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IT系事業会社で2年以上デザイナー新卒採用に向き合い感じた変化と、それぞれの時代における課題

IT系事業会社で2年3ヶ月くらいデザイナー専任の新卒採用担当として働いてきたなかで、ここ最近採用を取り巻く環境の変化を感じる機会が数多くありました。せっかくなら自分の頭の整理のために、そして、新卒デザイナー採用は非常にニッチかつ新しい領域なので、同じ領域に向き合う方の知見になればと思って筆を取った次第です。

また、前置きが長くて恐縮ですが、ここでは会社としての意見ではなく、私イチ個人の視点から見たデザイナー新卒採用を取り巻く環境に触れています。そして、ここでいうデザインは主にデジタルデザインやインターネットサービス領域においての話となります。

学生のみなさまへ
私のTwitterフォロワーは学生の方が多いため、一応お伝えしておきます!
・ここからの内容はあくまでイチ企業の採用担当者の視点なので、あまり得るものはないかもしれません。
・私はこの2年間で採用環境の変化は劇的に起こったと感じています。しかし、まだまだデザイナーを志す方にとって万全の環境ではないと思っているので、就職活動で悩むのは当たり前です。※変化してるのに自分はうまくいかない…とか思う必要ないです。
・疲れたときは日光を浴びて寝る、元気なときは「我々が新しいデザイナーのロールモデルをつくるんだ🔥」くらいの気合いでキャリアに向き合って欲しい気持ちです。

自己紹介

私がデザイナー新卒採用に関わり始めたのは2019年8月頃からです。新卒入社後、約1年間法人営業として働いた後の社内異動がきっかけで、デザイナーの新卒採用を担当することになりました。

当時は国内におけるデザインの立ち位置はもちろん、社内のデザイン組織についてすら把握できていなかったため、異動直後はチームメンバーにたくさん助けてもらったり、本をひたすら読んだり、社内デザイナーにわからないことをひたすらを教えてもらったりするところからのスタートでした。デザイナーの気持ちを知りたいと思って、まずは形からとAdobeXD(何故Figmaではなかったのか…今ほど普及していなかったのかな?とこの時点でやや時代を感じます。)をインストールしてCocodaさんのサービスでお題に取り組んだりもしていた日々が懐かしいです…(すぐに挫折しましたが、ほんの一時期8の倍数にハマっていた実績があります。)

2018〜2019年頃のデザイナー新卒採用を取り巻く環境

そんな私が採用担当に着任した2019年といえば、まだまだデザインへのまなざしは千差万別でした。『「デザイン経営」宣言』が取りまとめられたのが2018年5月のことなのでそりゃそうだなという感じなのですが、当社はこの宣言から3ヶ月後の2018年8月にCDOを設置し、デザイン組織の改変も行っていました。デザインとビジネスの繋がりが強く謳われ始めたこのタイミングでデザインに力をいれていくぞ!と会社として明確な意思を示したIT系事業企業は国内ではかなり少数で、そういった意味で自社の取り組みは先進的に映ったと思います。もっと言うと、新卒デザイナー採用を行う会社という絞り方をすると、こういう取り組みを積極的にオープンにできていた企業は片手に収まるほどだったように思います。そもそも同じ業態の会社でデザイナーの新卒採用をする企業自体もとても少なかったので当たり前なのですが。

希少性は価値となります。この時代の新卒採用(中途採用にも言える話と思います)においては、とにかく「デザイン」というものを広義で定義していること、デザインを他職種含めた会社のトップが理解していることが大変大きなEVPとなりました。

ただ、こんなありがたいEVPがあったにも拘らず、まず悩まされたのはIT系事業会社というキャリアの認知の低さ、そして学生からのUIデザイナー、UXデザイナーという言葉そのものへの理解の低さです。

前者について述べると、数多くの学生デザイナーの就職先としてIT系事業会社はまず選択肢に入らないような立ち位置でした。特定大学の特定学部の学生だけは選択肢を知っているけど、マクロな意味での「デザイナーという職業を目指す学生」にとっては最初から選択肢にない。そういう意味での業界全体の認知度がないということです。もちろん、当時から採用を積極的に行っており、うまくいっているように思えるIT系事業会社もありました。ただそこはIT系事業会社というカテゴリでブランディングしておらず、当時デザイナーを目指す学生がまず見るような広告代理店や制作会社と並ぶ立ち位置を築く努力をし続けているからこそ上手くいっているような印象を持ちました。

人事としてデザインを勉強し始めたタイミングでは「これからの時代、自社サービスのデザインに携われるのってすごく面白いキャリアだから、きっと多くの学生のみなさんにも魅力を感じてもらえる✨」と思っていたわけです。しかし、蓋を開けると、そもそも自社は多くのデザイナー志望の学生のキャリアの選択肢の土俵にすらに上がっていない状態でした。(辛)そもそもの母数がとんでもなく少ないのに土俵にも上がっていない状況に悩まされました。

後者については、デジタルデザイン領域における「UI」「UX」という言葉が多くの学生に通じず、UIデザイナーやUXデザイナーの働き方も当たり前に通じなかったということです。概念としての共通認識は一定あるものの、実際にUIデザインを行うということへの理解が少なかったのです。UIデザインの概念をなんとなく知ったとしても、やはり、手を動かしていかないと本当の意味での面白さを知ることはできませんし、興味関心も生みづらいと思います。また、手を動かすといっても、例えばログイン画面を意図なくトレースするだけでは面白さは感じられません。時には大前提の理解を促すために、『はじめてのUIデザイン』から引用して蛇口の例えでUIを説明する…というところからコミュニケーションをとることもありました。この本は現場の第一線で活躍されているデザイナーの方が共同編集している書籍なので、職業としてUIデザイナーを目指すうえで知っておきたい知識を得られます。当時は長期インターンなどの実務以外で生きたUIデザインを学ぶ場がほとんど無いに近しかったので、この本の出版は非常にありがたく、関係者でもないのに勝手に学生の方にお勧めしていました。

もちろん、当時からUIデザインやUXデザインという領域に当たり前に浸かって手を動かしている学生の方もいました。ですが、そういう方は本当に少数派だったように感じています。しかもその多くは、自覚してそこを目指したというよりかは自然発生的で、例えば、長期インターンでサービス開発に触れる中で社会人から学んだものが結果的にUIデザインだったとか、趣味でアプリ開発を元々していて気がついたらUIデザインしていたとか、作ることが好きで、なんでもやっていくうちに気がついたらUIデザインにたどり着いていたとか…。こういう方は非常に珍しく、そういう珍しい経緯以外でUIデザインを知るタイミングは、当社のようなIT系事業会社が開催する短期インターンか、デザイナーを志す学生の間で憧れの舞台となっており、我々も大変お世話になっているビビビット展かのどちらかくらいしかなかったように思います。しかし、やはりこういった短期間では生きたUIデザインを学ぶことはしづらい上に、既に一定のスキルを持った学生しかそもそもそういう機会に恵まれないというもどかしさがありました。

今の20後半〜30代くらいのUIデザイナーやUXデザイナーと呼ばれる方々も道があったわけではなく、気が付いたらそこにいた的な方が多い印象ですが、当時の学生も同じ状況だったように思います。あとは、一部の大学では大学3年後期〜大学4年生くらいのタイミングで選択授業の中でUIデザインというものがあったくらいでしょうか。ただ、そのタイミングだと企業の採用活動スケジュールとは絶妙に重ならないこともあり、当時は面談やイベントでひたすら事業会社での働き方やUIという言葉の普及活動を行っていました。会社として多摩美術大学さんで授業を行ったり、インターンなどの機会を設けたりもしておりましたが、やはり機会提供として充分とはいえず、採用活動≒布教活動のような感覚でした。

既に一定の経験を持ち、デジタルな領域のデザインの面白さを知っている方に、そもそも土俵入りしていない組織がアプローチしていくことは非常に難易度が高いです。そのため、もちろんそのアプローチも取りつつも、そもそもの母数を増やしていく活動も並行して行なっていました。これは今振り返っても長期的視点で必要な取り組みでしたが、とはいえもっと工夫できる点もあったと反省もあります。しかし自分の未熟さもあり、当時はそういうことを地道にやっていくことでしか先のことが考えられず、何度も学校を作った方が早いんじゃないかと思いながら採用活動兼布教活動を行っていました。先が見えない不安がありましたが、この頃は同じチームに同期がいたことが何よりの心の支えで、本当に本当に助けられました。

2020年のデザイナー新卒採用を取り巻く環境

2019年後半から2020年にかけて、デザインの定義の広がりが話題になり、その結果、少しずつ新卒採用領域においてもUIやUXという言葉の認知が広がっていったように思います。ファーストキャリアでデザイナーという職種に就くつもりがない学生の方も、これらの言葉を当たり前にインストールしているくらい認知が広がってきたタイミングな気がします。この変化はとっても嬉しいことです!

ただ、このタイミングで課題になったのは、その定義の広さ故のデザイナー職のキャリアの解像度の低さです。ただでさえ新卒採用においては中途採用と比較すると明確な業務役割が少ないなかで、デザインという言葉が広すぎるが故のメッセージングの難しさがありました。当事者であるデザイナーの方こそ感じていると思いますが、デザイン思考的な意味と、職種的な意味でのデザインが混同して語られがちなうえに、職種的な意味でも「デザイン」という言葉が使われる領域が多岐に渡り過ぎているのが現状です。そのなかで実態を判断できるのであれば問題ないのですが、学生という立場でその多くの「デザイン」の違いを知ることは実に難しいのです。社会人でも普通に難しいのですから。私も随分勘違いしました…し、今でも自分の認知のズレがないかは特に気にするようにしています。

特に自社はデザイン・フィロソフィーを掲げ、デザインをデザイナーに閉じずに他職種と一緒にデザインのチカラを最大化することを大切にしています。組織に浸透している考えで、私自身も共感しているので採用のメッセージングとして伝える機会も多いのですが、実務経験がない学生のみなさんがこの抽象度の「デザイン」だけでデザイナー職としてのキャリアをイメージすると、実態との乖離がどうしても生まれてしまいます。デザイナー職への参入障壁が低くなったかつ、キャリアの解像度が低いとなると、お互い全然違うものをイメージしているのに、同じ絵を描いていると勘違いしやすくなってしまいます。

そのため、当時からデザイナーという職業として自社で実務において求められる働き方をなるべく色々な場面で伝えていくことや、同じ「デザイナー」という肩書きであっても、自社においてはデザイナーをどう捉えているのか、そして、どういうキャリアがあるのかを解像度高く伝えていくことに特に気を付ける必要がありました。就職活動においては絶対的に企業が持つ情報量が多いため、こちらが伝え方を誤ると、申し訳ないミスマッチングが起こってしまいます。私自身の問題もありますが、非デザイナーが採用に関わると特にこの勘違いが起こりやすい気がします。デザイナーであっても新卒採用に関わった機会が少なく、前提の言葉の捉え方を誤ると「考え方としてのデザインについてはやたら盛り上がったけど、実際全然伝わってない!?」とかもあり得る落とし穴だと思います。やっぱり、採用だけしても意味がなくて、その先が一番大事という前提に立ったときに、入り口で抽象的な話だけで盛り上がっても本質的ではないですよね。

ちなみに、今でもこの辺りの問題は採用だけではなく実際の働き方にも影響しているはずで、それをデザイナーの方がどのように捉えていらっしゃるのかは、11月26日開催の「HCD-Netフォーラム2021」における広野さんの基調講演を拝聴することでもイメージできそうな気がしますね。

2021年のデザイナー新卒採用を取り巻く環境

前述したような変化によって、2021年は学生のキャリアの選択肢に、事業会社のデザイナー、及びUIデザイナー、UXデザイナーが浮上するようになったと感じています。

いつもお世話になっているReDesignerさんが発行している『Design Data Book』で今年の学生の就活トレンドに触れられていますが、そこでの希望職種のトップはUIデザイナー、UXデザイナーです。もうこんなの2年前は絶対考えられませんでした!(興奮)そもそも、この『DesignDataBook2020』では学生の就活トレンドという項目自体が無かったので、その時点で時代の変化を感じて感慨深いです。この結果の大前提として、ReDesignerというプラットフォームはデザイナーのキャリアの中でもUIデザイナーやUXデザイナーというキャリアを積極的に選択肢として提示していく方針というのもあると思いますが、それにしてもまぁこの結果を見て「時代が変わっている!」と興奮したものです。(2回目の興奮)

この変化の背景には大きく2つ理由があると思っており、1つはデジタルデザイン領域において新卒デザイナー採用に力を入れ始める企業が増え始めたことだと考えています。まだまだ数として多いとは言えないとは思いますが、初めて取り組む企業はもちろん、大手メーカー企業などもハード系プロダクトのデザイン専攻の学生だけでなくデジタルデザイン領域興味がある学生に積極的にアプローチし始めたのは大きい変化ではないでしょうか。

次に、学校側の動きの変化も大きいと思っています。大学によっては2018年頃から広い意味でのデザインを学んだ上で、専門的なデジタルプロダクトデザインの教育も受けられる環境が誕生したり、もしくは昔から続く学科がそういう環境に進化したりしていました。例えば、新設だと武蔵野美術大学CI学科の授業には驚きました。この学科は2019年に新設されているのですが、2021年には『オブジェクト指向UIデザイン』の著者の上野さんが講師となる授業があったのです。アカデミックにデザイン思考を学べる環境だけではなく、デジタルプロダクトのデザインを専門的に学べる環境がここまで広がってきたのか!と驚いた記憶があります。これは一例で、もちろん他の学校でもこういうはたくさん増えてきているのですが、ちゃんと把握できていないことがたくさんあるのでもしこの学校の授業面白いとかあったら教えて欲しいです。いや〜学校っていいなぁ…。

脱線してしまったので話を戻すと、そういう環境で学んだ方がちょうど就職活動を始めるタイミングはまさに2021年頃からです。今までは言い方選ばずいうと、野良で育って結果的にUIデザイナー、UXデザイナーになった方がほとんどだったなかで、体系的な教育を受けた上でUIデザイナー、UXデザイナーを意図的に選択する方が生まれてきたわけです。まだまだかなり少数派だとは思いますが、これもすごい変化だなと思います。2年前に「学校つくった方が早い」と思っていましたが、私が無知だっただけで、学校はつくられていたのです!(3度目の興奮)

このような変化は必然的に起こると予想されてきたとは言え、2年でここまで変わるか〜とその変化の速さとインパクトを感じています。デザインの需要が高まり、それに伴い求められるデザイナーの増加、こうした変化の最中を過ごしてきたんだと。今になってやっと気が付けます。

そして、この今のタイミングでの課題は、デザインに力入れていると宣言する企業が増加(これはいいことだと思ってます)したことで、デザインは課題解決という言葉がコモディティ化してしまったことだと感じています。デザイナーのキャリアの解像度が低い学生からすると、どの企業もいい感じ!になってしまうので、理解が深まったようで深まっていないというような状況になってしまいます。大切なファーストキャリアを考えている学生に、正しく自社を理解してもらったうえで選んでいただけるように、宣言だけではなくて実績を伴った組織にしていく必要がありますし、デザインに力入れています!だけではないEVPをつくっていく必要があると思っています。(がんばりたい)

最後に

私の目から見た2年間の新卒デザイナー採用を取り巻く環境の変化は以上となります。長く拙い文章を最後までご覧いただきありがとうございました。

まだまだ視野が狭いところもあると思うので、違和感あればぜひ直接教えて欲しいです!流行りのMeety作ってみたのでこちらで…!

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