ドイツの脱原発完了。

 2023年4月15日、ドイツは歴史的な一歩を踏み出した。同国で最後まで稼働していた原子力発電所3カ所が全て停止し、「脱原発」が実現した。この決断は12年前に起きた東京電力福島第1原発事故が大きな影響を与えた。その後原発の段階的な廃止を決め、再生可能エネルギーへの転換を進めてきた。
 しかし、これには困難を伴った。ドイツは1961年から60年以上にわたって原発政策を推進してきた国で、原発は温室効果ガスを排出せず、安定した電力供給を可能にした利点があった。
 原子力発電の利点を失うことで、気候変動対策やエネルギー安全保障に影響が出る可能性がある。また廃炉作業や放射性廃棄物の処分など、脱原発後も解決しなければならない問題は多い。ドイツは「脱原発」を完了したとしても、その責任と課題を引き続き負わなければならない。
 ドイツは02年、原子力発電所の安全性への不信感から、段階的に原発を廃止する法律を可決した。しかし、10年にメルケル首相が指揮する当時の政権は、原発の運用期間を延長する計画を決めた。
 その翌年に日本で原子力発電所での大事故が起こり、政府は方針を変更し、速やかな廃止を目標とした。計画では22年末までに全ての原発を閉鎖する予定だった。しかし、今年2月にロシアがウクライナへ侵入し、エネルギー供給が危機的な状況に直面した。この事態に対処するため、ショルツ首相が率いる現政権は、残っている3基の原発を今月15日まで稼働させることを決めた。
 原発停止を急ぐあまり、石炭火力に頼る政策に国内からは批判が高まった。原発の立地地域では、電力供給や核廃棄物の処理に関する不安を引きずりながらも、住民は原子炉の停止を見守るしかない。
 コロナ禍とウクライナ戦争という厳しい現実の中で、ドイツは世界に先駆けて原子力からの脱却を実現し、未来志向の選択をしたと言える。驚異的で賞賛に値する。これに対して、わが国は原発事故の教訓をどう生かしてきたのか。国民と政府との間には深刻な信頼関係の欠如が見られ、原子力政策についての民主的な対話や決定過程が不十分である。
 わが政府は自らの利益にかなうことしか考えず、強引に政策を押し通している。国民の生命や健康、環境や資源の保護など、重要な問題に対しては無関心であるばかりか、逆に損害を与えている。
 現実に即した改革や改善に取り組まず、時代遅れの制度や法律を堅持している。その背景には、自分たちの地位や権力、利権を守るための姿勢が見え隠れしている。このような姿勢ではわが国の国力は低下する一方で、国際社会の信頼や尊敬を失う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?