文春の報道について。
週刊文春はわが国の週刊誌の中で最も調査報道に力を入れている。この1年ほどジャニーズ事件、木原事件(安田事件)、宝塚歌劇団事件、松本事件、自由民主党の政治資金問題(裏金作り疑獄)など、社会の暗部に切り込んだ問題を取り上げ、世間の大きな反響を呼んでいる。
とくに元副官房長官の木原事件や芸能事務所のジャニーズ事件とお笑い芸人の松本事件などでは、文春砲が何度も炸裂し、独壇場の報道を展開した。これらの事件を通して、文春は権力や名声によって隠された不正や性虐待を暴露し、ジャーナリズムの重要性を示した。
テレビや新聞など大手のメディアは前述の事件をほとんど扱わず、沈黙を守り続けた。文春は弱きを助け強きを挫くという社会正義の意気込みを強く見せつけ、種々の圧力にもかかわらず、孤軍奮闘の報道を貫き、悲壮感すら滲ませた。そのためか、自ら進んで証言をした人や証人になろうとする被害者もいる。また松本氏が所属する吉本興業はジャニーズ化するのを懸念して、告発をした人もいるという。
これらの一連の報道は権力や権威に対して、批判的でありながらも客観的であり、しかも、正確で綿密な調査に基づいて、公共の利益に関わる重要な問題を取り上げた。とくに性差別や女性軽視といった日本社会に根深く残る社会的悪に対しては、報道を通して実態を明らかにし、問題提起をし続けることで、社会の意識改革に貢献した。文春だけの力ではないが、さらに政治と報道の在り方を変えようとする動きも胎動している。
一方、時々週刊誌は勇み足、取材不足、誤報、でっち上げなどの記事を掲載することがあり、当事者や関係者からはプライバシーや人権の侵害、スキャンダルの商業化、メディアの倫理観の欠如などといった批判が多い。
文春も例外ではなく、取材の手法は社会的な責任感や倫理観に欠けており、社会の暗部に切り込むというよりも、社会の暗部を作り出し、興味本位で売り上げを伸ばせば、それでよしとする手厳しい非難もある。
しかし、こういった批判は的外れである。報道によって明らかになった政治家や警察の不正や不祥事は、国民の信頼を裏切り、法治国家の原則を踏みにじったものである。また芸能界における虐待や不法行為は、若者やファンの夢や希望を奪い、文化産業の発展を阻害する。
文春はこれらの問題に対して真摯に取り組み、社会に対して責任ある報道を行っている。その姿勢は他のメディアやジャーナリストも見習うべきである。文春は社会を変えようとしているのではなく、報道によって社会が変わるべきだという点を示した。