経済活性化としての観光。

 2019年の訪日外国人分も含めた国内の旅行消費額は約28兆円で、実質GDP532兆円の5.2%を占めた。コロナ禍によって20年は11兆円、21年9兆円に縮小した。政府の観光局によると、19年の訪日外国人旅行者は約3188万人で過去最多に上ったが、20年は412万人、21年25万人に急減した。
 経済活性化の重要な項目の一つとして、大きく落ち込んだ観光産業の復活が期待される。このような苦境の中、政府は12月下旬を期限として、観光需要喚起策「全国旅行支援」を実施し、観光産業を活性化するため、国費約5600億円を投入する。
 岸田首相は22年10月3日の臨時国会で、訪日外国人の旅行消費額すなわちインバウンド消費を年間5兆円以上に引き上げる目標を打ち出した。年内には1ドル150円を超えそうで、来年以降は200円に向かう。円安はわが国の経済に不利に働くが、インバウンドによる消費拡大は強力な援軍となる。
 コロナ前の水準に訪日観光客が回復し、インバウンド需要が戻れば、訪日外国人の旅行消費額5兆円は容易に達成できる可能性が高い。しかし、目標達成には大きなブレーキがあり、それが現在の入国規制である。
 政府は年9月下旬新型コロナウイルス対策として実施していた入国時検査を原則撤廃する方針を示したにもかかわらず、本当の意味での入国規制撤廃は実現しておらず、現在でも入国にあたってワクチン3回接種の証明書かPCR検査などの陰性証明書が必要になる。経済を活性化したいというなら、円安の追い風を受けているインバウンド消費の拡大に力を注ぐべきで、入国規制の完全な撤廃が必要である。
 訪日観光客は実態が不詳な点があり、観光はそこそこで、買物に忙しく、あたふたと帰国する人が多いようだ。わが国の旅行代理店や観光地や宿泊施設など観光客に対応できていない、このような状況では長続きはしない。
 観光客数の増加に伴う経済効果を求める余り、国策と言える観光立国の将来像が見えない。低価格でゆったりと観光やリゾートを楽しみ、リピーターを増やすのが肝要で、これこそが本当の観光立国である。
 米国の未来学者のハーマン・カーン氏は1980年に、「二十一世紀は観光の時代であり、観光産業が世界最大の産業になる」と予言した。全世界の国際観光客数は2000年3.8億人、05年8.1億人、10年9.5億人、15年11.9億人、18年14億人と順調な推移をみせたが、20年は新型コロナ感染症のパンデミックによって4.1億人に急減した。

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