需給ギャップはマイナス。

 2023年12月1日、内閣府は需給ギャップの値を改めた。需給ギャップとは、難しく言えば、潜在的な供給力と実際の需要との差で、要するに供給と需要の関係と言える。潜在的な供給力とは経済がフル稼働した場合に生産できる最大の量で、実際の需要とは消費者や企業が実際に支出する量である。
 この需給ギャップは4~6月期で3年9カ月ぶりにプラスに転じ、プラス0.2%を示した。1兆円の需要超過になったが、人手不足、生産の低下、物流の渋滞などで大騒ぎした割には、実はこの3年半以上も内需の弱さから供給過剰だった。やはり、今期の実質GDP(国内総生産)は年率換算で前期より2.1%減少し、これをもとに需給ギャップを計算し直したところ、需要不足の状態に戻った。
 現在のわが国は需要不足と脱デフレのジレンマに直面している。需要不足とは、消費者や企業の支出が経済の生産能力を下回る状態で、供給過剰と言える状態では、需給ギャップが生じ、物価は下落する。
 価格は需要と供給の関係で決まる。需要超過であれば価格は上昇し、供給超過ならば価格は下がる。岸田首相が唱える脱デフレとは、この自然の摂理に逆らって、物価の下落を無理やり阻止し、コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻などの混乱に乗じて、一斉に物価を値上げし、インフレを実現する狙いがあった。
 こうなると、物価が高騰し、支出を抑制しようとする心理が強く働く。そのため消費者や企業の支出を抑え、購買力は大幅に低下した。さらに供給は過剰となり、経済と産業の停滞を招いた。
 この場合脱デフレを実行するには、先に賃金を増やすか、消費税の削減、廃止などで個人の所得を増やし、需要を確保する必要があった。賃金を上昇すれば消費者の所得が増え、消費税を削減すれば物価の水準が低まり、どちらも購買力を高める効果がある。
 理屈は簡単でも、これができない。賃金を上げるには企業の利益が増える必要があるが、需要不足の状態ではそれも難しい。消費税を下げるには財政の健全化が必要であるが、財政赤字が膨らんでいる。
 そうなれば、需要を増やすには、さらなる政府の財政支出や日本銀行の金融緩和などの政策が必要となる。しかし、わが国の財政赤字は累積し、これ以上の財政の出動は行い難い。また長期間にわたる金融緩和によって、処理に困るほどの金余りの状態であり、これ以上の金融緩和も続け難い。
 この難局ではGDPを増加させることに尽きるが、現状ではこれも減少傾向にある。これを挽回するには国際競争力を高め、自由貿易や規制緩和などが必要である。世界の状況はそれぞれの国が自国の運営と経済の維持で精一杯の鎖国状態と言える。
 需給ギャップもGDPとともに景気の状況を把握する重要な指標である。現在はマイナスを示し、過剰な供給力があるにもかかわらず、需要がそれに追いついていない。再び物価や賃金が下落し、デフレに向かう可能性が高い。

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