢一夜』「草のような文字」所収
速水御舟《炎舞》1925年 山種美術館 重要文化財

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