汚染水の海洋放出。

 2011年3月11日(3.11)東北地方太平洋沖地震による東京電力福島第一原子力発電所事故で発生した汚染水は、敷地内に貯留されてきた。それが23年8月24日13時頃から「ALPS処理汚染水」として海洋放出が開始された。
 今後放出は30年程度続くとされるが、永久に続く可能性もある。このALPS処理汚染水はトリチウム以外の核物質をほぼ完全に除去され、トリチウムは人体への影響はほとんどないとされる。しかし、これに反対の意見もある。その他にセシウムやストロンチウムなどの放射性物質が完全に除去されているかどうかも疑問が残る。
 放出については国内外の理解を得られている訳ではなく、むしろ反対が強い。むろん、甲状腺がんなどの悪性腫瘍の健康被害や風評被害に苦しんできた福島県の県民や漁業協同組合連合会を中心に国内の漁業者は、一貫して処理水の海洋放出に強く反対してきた。
 とくに地元の漁業者は原発事故後一時操業自粛を余儀なくされるなど大きな打撃を受けた。政府と東電は15年に福島県漁連に「関係者の理解なしには処理水のいかなる処分も行わない」と固い約束をしたにもかかわらず、それを反故にして海洋放出を強行した。これまで両者の不誠実な対応に何回も煮え湯を飲まされてきた漁連は怒り心頭に発している。
 国外では中国政府が韓国や太平洋島嶼国にも「海洋の放射能汚染を許すな」と共闘を呼びかけ、わが水産品の輸入を「全面禁止」とした。その影響は水産品だけではなく、最大の貿易相手国である中国で日本製品全体への不買運動が広がる可能性がある。この事態が東南アジア諸国に及び、世界的に拡大すると、わが国の経済には想像を絶する大きな影響を受けることになり、経済界の関係者は色を失っている。
 中国政府は「ALPS処理汚染水は正常の原発稼働の処理水とは異なる」と主張し、3月21日の外交部会見では、日本側のデータは改ざんや隠ぺいの常習犯である東京電力が作成したもので、日本政府が処理水と呼ぶ核汚染水は、国際社会を納得させることができるだろうかと疑問を呈した。
 中国も「全面禁止」など厳しい処置はとりたくないだろう。しかし、国民にも海洋汚染や人体への影響が波及する恐れがあり、国民は核汚染水の海洋放出には強い反対の意向を示し、政府としてこの勢いには逆らえない。
 韓国の国民も同様である。わが国にそのつもりはなくても、原子力災害の不始末を他国へ押しつける形で、他国にとっては大きな迷惑になる。本来、わが国は周辺の国々に平身低頭し、お願いする立場だが、それを科学立国のすることだから心配は不要だと言わんばかりの態度で放出している。

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