賃上げと言うが。

 日本経済団体連合会(経団連)の十倉会長は、2023年の年頭の挨拶で賃金に関してデフレからの脱却と人への投資の促進による構造的な賃金引上げを目指し、このように企業行動を転換する絶好の機会であると強調した。
 今年の春季労使交渉では、物価動向を最も重視する要素で、企業の社会的責務として、持続的な賃金の引上げを会員企業などに広く働きかけることになるが、わが国全体で賃上げの機運を促すため、労働者の約7割を雇用する中小企業にも、賃上げの動きを広げていく必要があると話した。
 1991年バブル経済は崩壊し、経済は長期の経済停滞に陥り、雇用情勢も悪化を続けている。97年を頂点に労働者の賃金は低下し、賃金の格差も増大し、労働者の不満は募っている。
 そこへ3年もコロナ禍が続き、大幅に景気が悪くなった上に、昨年のロシアのウクライナ侵攻が契機となり、急激なインフレが始まった。国民経済など難しい話ではない。物価が上がってもそれを超える給料が上がれば、それで問題はない。あるいは給料は上がらなくても、物価が下がれば良く、また消費税の撤廃、所得税はじめ種々の税金の軽減や廃止によって、実質的に国民の負担を減らす方法もある。
 急速なインフレだけでも賃金は大きく目減りし、消費活動は萎縮した。昨今は物価が高すぎて、食費も不足する始末で、今冬は暖房を節約している家庭が多い。企業はこの程度の問題は熟知しているはずだが、賃金は上げないで、わざわざ製品を値上げして、消費活動を悪くする理由が分からない。この辺りは商売の1丁目1番地で。経団連も熟知している。
 こうなった以上、緊急の支援が必要なことは当然で、これほどインフレに至っては賃上げが根本的な解決策となる。今年の春闘で大幅な賃上げが実現しない限り、国民の生活水準が低下するのは確実であるが、これまでの実績を踏まえると、果たして筋書き通りに運ぶかどうか大いに疑問がある。
 また労働組合は長い間のデフレの影響で、賃上げよりも雇用確保という姿勢が定着し、物価上昇を超える賃上げという当たり前と言えば当たり前の問題を二の次にしてきた。しかし、これだけインフレ率が高くなると、さすがに労働者の不満が高まった。
 わが国最大の労働組合である日本労働組合総連合会(連合)は、今年の春闘では5%の賃上げを目指す方針を示したが、本来は10%程度を要求する局面でもある。連合は無理
してでも賃上げを求めるべきで、これが最大の成長戦略だと強く自覚して臨む。むろん、アルバイト、派遣社員、業務請負などの非正規雇用の賃上げを押し進め、消費全体を高めるように努力する。
 岸田政権は支持率低下に喘ぐ。昨年の臨時国会の総理所信表明演説で物価上昇に見合う賃上げの実現から、今年の年頭記者会見では、インフレ率を超える賃上げの実現へとその姿勢を一段と強めた。
 これで実質賃金がプラスになると思うのは、早とちりである。そもそも連合が言う賃上げの中には、定期昇給分(1.8%)とベースアップ分の両方が含まれている。利益がある企業は賃上げをするだろう。
 しかし、政府と会長が要請したからといって、利益がない企業はそれに応じる理由がない。できなければ国民の生活を第一にすべきで、今年こそ政府は消費税を廃止するくらいの覚悟を持つ。
 とにかく、正念場である。

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